――高精細なデジタル地図がなければ自動運転はできないのか。

できない。自動運転をするには、自分がどこにいるのか、そして周囲にはどのような形状の物体があるのかを5cm、10cmの精度で知る必要があるからだ。今のカーナビで使っている地図とGPS(全地球測位システム)ベースの自社位置測定では数メートルの誤差が生じてしまう。これでは安全に走れない。

実際、米Google(グーグル)をはじめとする自動運転の実験をしているベンダーは皆、自力でデジタル地図作成に取り組んでいる。デジタル地図がなければ実験できないからだ。ただし、自動車メーカーは世界中の地図をすべて自力で作ろうとしているわけではない。例えば欧州では、これまでカーナビ向けの地図を提供してきた地図ベンダーが高精細なデジタル地図の作成に乗り出している。多くの自動車メーカーは、それぞれの地域に応じたデジタル地図を専門の地図事業者から購入して使うことになるだろう。

――日本では高精度なデジタル地図作りが始まった段階にあるが、それが完成するまで自動運転車は登場しないのか。

高速道路と専用道路なら、対象となる道路が限られているから、専門の地図事業者でなくても高精細なデジタル地図を作ることができるだろう。自動車メーカーが地図を用意するかもしれない。しかし一般道となると話は別だ。将来、日本中あるいは世界中で自動運転車が走り回る時代では、カーナビの地図とは比較にならない精度とデータ量の地図を用意しなければならない。

自動運転の開発は二つのフェーズがあると思う。一つは2020年頃までをターゲットとするもので、対象は高速道路や専用道路だ。それぞれのベンダーが独自のやり方で進められる。次のフェーズは一般道が対象となる。ターゲットは2025年頃。こちらについては、すべての技術を一つのベンダーが自力で作り上げることはできないだろう。デジタル地図にしても、フォーマットなどが標準化され、それに沿った形での提供が求められる。すでにそうした標準化に向けた取り組みも始まっている。

――デジタル地図大手の独HEREと共同で実証実験を予定しているが、その狙いは何か。

我々のライダーと地図を使った、自動運転に必要な位置推定と地図の更新技術を欧米で活用すれば、HEREの情報収集やデータ更新にも役立つのではないかという話になり、一緒に実証実験することになった。

デジタル地図は最初に作る作業も大事だが、それを常にアップデートして最新の状態を保つことも重要だ。我々のソリューションがあれば、地図製作のための特別仕様の測定車を大量に走り回らせなくても、ライダーを積んだ一般の自動車から得た情報を使ってデジタル地図を更新できる。我々は、地図会社のインクリメントPを子会社に持っており、これまで培ってきた地図作りのノウハウがある。実験ではそれを実証していきたい。

――自動運転向けセンサーの開発競争は激化している。開発したライダーの特徴は何か。

自動運転ではライダーのほかに、ミリ波レーダーやカメラなど異なる方式のセンサーが用途別に用いられている。ライダーの特徴は他のセンサーより距離測定の精度が高いことにある。この正確な測定技術は自動運転に欠かせないので、今の自動運転実験車両はどれもライダーを装着して走行している。

ライダーは当初、大きくて高額な汎用製品しかなかった。そのままではすべての自動車に装着できない。そこで我々はMEMS(微小電子機械システム)技術を活用するなどして、小さく安く作れるメドを立てた。

――ライダーの技術開発力がパイオニアの自動運転に関する競争力の源泉なのか。

それもあるが、もっと大事なことがある。ライダーが測定したデータとデジタル地図を組み合わせて正確な位置を推定するデジタル処理技術だ。ここに注力している。なぜなら、自車位置推定に用いる二つのデータ、「地図情報」と「測定データ」の組み合わせ方は、技術の進歩とともに変化するものだからだ(図1)。

(図1)自動運転に向けた地図とセンサーの組み合わせ(出所:パイオニア)

デジタル地図の情報量がプアならライダーは高性能でなければならない。逆に言えば、ライダーの性能が上がるなら、デジタル地図の情報量を抑えることができる。デジタル地図は精度が高いほど、ライダーは性能が高いほど、維持や開発にコストがかかる。だから、ライダーが高性能になることを想定して、最適なバランスや組み合わせに応じた処理技術を開発している。我々の製品より低価格で高性能のライダーが登場したら、そのライダーを活用したソリューションも開発する考えだ。

――自動運転が浸透したとき、カーナビはどうなると考えているか。

自動運転における必須機能がナビゲーションであるため、次第にカーナビの機能は自動運転機能の中に取り込まれていくだろう。ただ、“カーナビ”という個別商品形態がなくなったとしても、ナビゲーションという機能(モジュール)は、情報提供、操作性、表示の豊かさなどで進化していくはずだ。

※この記事は日経BP総研 クリーンテック研究所の研究員が執筆し、日本経済新聞電子版のテクノロジー分野のコラム「自動運転」に掲載したものの転載です。