「バスの運行コストは固定費なので、乗客が多くても少なくても変わらない。だから住民の足を支えるために、空いている時間帯に観光客を入れるのが有効だ。そのためには、バス会社と地域が一体となって観光資源を生かした街づくり『交通まちづくり』の取り組みが必要である。この活動を自治体と連携して続けてきた」

「今、川越にはたくさんの観光客が来てくれているが、我々が市内の巡回バス運行を開始した1995年には観光客はほとんどいなかった。冬になると利用者が1日数人ということもあった。今は冬場でも外国の方もたくさん来ていただいている」

―交通を生かした街づくりとはどのようなものか。

「街づくりをしているエリアの中心にハブとなる停留所を設置し、他の停留所間の行き来はすべてハブ停留所を経由するやり方だ。我々は『ハブ&スポーク方式』と呼んでいる。埼玉県東秩父村の交通再編では、ハブ停留所に移動目的となる買い物施設や飲食施設、観光機能を集約した。これにより、ハブ&スポーク方式のエリアでは、ハブに行くことが目的となる。だから、人々が行きたい場所をどれだけハブに集約できるかがポイントとなる」

埼玉県ときがわ町におけるハブ&スポークの例(出所:イーグルバス)
埼玉県ときがわ町におけるハブ&スポークの例(出所:イーグルバス)

「今あるバス事業の形はなくなる」

―自動運転時代になったら、バス会社の役割はどうなるのか。

「自動運転が公道で本格的に利用できるようになったとき、今あるバス事業の形はなくなるだろう。我々は道路運送法の中の旅客自動車運送事業として事業認可を得ており、安全を確保し公共の利便を促進するように、会社と運転士と運行管理者の義務と責任を定められている」

「自動運転の導入によって運転士がいなくなったら運転士を管理する運行管理者も必要なくなり、安全確保の条件となる運転士の確保、育成管理が不要になるので、従来のバス事業者の専門性はなくなる。その上で一番高額なコストである運転士が不要となれば事業の採算改善が見込めるようになる。そうなれば、新しいサービス事業として資本力のある他産業からの参入によって既存のバス事業者はなくなってしまうかもしれない」

―ドライバーの運転技術をはじめとする公共交通を成り立たせる専門知識を自動運転バス事業に持ち込む役割があるのではないか。

「『運転士不足だから、早く自動運転ができたらいいな』と喜んでいるバス事業者はたくさんある。でも、もしドライバーなしで運行できるようになれば、経験のない企業でも手掛けられる事業になるだろう。ドライバーの管理が一番大変だから、今はそれができるバス会社には価値がある。でも、ドライバー管理をしなくていいのなら、異業種の企業が自動運転バスを買って路線を走らせる世界が始まるかもしれない」

―公共交通のカテゴリーで自動運転バスを走らせるとなると総括原価方式に基づいて料金を設定しなければならない。ドライバーの人件費を削れるとしても、車両価格が高いから、利用料金を安く設定することは難しいのではないか。

「その通りだ。現在の総括原価に基づく、提供コストをベースにした料金設定では運賃は下げられない。路線バス事業は1903年に京都で始まったといわれていて、もう100年以上の歴史がある。IT(情報技術)とか自動運転とかの新しい技術がこの世界に入ってくる一方で、ドライバー不足が深刻になっている。100年に一度の改革期だから、ビジネスモデルも含めて大きく変わるべきだ」

送客目的の委託事業に

―具体的な解決策はあるのか。

「ある。旅客自動車運送事業から送客を主目的とする委託事業に切り替えればいい。これなら運転士も必要なく、乗客から料金を徴収しないから、道路運送法は関係なくなる」

「高齢者の中には、日常の通院や買い物のために、クルマを手放さない人がたくさんいる。だから、ショッピングセンターなどが経費を負担して施設の集客のための自動運転バスが住居地域や病院などを結んで走るようになれば、維持費のかかる自家用車を手放す人も出てくるだろう。自動運転バスなら人件費は掛からないし、労働負荷を気にせずに運行できる。例えば巨大なショッピングセンターをハブにして、ハブ&スポークにすれば効率的に運行できるはずだ」

(写真:北山宏一)
(写真:北山宏一)

「私は、運賃収入でバス事業を支えるのは無理だと考えている。無料なら、たくさんの人が乗ってくれるので送客効果は大きい。しかも、IC運賃システムのコストも現金運賃管理の仕組みも作業も、不正乗車対策も不要になる。今はこれらのコストが重いことも、経営を苦しめている」

「自動運転による人件費削減と電気バスによる燃料費削減、無料バスにすることで運賃収受コストもなくなれば、運行コストは従来の半分になる。我々の生きる道は、運行計画策定や運行データ分析のノウハウを生かしてこうしたサービスの運営委託事業者になることだと思う。ショッピングモールなどの施設も集客効果とバス内外の広告収入によってコスト負担はカバーされるだろう」

―路線バスは、赤字でも補助金がもらえるという事業構造にも問題があるのか。

「我々はもともと、観光バスや貸し切りバスを手掛けていた。だから、売り上げとコストにシビアになるし、黒字になるように経営するのが当たり前だった。路線バスに乗り出した途端に、路線バスの赤字が大きすぎて、会社として初めて赤字を計上するに至った。その後、いろいろな経営努力で黒字に戻した」

「ただ、補助金が出る路線バスの事業収支を改善しても、その分だけ補助金が減らされるので、企業として収支改善のインセンティブが働きにくい。補助金路線を主体とするバス事業者から『頑張っても補助金を減らされるだけだよ』と言われたこともある」

「だから我々は、収支改善した金額の一部をインセンティブとしてバス事業者に支給するといった新しい施策を提案している。もし国が方法を変えれば、路線バス事業者のモチベーションが大きく変わるはず。こうした改革も求められているのではないだろうか」

この記事は日経BP総研 クリーンテック ラボの研究員が執筆し、日本経済新聞電子版のテクノロジー分野「自動運転」に「自動運転が作る未来」として掲載したものの転載です(本稿の初出:2019年2月25日)。