1918年の創業以来、100年間にわたって岡山県で路線バス事業を営む宇野自動車(宇野バス)は、これまで一度も運行補助、車両購入補助などを受けたことがない。2018年2月には岡山後楽園と岡山駅を結ぶ「岡山後楽園バス」の運賃を、大人均一140円から100円に値下げした。路線バスの運賃値下げは異例である。18年4月、宇野自動車はソフトバンクグループのSBドライブ(東京・港)と自動運転バスの実用化に着手した。宇野自動車の宇野泰正社長は、補助金と規制に守られた業界に対して危機感をあらわにする。自動運転時代の路線バス事業の在り方を宇野社長に聞いた。

自動運転バス、採算取れるのか

―自動運転バスの実用化状況を教えてほしい。

「まずは自動運転がどのようなものかを味見したいと思って実証実験をやってみた。正直なところ、現段階では、一般の路線バスに使うのは難しいことが分かった。いろいろな課題が見えてきた」

宇野自動車の宇野泰正社長(写真:小山壯二)

―どのような課題があるのか。

「第一は収支だ。実験は小型バスでやってみたが、あれで実用化したのでは利益は得られない。自動運転バスを使った実証実験はいろいろあるが、どれも小型バスだ。小型バスは乗せられる乗客数が少ない。大型バスでたくさんの人を一度に運べなければ、採算は取れない」

「今、路線バス事業に使っている大型バスは2000万~2500万円ぐらいする。これを自動運転バスにするためにはプラス3000万~4000万円ぐらいかかるだろう。そうして大型バスを自動運転対応にして、今の黒字路線に走らせたとしても、採算が取れるか分からない」

「収支に関してはもう一つ課題がある。ドライバーレスにできたとしても、バスを無人で走らせるわけにはいかないことだ。今は高齢化が進んでいるから高齢のお客様を運ぶことを前提に考えなければならない。となると、車内に車掌をおいて、乗客をケアできる体制が必要になる」

―車内事故を回避するためか。

「そうだ。自分の親が杖(つえ)を付きながら通院しているとき、『無人バスで通院したらいいよ』という子供はいないだろう。今のバス運転手は車内の乗客に注意を払って運転しているが、それでもバス停で停止するときに車内で転んでしまう人がいる。バスが止まっているときでさえ、乗るときや降りるときに転倒事故が起こっているのだ。だからお客様に安心して路線バスに乗ってもらうには、万一のトラブルに備えて、すぐにサポートできる誰かを車内においておかなければならない。運転手がいれば、すぐに駆け寄って手助けできる。しかしドライバーレスならそうはいかない。新たに車掌をおく必要が出てくるだろう」

「自動運転技術が進化して、今のドライバー並みの運転技術で安全運転できるようになったとしても、それだけではバスの乗客は安心しない。何かあったときにケアできる体制が整っていないなら、子供は年老いた親に自動運転バスの利用を勧めないだろう。だから私は、車掌がいないと路線バスでの自動運転は成り立たないと考えている」

センサーは運転手代わりにならない

―運転に関する課題はあるか。

「例えば、バスの運転手は、停留所で待っているお客様と停留所近くをただ歩いている人を見極めて停車するかどうかを判断している。停留所で待っていてバスの行き先を見ても反応しないけど、ぱっと乗り込んでくるお客様がいる。運転手はいつも細かくお客様を見ていて、乗ってくるかどうかを的確に判断している。スムーズに時刻通りの運行ができるのは、そうした熟練した判断があるからだ。カメラやセンサー、人工知能(AI)が進化したとして、そこまで認識できるようになるのだろうか」

「降りるときも同じ問題がある。今は運転手が車内の乗客を見て発車のタイミングを見計らっている。自分が降りる停留所で止まっても、席を立たない人はいる。そしてドアが閉まり始めた途端に『おー!』と叫んで駆け下りていく。最近はずっとスマートフォン(スマホ)を見ているお客様が多いから、なおさら降りたい停留所なのかどうか分かりにくくなっている。運転操作そのもの以外にも、バスの運転手が安全に停車・発車するためにしていることはたくさんある」

―将来的にはどのような場面で自動運転を活用する考えか。

「AとBを直接ノンストップで結ぶような路線だ。路線バスでも、20キロ離れた団地から岡山駅まで直通で止まらずに結ぶというような路線がある。一般の路線バスに自動運転を使うのは難しいから、まずは2地点を結ぶシャトルバスのような路線で考えたい」

「自動運転バスだからといって試験的に走らせるような実用化には興味がない。黒字の事業として成り立たせるために取り組みたい。だから次は、大型バスの自動運転に取り組んでいるところと一緒にやってみたい。国内メーカーにいないなら、海外メーカーでもかまわない」

「大型バスでの実用化となると、実証実験も改めて実施しなければならない。自動運転技術はベースとなるバスの車体が変われば別のものになるからだ。大型バスで実験するときは、決済を含めた実際の運用に関わる問題もすべて洗い出して関係者で共有したい。国土交通省や経済産業省などとも問題を共有すれば、それらをみんなで解決できるし、そのノウハウを全国で使えるようになる。そして、補助金なしの路線バス事業に向けたビジネスモデルを研究して、社会に広げていきたい」

―宇野自動車は運転手の育成に力を入れている。自動運転を導入するのは意外な感じもある。

「我が社の宝は運転手だ。そこは間違いない。自動運転が今の大型二種の運転手と対等の運転ができるかといえば、できない。だから、仮に自動化が進んでコストダウンできる時代になったとしても、『やっぱり人が運転してくれるほうがいいよね』と言ってもらえるようなサービスを提供できると考えている」