2018年12月、米グーグル系のウェイモが米アリゾナ州フェニックスで完全自動運転車による有料のオンデマンド配車サービス「Waymo One(ウェイモ・ワン)」を開始した。利用者とエリアを限定しているものの、いわゆる「自動運転タクシー」の実用化といえるだろう。ただし、これが世界初の自動運転タクシーサービスであるとはいえない。日本にも運行実績があるからだ。

18年8月、タクシー事業者の日の丸交通(東京・文京)は自動運転技術の開発を手掛けるZMP(同)と共同で、自動運転タクシーサービスの試験運行を実施した。12日間の期間限定、六本木─大手町間の固定ルート、1500円の固定料金という限定条件での試験運行であるが、合計95回・約350人の乗客を実際に運んだ。

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日の丸交通の富田和孝代表取締役社長(写真:北山宏一)

「自動運転はタクシードライバーの雇用を奪う」「敵に塩を送る行為だ」「運行の安全はどうやって保証するのか」――。タクシー事業者による自動運転タクシーの試験運行には、業界から批判の声が上がったという。こうした声に日の丸交通の富田和孝社長は「タクシー業界にとって自動運転は救世主。人手が少ない中、リソースをフル回転させて営業できる」と発想の転換を呼びかける。背景には、ライドシェア解禁への危機感、ドライバー不足、働き方改革など、タクシー業界を取り巻く厳しい経営環境がある。タクシー事業者が描く自動運転の未来を富田社長に聞いた。

ライドシェア解禁に危機感

―なぜ自動運転タクシーに取り組むのか。

「タクシー業界の未来に危機感を抱いているからだ。要因は5つある。第1はライドシェアの解禁。これを認められてしまうと、タクシーが危機的な状況に陥ってしまう。他には自動運転の到来、深刻な人手不足、ドライバーの高齢化、そして働き方改革の推進がある。どれも重要かつ直面している課題だ」

―タクシー事業の現状を教えてほしい。

「この7年間、都内のタクシーの平均稼働率は下がり続けている。17年度の都内の法人タクシー稼働率は76.8%。車両が100台あっても、20台以上は動いていないのが実情だ。原因はドライバーのなり手が少なくなっていること。ここに働き方改革の動きが加わるから、ドライバーの出番数は減っていく。車両の稼働率が下がる傾向は続くだろう」

「高齢化問題も頭が痛い。ドライバーの平均年齢は59歳。今は75歳以上が3.7%だが、10年後には35%くらいになる。ドライバー不足が加速することは間違いない」

「その一方でインバウンドは増えているし、ビジネスチャンスはたくさんある。公共交通機関は需給のバランスが大事だから、タクシー需要に対してタクシーの供給量が足りなくなることは問題だ。すると『やはり日本もライドシェアを解禁すべきだ』という声が出てきかねない。私は、このタクシーの供給量不足を自動運転で解決したいと考えている」

「タクシー業界にとって自動運転は救世主だ。これだけ人手がない中、高いお金を出して人を雇って黒字を出すのは難しい。自動運転があれば、車両をフル稼働させることができる」

「ただタクシー業界全体で自動運転を歓迎しているわけではない。自動運転に脅威を感じている人は少なくない」

―これだけ人材不足でも自動運転を脅威と見る声があるのか。

「ある。17年6月にZMPと共同で20年での実用化を目指して自動運転タクシーに取り組むと発表したが、タクシー業界から賛否両論があった」

「我々は自動運転とタクシーは共存できるとみている。だから少しでも早く共存できる関係をつくるために法整備の提言などをやっていくべきだと考え、実証実験にも乗り出した。実証実験を実施できた意義は大きい。これによって、自動運転を認識してもらうことができたし、少しずつ前向きに捉えていただけるようになった」

六本木の試験運行で達成感

―実証実験の反響は?

「驚いたのは、乗車を希望する声が多かったことだ。1日4往復で12日間だけのテストだったが、その限られた運行スケジュールの中で1500人くらいの応募があった。マスコミの取り上げ方が大きく世界中からいろいろな問い合わせがあった。私はタクシー業界に『将来に希望を持てる業界である』ことを訴えたかったが、自動運転がこんなに世の中から注目されていたのだと感じた」

実証実験で都内の公道を走行中の自動運転タクシー(出所:日の丸交通)

「実証実験は、都心のど真ん中での試験運行だったので、『本当にできるのか』という緊張感を持って取り組んだ。準備はかなりしていたが、実際にやってみるといろいろなことが起こる。幅寄せされて危険を感じたこともあったが、違反や事故もなく、無事に終えることができた」

「想定外のことについては、それらの経験をデータとして取り込み、プログラムに反映させることができた。こうした学習によって、交通状況の良い時間帯においては、ドライバーが全く介入することなく目的地に到着できた。この達成感は大きい」

―自動運転タクシーサービスの実用化スケジュールを知りたい。

「実証実験は19年で終わらせ、20年には実用化したい。具体的には『レベル4』の完全無人化での営業を目指したい」