「自動運転に取り組むのはいろいろなサービスを提供できる体制を整えたいから。安い運賃を特徴とするサービスもあれば、ちょっといいバスでゆっくり通勤するというサービスがあってもいい。2階建てバスで、下は普通の路線バス、上はグリーン車のように乗り心地のいい座席という形だってあるだろう。そろそろ運賃やサービスを自由化する時期にきていると考えている」

理想は補助金なしの経営

―路線バス会社が直面する最大の問題は何か。

「運転手不足だ。間違いなく足りていない。けれど、その貴重な運転手が効率的に働けていない。岡山は路線バス会社が多く、路線が整理されていないからダブっている区間もある。日本全体が同じような形になっている。お客様が少なくてワンボックスカーで十分な田舎なのに、補助金が受けられるという理由で乗客のいない空の大型バスを走らせている。補助金をもらえるから貴重な大型二種の運転手を使って空の大型バスを走らせる、という考えはどこかおかしいのではないだろうか。問題なのは、そうした考えがなぜ生まれるのかということ」

(写真:小山壯二)
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「補助金が全部ダメだと思っているわけではない。適切な政策に誘導するための補助金なら意味がある。しかも、そうした補助金に加えて、バス事業者が競争する状態にないから、みながダメになっていく。競争させれば、倒れる企業も出るが、残った企業は強くなる」

―どのような政策を望むのか。

「理想は補助金なしの経営を前提とすることだ。まずは、国、県、市の補助金のトータルを削減する。この実現には運賃の自由化が欠かせない。運賃制度が、日本全国統一である必要はない。路線収支をきちんと把握し、企業内での私的相互扶助を認め、路線収支に合わせた運賃設定をさせてくれればいい」

「規制の見直しも必要だ。今は何をするにも時間がかかる。『MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス、マース)』が話題になっているが、世界のMaaSプレーヤーはどんどん新しいことをやってくるだろう。何かを変えるにも手続きに時間がかかる我々と違い、あっという間に新しいサービスを始めるスピードがある。だから、早く規制をどうにかして自由にやらせてほしい。一時、混乱が生じるかもしれないが、自由にやっていく中で、混乱も落ち着き、いろいろな経験値を蓄えて、より一層のサービス向上を図っていきたい」

MaaSに路線バスをどう組み込むか

―路線バス事業者としてMaaSの動きはどう見ているか。

「ライドシェアの米ウーバー・テクノロジーズや東南アジアのグラブが国内に参入しないとしても、トヨタ自動車とか、ソフトバンクグループがMaaS事業を始めるかもしれない。今はタクシーを守るためにライドシェアを規制しているけど、日本もいつか導入することになるだろう。そうなったとき、タクシーはどのように変わっていけば生き残っていけるのか。路線バスだって同じだ」

「MaaSは『いろいろな交通機関を組み込んで効率よく移動する』ということになっているが、路線バスが他の交通手段とうまく組み合わせられるかは見えていない。ライドシェアが始まったら、お客様は途中で路線バスに乗り換えず、最初から最後までライドシェアで済ませるかもしれない」

―期待よりも危機感の方が強いのか。

「そうだ。あすの話ではないけれど、10年先には今の社会が大きく変わっているだろう。バスという移動手段は必要だけど、既存のバス事業者が運営するバスは必要ないと利用者が判断することもあり得る。既存の地方の路線バス事業者は全滅するのではないだろうか」

「おそらく大改革が具体化するまでに10年はかかるだろう。だから私はそれまでに何をすべきかを考えている。海外の事情を見に行ったり、自動運転に取り組んだり、MaaSに路線バスを組み込んでもらうにはどうしたらいいのかを考えたり、たくさんの人から話を聞いている。大変だけど、これはなかなか面白い。10年あれば、変わろうと思えば変われる。変われなければ消滅するだけ。座して死を待つつもりはない」

この記事は日経BP総研 クリーンテック ラボの研究員が執筆し、日本経済新聞電子版のテクノロジー分野「自動運転」に「自動運転が作る未来」として掲載したものの転載です(本稿の初出:2019年3月4日)。