―移動サービスを提供するのは誰になるのか。

「僕は、自動運転車を用いた移動サービスは、それぞれの地域に詳しい自治体やタクシー会社などが提供すべきだと考えている。僕は田舎の出身で、タクシー会社が廃業して『タクシーがない。移動の足がなくて困る』という声を聞いて自動運転の開発を始めた。日本中の田舎からタクシーがなくなってしまう前に、我々の技術を使って、タクシー会社にタクシーサービスを続けてほしいと考えている」

大手町―六本木間の自動運転タクシーサービスに用いられた車両(左)、自動運転タクシーサービスのスマホアプリ(出所はいずれもZMP)
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大手町―六本木間の自動運転タクシーサービスに用いられた車両(左)、自動運転タクシーサービスのスマホアプリ(出所はいずれもZMP)

「大手のタクシー会社は整備工場を持っていて、日々の点検・修理が徹底しているから一般のクルマよりもたくさんの距離を走れる。ここに自動運転が加わると、人件費もカットできるようになる。1台のクルマから得られる収益は大幅に増えるはずだ」

―収益確保の観点で見ると、移動サービスの提供では車両価格の高さがネックになるのではないか。

「ここ数年で考えると、車両価格を大幅に下げることは難しい。普通のクルマとは違って、今はまだ1台ずつ造り込まなければならないからだ。だから、まずはタクシー需要がある東京のような大都市でサービス運用を始めるのが現実的だろう。車両価格が2000万円だとすると5年運用なら年400万円のコスト負担となる。ドライバーの人件費を考えなくて済むから、けっして高くないはずだ。しかも夜間、土日・祝日なども運行できる。需要のある場所なら、稼働率が高いから利益を生み出せるとみている」

安心感与える運転技術を学ぶ

―移動サービス用途を考えたとき、自動運転開発にはどんなことが求められるか。

「技術の目線ではなく、運用の目線で考えることではないだろうか。技術者はぶつからないように走行する技術は開発できているから、『これで大丈夫。安全です』というだろう。でも、乗っている人が『危ないなぁ』と思ったら、その運転技術では不十分だ。『ブレーキを踏めばぶつからない状態だから大丈夫』と判断するのではなく、急ブレーキを踏んで乗っている人に危険を感じさせることのないように、あらかじめ弱くブレーキをかけるという運転技術が必要になる」

「タクシー会社のベテランドライバーはそこがうまい。日の丸自動車と一緒にやってよく分かった。ベテランドライバーの発想は一般ドライバーのそれと全く違う。加速・減速と車間距離は、乗っている人に安心感を与えるような配慮がある。そして、速度をあまり変化させない。後部座席の人の乗り心地を考えているからだ」

―ベテランドライバーの運転技術を自動運転ソフトに学ばせることはできるのか。

「できる。すでにベテランドライバーの運転データを使って学習を始めている」

優先道路があれば一般車と共存できる

―自動運転を用いた移動サービスの社会実装における課題は何か。

「人間が運転するクルマとどう共存できるかにある。人間は気まぐれだ。不注意だったり、無理に突っ込んできたり、急ブレーキを踏んだりする」

「そもそも法定速度を厳守して走行すれば事故を起こしかねない。人間のドライバーは法定速度を守らず、車の流れに乗ることを前提にしている。だからといって、自動運転車に法定速度を超えて走るようにプログラムすることは許されないだろう。実際、法定速度で自動運転車を走らせていると、あおられて、追い抜かれる。これは仕方がないことだ」

「こういう状態を解決する方法として『自動運転車の優先道路』を提案したい。自動運転車がいないときはこれまで通りでいいけど、自動運転車がいたら優先して走らせる道路のことだ。これがあるだけで安全性はかなり高まるはずだ」

―どこでも乗り降りできるような運用は可能なのか。

「当面は固定ルートでの運用になるだろう。理由は2つある。一つは一般のクルマとスムーズに共存するためだ。例えば一般のタクシー乗り場を使おうとすると、一般のタクシーがガンガン割り込んで入ってくるため、自動運転車は立ち往生してしまう。だから実証実験では、大手町は三菱地所に、六本木は森ビルに協力してもらい、専用の乗り場を設けた」

「もう一つは安全性の確保。ドライバーがいれば、クルマを止める場所やドアを開けるタイミングに留意して事故が生じないように運用できるが、ドライバーレスではなかなか難しい。降車ポイントで無理に停車しようとすれば、事故を起こしかねない。だから安全に乗り降りできる場所を事前に設定し、そこを結ぶルートでサービスを開始するのがいいだろう」

「自動運転車の社会実装は始まったばかりだから、絶対に事故を起こしてはいけない。もし事故を起こしてしまったら、相当なバッシングを受け、事業存続できなくなるだろう。念には念を入れ、技術だけでなく運用にも目を配り、安全を十分に担保するところから始めなければならないと考えている」

この記事は日経BP総研 クリーンテック ラボの研究員が執筆し、日本経済新聞電子版のテクノロジー分野「自動運転」に「自動運転が作る未来」として掲載したものの転載です(本稿の初出:2019年4月9日)。