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「2020年にレベル4、完全無人化での営業を目指す」と語る日の丸交通の富田社長(写真:北山宏一)

「20年の無人サービスは、ルートを設定した2点間を結ぶ形になるだろう。今のタクシーのように、目的地を伝えたらどこにでも連れていってくれるというオペレーションは難しい。あと10年以上はかかるだろう」

「実証実験で走行した六本木―大手町間のルートは最短距離ではない。乗降の安全性を確保し、自動運転が安全に走行できる道を選択してルートを決めた。実証実験で安全性を証明していかなければ、国土交通省も警視庁も各自治体も営業を許可してくれない。今は一歩一歩、実績を積んでいるところだ」

「自動運転タクシーはタクシー業界が供給量をコントロールしていくべきだと考えている。いろいろな企業が参入すると、もうけ主義でどんどん供給するところが出てくる。そうなると、交通渋滞を起こしたり、サービスレベルが低下したりするかもしれない」

「自動運転タクシーの走行時間帯を決め、データで管理して適切な量をマーケットに投下することが、公共交通機関として大事なことだと考える。早朝のタクシーはなかなか供給できないし、土日祝日についても働き方改革の時代が来ているのでこれまで通りとはいかない。自動運転タクシーサービスが活躍できる場面はたくさんあるとみている。供給量をコントロールすることを前提にタクシー業界がイニシアチブを握り、法整備を提案していきたい」

プロのドライバーは財産

―ドライバーが運転するタクシーと自動運転タクシー、どのように共存させるのか。

「自動運転タクシーが導入されると、ドライバーが不要になるという議論はあるが、私はそう考えてはいない。自動運転タクシーを運行できるようになったら、人間のドライバーがいるからこそできるサービスを強化したいと考えている。例えば、観光案内、病人や高齢者のケア、お子様への対応などに特化したサービスを提供していきたい」

「タクシー事業者の財産と強みは、優秀なタクシードライバーを抱えていることと、ドライバー教育にある。自動運転タクシーは、乗客の介助やトランクサービス、ドアサービスができないし、乗客に応じた走り方も難しいだろう。『気持ち悪くなったから、ゆっくり走って』とか、『急いでいるのでスピードを上げて』とか言う人もいる」

「私は、乗客に安心感を与えるプロのタクシードライバーならではの配慮の行き届いた運転技術と顧客サービスに絶対的な価値があると考えている。特に日本のタクシーは、世界最大の旅行情報サイトから世界でナンバーワンという評価を獲得した実績がある。自動運転技術を取り込んででも、日本のタクシーの良い文化を守り、伸ばしていきたい」

「ホテル業界を例に出せば、ラグジュアリーなホテルでフルサービスを求める人もいれば、カプセルホテルで十分という人もいる。自動運転は、単純に移動できればいいという人に向けて提供していきたい」

―自動運転タクシーの自動運転技術の完成度はどうか。

「自動運転タクシーの導入に当たって、いくつか自動運転技術を見比べたが、ZMPの技術が突出していた。彼らとだったら20年にレベル4での実用化を目指せると考えた」

「実証実験したことでサービスに向けた技術的な課題も見えてきた。技術的な課題は4つある。信号検出と交差点進入、障害物の認識と回避、混雑時の車線変更、そしてアクセルとブレーキの円滑な操作だ。課題がはっきりしたので、それらを技術と運用の両面でカバーして解決し、本番サービスにつなげていきたい」

自動運転車、価格が課題

―自動運転タクシーサービスの実用化に関する経営面での課題は何か

「車両価格だ。今は1台つくり上げるのにも相当な人数がかかって、プログラムから何からつくっているので、どうしても既存の車より相当高い。これをベースに運賃を組み立てれば、かなり高い料金になる」

「トヨタ自動車の『ジャパンタクシー』は400万円以下だけど、どこも助成金を得て購入している。これが自動運転車両となると、1000万~2000万円のレベルになる。タクシー会社が何百台、何千台というボリュームで自動運転車両を購入するのは無理だ。だから助成金を使いながら、公共交通手段として、オペレーションに組み込んでいく構図が必要だ」

―法律面での課題は何か。

「道路交通法では『運転席に人がいる』という前提がある。まずはここを変えなければならない。道路運送法関連にしても、自動運転を考慮した上で、安全面の規制、運賃制度、供給判断などを見直す必要があるだろう」

「例えば運賃は、基本的に総括原価方式(サービス提供コストに適正利潤を乗せて算出する公共料金の典型的な算出手法)で認可されているが、これだと自動運転車両が高額だから、自動運転タクシー料金は途方もない金額になり、高すぎて公共交通機関として成立しなくなる。まだ早いと言われるが、いろいろな法律改正に向けて、そろそろやらないといけない時期に来ている」

―需給に応じて料金を変えるダイナミックプライシングの可能性は?

「やってみたいと考えている。もちろん、数キロメートル行くのに何万円というような料金になるのは問題だから、例えば上げ幅下げ幅を10~20%にするとかの制限は必要だろう。閑散期に少し安くすることでお客様が増えるのなら、私はやってみたい」

「昨年末『ゼロ円タクシー』が登場した。これは我々にはない発想。IT(情報技術)企業のディー・エヌ・エー(DeNA)ならではの発想で実現された。こうした発想は既存タクシー事業者からはなかなか生まれない」

「我々タクシー業界にはかなり規制があるから、やりたいとも思っていなかった。そこにDeNAから提案があり、『それもありなんだな』という認識でスタートした。そうすると、今までタクシーに関心のない人まで利用してくれる。『タダだったら乗りたい』『安かったら乗りたい』という潜在的な需要があることを確認できた。だから、料金の在り方や決め方も、これまでのやり方を変えてでも、新たな需要を掘り起こしていきたい」

この記事は日経BP総研 クリーンテック ラボの研究員が執筆し、日本経済新聞電子版のテクノロジー分野「自動運転」に「自動運転が作る未来」として掲載したものの転載です(本稿の初出:2019年2月4日)。