自動運転車を社会に受け入れるための新しい制度として、「自動運転車のための免許制度」(以下、自動運転車免許制度)が提案されている。自動運転車のオーナーやドライバーを対象としたものではなく、自動運転車そのものを対象とするまったく新しい免許制度である。提言しているのは、自動運転やロボットなどの先端IT(情報技術)に詳しい花水木法律事務所の小林正啓弁護士。交通事故の減少が期待できる自動運転開発はどんどん進めるべきであり、そのために自動運転車免許制度が必要と説く。必要性とメリット、実施イメージを小林弁護士に聞いた。


――自動運転車のための免許制度を提案している。いったいどのような免許制度なのか。


小林 日本の公道で自動車を運転する人は運転免許を取得しなければならない。日本のドライバーは道交法を順守する義務があるが、その義務の履行を裏付ける制度として自動車免許制度が存在している。自動車免許の取得は、道交法を順守することと、安全にクルマを操作できる運転技能があることについて、国がドライバーに求めたルールである。

[画像のクリックで拡大表示]
花水木法律事務所の小林正啓弁護士

こうしたことから、将来、自動運転車を社会が受け入れるには、今の運転免許制度と同様に、自動運転車のための免許制度が必要になるとみている。道交法を順守し、交通安全を守って運転操作できる最低限の技能を備えていることを、自動運転車が何らかの形で証明する必要があるからだ。

この制度が誕生すれば、道交法の順守義務と運転操作の安全な実施に関する基準をクリアした自動運転車だけが、日本の公道を走ることが許される。日本の国民と財産を守る上で、なくてはならない制度だと考えている。


――日本固有の制度をつくるということか。


小林 日本に道交法があるように、世界各国にも同様の法律が存在するが、それらは同一ではない。ジュネーブ条約に代表される国際的な交通ルールや国際標準は存在するが、国によって異なるところも多い。交通標識も国によって様々だ。ルールをつくり、それをどう守らせるかはそれぞれの国が決めている。

自動運転車の開発は世界中の企業がそれぞれ独立に競争しながら進めている。ドライバーと歩行者の交通ルールの守り方にもお国柄があるし、そもそもドライバーの運転操作に優劣があるように自動運転車の運転操作にもうまいと下手があるだろう。将来、米国やドイツといったクルマ先進国だけでなく、アジアや南米の企業が製造した自動運転車も世界の市場に出回ることになる。

そのような状況の中で、日本の国民を交通事故から守るためには、日本の道交法を守り、安全な運転能力を持つ自動運転車かどうかを厳密にチェックする必要があるはずだ。


――現行制度を拡充するような形では不十分なのか。


小林 国土交通省が管轄する道路運送車両法と省令は、自動車のハードウエアについて、満たすべき物理的なスペックを細かく規定している。これらのスペックは、究極的には安全を目指すものであるが、直接的には部品の仕様や強度などを規定していて、それさえクリアすればよい。

これに対して、自動運転車が備える交通法規順守と安全運転の能力は、ソフトウエアであるから、部分的ではなく全体を試験しない限り、安全性は確保できない。そのため、ハードウエアに対する安全基準の延長では対処できないと考える。


――自動運転車免許制度が導入されると、どんなメリットがあるか。


小林 自動運転車免許制度は、その自動運転車の乗員や歩行者、他のクルマやバイクの乗員の安全を確保する上で必要な制度である。同時に、自動運転車のメーカーにとっても大きなメリットがある。それは、自動運転車が事故を起こした場合の法的責任からの解放だ。

いくつもの自動車メーカーがドライバーレスの自動運転車開発を進めている
写真は独ダイムラーが将来の都市交通のビジョンを示すために開発したコンセプトカー「smart vision EQ fortwo」。ドライバーレスで動作することを前提とする完全自動運転車で、ハンドル、アクセルペダル、ブレーキペダルは見当たらない