現在、交通事故原因の8割以上は人為ミスともいわれているから、自動運転車の普及は、事故率を劇的に下げると予想されている。一方で、ドライバーのいない自動運転車が事故を起こすと、メーカーの法的責任が問われやすくなる。メーカーが法的責任を恐れて自動運転車の製造販売を萎縮してしまえば、交通事故が減らない。これでは本末転倒だ。

したがって、自動運転車を普及させ、事故を減らすためには、運転免許を取得した自動運転車の事故について、メーカーの免責特権を設ける必要がある。


――免責特権とは、「自動運転車が事故を起こしても、メーカーは責任を問われない」ということか。


小林 そうだ。自動運転車の公道走行に当たって、自動運転車免許の取得を義務づける代わりに、事故を起こしてもメーカーの法的責任を原則として免除する。免責制度がないと自動運転車の事故責任は、自動運転車のメーカーやメーカーのプログラマーが問われることになり、開発意欲がそがれかねない。免許制度をつくり、その取得を義務づければ、安全性を高める制度として活用できるだけでなく、開発者がクリアすべきハードルを明確にできるので、開発が活性化するはずだ。

メリットは他にもある。まず「粗悪な」人工知能(AI)を搭載した「安価な」外国製自動運転車を排除できるので、国内自動車メーカーの安全技術を守る防波堤の役割を果たすことができる。加えて、自動運転車のAIが一定以上の安全性を有することを担保できるので、自動車保険を適用しやすくなることだ。


――試験はどのようなものになると考えているか。


小林 試験会場のテストコースを自動運転車に走行させる実技試験と、試験官役のコンピューターと自動運転車をネットワークでつないでサイバー空間で実施するサイバー試験になるだろう。サイバー試験では、あらゆるケースを想定したシミュレーション環境をサイバー空間に用意し、そこを自動運転ソフトでバーチャル走行してチェックを受けるというものだ。


――実施に当たって課題はないか。


小林 懸念は二つある。一つは、適正公正な試験方法を、特にサイバー試験において確立する作業が技術的にかなり難しいと予想されること。もう一つは、試験に合格しうる運転技能の水準の決定。ある程度の国際標準化が求められることになるだろうから、国際的な交渉が必要になるだろう。


――試験の実施母体は誰か。


小林 現行法制上、自動車のハードウエアについて安全基準を設け、その順守を監督しているのは国土交通省だから、自動運転車についても、ハードウエアに関しては国土交通省の監督となるだろう。

これに対して、AIの運転技能や交通法規順守の能力を試験することになる「自動運転車免許制度」は、人間と同様、警察の管轄となるだろう。


――国際的な制度設計の確立を待つ必要はないのか。


小林 この制度は、日本国内の公道を走行する自動運転車を対象とするので、どのような制度設計をするかは日本が独自に決めることになる。もちろん、国際標準化も並行して進める必要がある。国内的に高い安全基準を確立できれば、国際競争でも優位に立てる。


――自動運転車免許制度が実施されてメーカーが免責になったとき、事故被害者の救済はどうあるべきか。


小林 現行法上、交通事故の被害者が救済を受けるためには、加害者の過失またはクルマの欠陥を証明する必要がある。任意保険金の支払いも、加害者側に過失のあることが前提となっている。

しかし、自動運転車のAIの「過失」や「欠陥」を被害者に証明させるのは、事実上不可能だ。だからといって、被害者に泣き寝入りをさせたのでは、「自動運転車にひかれた方が損」ということになりかねない。そうなれば、結局、自動運転車は社会に受け入れられないだろう。

こうしたことから、自動運転車が起こした事故の被害者に対しては、AIの「過失」や「欠陥」を証明しなくても、救済を受けられる保険制度が必要になると考える。具体的には、事実上の無過失責任として運用されている自動車損害賠償保障法(自賠法)に基づく自賠責保険と、対人・対物保障無制限の任意保険をかけ合わせた保険制度になるだろう。

自動運転社会を実現するには、安全性が確認された自動運転車だけに走行を許すことに加えて、万一の被害者救済にも十分な手当てが必要だ。自動運転車免許制度の新設と保険制度の見直しは、個別に議論すべき部分は多いものの、自動運転車の普及と被害者救済の料率という観点から見ると、一緒に議論すべきテーマだと考えている。

この記事は日経BPクリーンテック研究所の研究員が執筆し、日本経済新聞電子版のテクノロジー分野「自動運転」に掲載したものの転載です(本稿の初出:2018年3月28日)。