米ウーバーテクノロジーズ、東南アジアのグラブ、中国の滴滴出行(ディディチューシン)などのオンデマンド配車事業者がモビリティーの世界で存在感を高めている。オンデマンド配車サービスが世界中で多くのユーザーを獲得したのは、既存のタクシーに比べて割安であることに加え、スマートフォン(スマホ)アプリを操作するだけでユーザーが求める場所に好みのグレードの車両を素早く配車するという利便性の高いサービスを提供できているからにほかならない。オンデマンド配車事業者は人工知能(AI)とビッグデータを駆使してクラウド上に高度な配車システムを構築している。これは自動運転車によるロボタクシーサービスを実現するときの中核技術となる。

国内でタクシー配車アプリ「タクベル」の事業化を進めるディー・エヌ・エー(DeNA)は、仏イージーマイルの自動運転バスを用いた「ロボットシャトル」、ヤマト運輸と共同で次世代物流サービスを実現するプロジェクト「ロボネコヤマト」、日産自動車と共同で無人運転車両を活用した新しい交通サービス「Easy Ride(イージーライド)」など、自動運転車の実証実験で豊富な実績を持つ。サービス開発事業者から見た国内における自動運転車の実用化の現状と課題を、DeNAオートモーティブ事業本部事業推進部の山本彰祐部長に聞いた。

シェアリングを加速するのが自動運転

―様々な形で自動運転車の実証実験に取り組んでいる。どのような考えで事業化を進めているのか。


DeNAオートモーティブ事業本部事業推進部の山本彰祐部長(写真:新関雅士)

「DeNA は2015年にモビリティーサービスの領域に進出した。狙いは『Anything, Anywhere』。いろいろな人の移動を楽に、自由にしていきたいという思いでやっている。そして、それを実現する上で自動運転はとても大きな意義があるとみている」

「モビリティーの世界では、今後重要視すべきことをまとめた『CASE(つながる車、自動運転、シェアリング、電動化)』という言葉が広く知られている。我々はA(自動運転)とS(シェアリング)が重要だとみている。なかでもこれからどんどん進展するとみているのはシェアリングだ」

「なぜなら、一般の乗用車の稼働率が今は数パーセントにとどまっているからだ。シェアリングが広まれば、駐車場にとまっている自家用車が、移動サービスを提供するクルマとして使われるようになる。そうなれば、クルマの稼働率はどんどん高まり、貸し出す人は収入を得て、借りる人は割安の移動サービスを利用できるようになる」

―シェアリングは、借り手と貸し手をマッチングさせるシステムをクラウドにつくることで実現する。これと自動運転車の関係は。

「あまり使われていない資産というものは世の中にはそれほどない。だから資産が活用されていないなら、それを有効活用しようというシェアリングに向かう流れは自然なことだと考える。そして、モビリティーの世界において、このシェアリングの動きを最大限に加速するのが自動運転だとみている」

日産自動車とのイージーライドで用いた自動運転車両(出所:ディー・エヌ・エー)

「だから、自動運転関連でいろいろな取り組みをしてきた。仏イージーマイルの完全自動運転車両を買ってきてサービス運行したり、運送業の現場ではどのような使い方があるのかをテストしたり、日産自動車と組んで自動運転車両が使えるようになったらどのような移動サービスができるのかを実験したりしてきた」

規制がなければ稼働率高められる

―実験して分かったことは何か。

「やってみないと分からないことがいろいろあるということを知った。例えば物流サービスなどに取り組んだことでそこで生じている課題も見えてきた」

「一例としては、人を運ぶ事業者とモノを運ぶ事業者の間には規制があってそれぞれの資産をうまく融通し合うことができない。人が移動する時間帯はだいたい決まっているから、その時間帯は人を運び、人が移動しない時間帯に同じ車両を使ってモノを運べばいい。田舎なら朝と昼、通院の時間帯に移動が集中するから、それ以外の時間帯にモノを運ぶようにすれば効率がいい。だけど規制があるから簡単にはいかない」

―規制がなければ、異なる用途で車両をシェアリングして稼働率を高められるということか。

「そうだ。もちろん、人とモノを一緒に同時に運ぶ(貨客混載)のは危ない。荷物が崩れたらどうするのか、といった解決すべき問題がある。それでも『人とモノを同時に乗せることはありません。時間帯を分けて、それぞれを別々に運びます』という運用なら、荷崩れの問題はクリアできるだろう。同じ車両をどちらの輸送にも使えるから、車両の稼働率が上がって、みんなが便利になるはずだ」

―法律関連など、新しいモビリティービジネスを妨げるハードルはたくさんあるのか。

「ハードルがあるかどうかというより、『これまでこうやってきたから、これからもこうしなければならない』という意識があることが課題なのではないだろうか。今の実態にそぐわないやり方であっても、実際にそうした実例があればそれを前提に考えるのが当たり前になっている。自動運転の実証実験にしても、自動運転の話に進む手前でつまずくことが少なくない」

「まずあるべきサービスを考え、それに向けてどんなハードルがあるのかを議論すべきだが、実際は『みんながこうやっているから、我々もその通りにやらなきゃならない』という観点で議論が進んでしまうことが多い」

「規則があるからできないと言われている案件であっても、実際に規制の詳細をみてみると明確に禁止しているわけではないことがある。誰かのサービスをみて、勝手にできないと思い込んでいるケースは少なくない。だから、あるべきサービスをしっかり議論することに加えて、関連規則の詳細も調べれば、規則の範囲内で実現するための新しい解が見えてくることもある」