既存交通のスマート化進める

―モビリティーサービスのあるべき姿をどう考えているのか。

「既存の交通にインターネットとAIの技術を加えることで、より便利になっていくのではないかと考えている。我々はモビリティーのスマート化と呼んでいるが、オンデマンドで(乗りたいときに)、今いる場所に、移動サービスを提供するクルマを素早く呼び出せる時代が来ると考えている。一人一台スマホを持っている時代だから当たり前のこと。タクシーのスマート化を目指してタクシーの配車アプリのサービスを始めており、既存交通のスマート化を少しずつ進められればと考えている」

タクシー配車アプリ「タクベル」の利便性に関するユーザーアンケートの結果と操作画面例(出所:ディー・エヌ・エー)

「ユーザーにモビリティーのスマート化を実感してもらうには、まずは、自分がいるところや近くの場所を指定すればその場所に呼び出せるとか、何分待てばクルマが来るのかをリアルタイムで知らせるとかがある。配車システムが街中を走っているタクシーと連携しながら適切に配車することになるので、全体としての配車効率がさらに高まる。いつでもどこでも、手軽に移動できるようになるだろう」

―DeNAはモビリティーサービス事業の中で、どんな役割を担うのか。

「我々が得意なのは、ユーザーに受け入れられるサービスを設計すること。モビリティーサービスを使ってくれるユーザーに『これ、すごい便利だね』と思ってもらえるサービス体験(UX)を設計できることが一番得意だと思っている。だからいつも我々は、便利なサービス体験をつくることを起点にして、『じゃあ必要なものは何か』という視点でみている」

「『安心・安全・快適に人を乗せて運ぶ』という部分は得意じゃない。だから、地域の交通事業者と一緒にやっていきたいと考えている。サービス開発は本業だから、スマホアプリや、『ボタン一つで何かができる』といったものは作成できるので、ユーザーが操作するプロダクトの部分と、全体のサービスの設計を担当していきたい。また、自治体や地域の事業者とウィンウィンになる関係をきちっとつくりながら進められるところも強みだ」

「サービスをつくっていく上で重要なのは、サービスに関わる事業者全員がウィンウィンになること。どのようなスキームでサービスを設計するかについては、地域やサービスの種類によって異なると考えており、それは一つひとつ丁寧に関係各社の話を伺いながら、全員がハッピーになれるスキームをつくっていく必要があると考えている」

地域に合ったサービスをつくる

―多くの自治体と実証実験を実施している。狙いは何か。

「交通は地域によって特性が出るものと考えている。インターネットとは違う。米フェイスブックや米アマゾン・ドット・コムをみると分かるように、インターネットの世界はグローバルに一気に広がる。これがモビリティーになると様子が異なる。ウーバーは東南アジアで事業を売却した地域もあるし、インドにはオラが、東南アジアにはグラブが、中国には滴滴出行が、欧州にはマイタクシーがある。モビリティーは、ローカルな交通の特性、規制、人々の習慣などの影響を強く受けるということなのだろう」

「こうしたことからモビリティービジネスでは、地域のことを一番分かっている自治体や地域の事業者と連携することがとても重要だと考えている。自治体や地域の住民の方々と直接議論を交わしながら、そこに合ったサービスをつくっていきたい」

「国内でも地域によってサービスのつくり方は変わってくる。我々が神奈川県で実施しているスマホで手軽にタクシーが呼べるタクベルは、都市部では受け入れられているが、過疎地ではサービスの仕様を変更しないといけないかもしれない」

「実際に過疎地で話を聞いてみると、高齢者の方が多いこともあって『スマホを使うんですか?』という話も出てくる。鉄道に乗る人の多い都市部なら、決済はSuica(スイカ)などの交通系ICカードで大丈夫かもしれないが、鉄道に乗る人が少ない地域では『スイカ?』となる」

「過疎地でモビリティービジネスを考える場合、料金徴収は月額固定とか、口座引き落としとか、その地域の人々にとって慣れたやり方を考えなければならないかもしれない。その地域に住んでいる人の考え方と移動ニーズを考慮しなければ移動サービスは設計できない。生活習慣や考え方、移動ニーズは地域によって違いが出てくる。だから移動サービスは地域の特性に合わせてつくらなければならない」

―新しいモビリティーに取り組もうとしている自治体に必要なことは何か。

「『やる気』だ。これまでやったことのないことをやるわけだから、何よりもやる気が大事だ。新しいモビリティーに対しては、地域の方々も、それぞれに思いがあるので、全体の調整作業は大変になる。分からないことがいっぱいある中で、一緒になって泥まみれになって転がりながら前に進むようなもの。そのときに転がる原動力となるのは、やる気しかない」

「我々は秋田県仙北市でドライバー席のない自動運転バスの公道テストを日本で初めて実施した経験を持つが、これは仙北市長が自ら音頭を取って進めたからこそ実現できた。地域の皆さんに快適なサービスを提供したいという想いが重要であることを、そのときに改めて感じた」

―現段階で自動運転社会実現に一番足りないものは何か。

「今足りないのは、自動運転技術そのものだと感じている。やはり、一般の交通は多種多様な交通環境があり、これら全ての環境において安心・安全を確保した上で車両運行することは簡単ではない」

この記事は日経BP総研 クリーンテック ラボの研究員が執筆し、日本経済新聞電子版のテクノロジー分野「自動運転」に「自動運転が作る未来」として掲載したものの転載です(本稿の初出:2018年12月10日)。