路線バス事業の経営は厳しい。2018年11月に国土交通省が公開した調査資料によると、国内にある保有車両30両以上のバス会社237社のうち169社は17年の事業収支が赤字である。大都市部のバス会社なら過半数は黒字となるが、その他地域のバス会社は165社中141社、85.4%が赤字だった。

路線バスの世界で自動運転が実用化されれば、ドライバー不足を解消できるだけでなく、ドライバー人件費の削減、正確で安全な運転操作による事故防止、人件費を追加することなく深夜や休日に運行できるなど、経費節減と売り上げ拡大を同時に実現できるかもしれない。

イーグルバスの谷島賢社長(写真:北山宏一)

埼玉県川越市に本社を置くイーグルバスは、乗客数のデータ収集と分析に基づいた運行スケジュールの見直し、自治体と連携した「ハブ&スポーク方式」の街づくりの実践など路線バスの改善モデルをつくり上げた実績を持つ。筑波大学大学院で客員教授として「交通サービスデザイン」の講義も受け持つイーグルバス社長の谷島賢氏に、路線バスの未来と自動運転の役割を聞いた。

「過大な期待はしていない」

―自動運転技術を用いた路線バスの実証実験が始まっている。今はどのような段階にあるのか。

「自動運転の実証実験は各地で実施されている。我々にも提携の話が来ているし、実証実験の計画も進めている」

「私は、将来的に自動運転バスを導入したいと考えているが、過大な期待はしていない。技術的に可能かもしれないが、いくつもの課題を一つずつ解決しなければゴールにはたどり着けない。今は、そのゴールまでの道のりがバラ色の雲に隠れていて、すぐにでもゴールに行けるように感じている人が多い状況ではないだろうか」

―解決すべき課題にはどのようなものがあるか。

「まず環境の整備がある。具体的には、人間が運転する車両と自動運転車が混在することによって生じる問題にどう対処するのかということ。例えば自動運転の責任でなくとも追突されることはある。そのときの責任はどの法律でどのように処理するのか。この問題については、例えば自動運転専用の道路をつくることで解決されるかもしれないが、日本には専用道路を確保できるほど広い道路はあまりない」

「道路運送法に関連した課題もある。道路運送法は安全や公共の利便性を求めているので、我々はこれを達成するために運転士の教育や管理に力を入れている。運転士と運行管理者には義務と禁止事項が法律で定められており、その実行を約束することで会社は事業認可を得ている。つまりバス事業者の専門性は、道路運送法を守るための人材教育や人材管理のノウハウにあるともいえる」

「このように現在の道路運送法は人間の管理に関する法律でもあり、自動運転を取り入れたときに道路運送法自体をどうするのかという問題がある。人間がハンドルを握っているときは道路運送法に該当するが、自動運転になったとたん道路運送法でなくなるのか。自動運転による旅客自動車運送事業を成立させるためには、道路運送法と関連法令を大幅に改正する必要があり、これには時間がかかる」

自動運転、高齢運転士を支援

―事業面で自動運転に期待していることは何か。

「ドライバー不足に対応できることだ。今は高齢化が深刻になっており、定年退職する人が増えている。バスのドライバーは人の命を預かる運転士(プロドライバー)だから、運転能力が衰えると運転業務の遂行に支障が出る。この問題については、自動運転技術の一部を使うことでリスクを取り除ける。現在の自動運転技術の実用的な使い方は、事故を防ぐ技術によって、高齢運転士の安全な運行を確保し、雇用延長を可能にすることだと思う」

「例えば高齢になると認知力が落ちる。夜は視力が弱くなる。意識が突然なくなるといった緊急事態が起こることもあるだろう。これらの衰えやトラブルをセンシング技術などでカバーできれば運転士不足の解決策の一つになる」

「最近、観光バスや高速バスの新車には、運転士が意識不明になったときに備えて、乗客が緊急停止できるスイッチが装備されている。ただ、実際の緊急時に、乗客が本当にそのスイッチを押せるだろうか。自動運転の一部技術で、異常を感知したらバスを自動的に止めることは可能だろう」

―バスの運転は、乗用車やタクシーの運転とは異なる難しさがあると聞く。バスドライバーならではの運転技術を教えてほしい。

「バスは普通車より大きいので、車両感覚が全く異なる。特に曲がるときは、内輪差とオーバーハング(タイヤの中心部から外側にはみ出している車体部)の意識がないと事故につながる」

「自動運転バスで一番難しいと思っているのはブレーキ操作だ。人が飛び出してきたことをセンシングして、急ブレーキをかけたとする。飛び出した人をひくことは避けられたとしても、車内で立っている人が転倒してしまう危険性がある」

「車内転倒事故は我々にとって大きな問題だ。重傷者が出れば重大事故となり、行政処分の対象になる。一方で、車内転倒事故を防ぐために急ブレーキを避けるようにプログラミングすれば、今度は飛び出してきた人や自転車とぶつかる危険がある。これらのことを考えると、自動運転の路線バスは全席着座制にしたり、椅子の向きを反対向きにしたり、またバスの前面に衝撃吸収装置を設置したりするなどの車両改造も必要になるだろう」

「ただし、路線バスの乗客には『立ったまま乗り続けて、停留所でさっと降りたい』と考える人もいる。このようなニーズに応え、なおかつ安全を担保するには、速達性がいらない環境下で時速20キロメートル以下の低速運行が条件となるだろう。着座してシートベルトをすることが義務化されている一般のクルマとは、運転操作に求められる乗客への安全配慮が全然違う」

データ集め運行最適化

―イーグルバスは赤字路線バスを引き受けて改善したが、どのようにして空っぽのバスをなくすことに成功したのか。

「2つの方策を実施した。一つは、細かく乗客数のデータを収集して需要を探り、具体的な顧客ニーズを満たすように時刻表を見直すなどの改善策を考えた。これが『最適化』である。もう一つは、観光客を呼び込むために、自治体と連携してバスを用いた街づくりを始めた。生活路線バスに観光客を入れて支えるという交通まちづくりの考えで『需要創出』モデルだ」

路線バスの乗車数を測定して利用ニーズを分析し、それに見合う形に運行スケジュールを見直した(出所:イーグルバス)

「地方の路線バスの需要は住民の朝夕の通勤通学が主で、昼間は空気を運んでいると揶揄(やゆ)される。一方、観光客は朝早く来ることはないし、夕方遅くまで滞在するわけでもない。だから、日中の空いている時間帯に観光客が来れば需給のギャップをうまく埋められる」