乗換案内サービス「駅すぱあと」を提供するヴァル研究所が、MaaS(Mobility as a Service)への取り組みを強化している。2018年5月、複合経路検索サービスの実証実験に取り組み出したのを皮切りに、小田急電鉄やタイムズ24など大手交通事業者との連携も進める。MaaS事業への参入で何を目指すのか――。同社代表取締役社長の太田信夫氏に聞いた。
――最近、MaaSへの取り組みが目立ちます。長年、乗換案内サービスを提供してきた立場から、どのように関わっていこうとされているのですか。
太田 MaaSはここ1年、日本で急速に広まり、国や交通事業者らがさまざまな取り組みを見せています。非常に大きなビジネスチャンスと捉えています。
私たちの乗換案内サービスとは、経路検索のアルゴリズムとデータを組み合わせたものです。1998年からは「Yahoo! 路線情報」にもサービスを提供し、多くの利用者からの要望を基に、それを成長させてきました。
経路検索の対象を、従来の公共交通機関から、シェアサイクル、カーシェア、タクシー、デマンド交通などにまで広げ、それらの複合経路の検索情報をMaaS事業のプレイヤーに広く提供していきたいと考えています。

――そうした複合経路の検索サービスとして公共交通機関とシェアサイクルの組み合わせ経路を検索できる「mixway」を開発し、実証実験の中で提供しています。
太田 公共交通機関と目的地をつなぐラストワンマイルの経路検索サービスには、経験値がありません。そこでまずシェアサイクルとの組み合わせから手を付けようと、「mixway」の開発に乗り出したのです。
2018年5月には認定NPO法人ポロクルと組んで札幌で、同年7月にはドコモ・バイクシェアと組んでまず東京10区で実証実験に取り掛かりました。ドコモ・バイクシェアとの実証実験はいま、横浜、仙台、広島などに対象エリアを広げています。
「mixway」では、私たちがこれまで手掛けたことがない組み合わせの経路をご案内することになります(図1、2、3)。それに対して利用者はどのような反応を示されるのか、生の声をお聞きしているところです。



リアルタイム情報も踏まえた案内を
――シェアサイクルとの複合経路検索というのは、これまでの公共交通機関の経路検索にはない難しさがあるものなのですか。
太田 例えば駅を降りた後、シェアサイクルを利用して目的地に向かう場合、駅と目的地の間にあるサイクルポートで自転車に乗り換えていただくことになります。しかし、その経路が本当に最適なのかと言えば、そうではない場合も考えられます。
サイクルポートは必ずしも駅の近くにあるとは限りません。また目的地の近くには、利用してきた自転車を返却するポートも必要です。駅と目的地とポートの位置関係も同時に考えないといけないのです。そこが、非常に複雑です。
乗り換え駅より手前の駅のすぐ近くにサイクルポートがある場合を考えてみましょう。その場合、わざわざ乗り換えて目的地の最寄り駅で降り、その近くのポートから目的地まで自転車で向かうより、乗り換え駅より手前の駅で降りてしまい、そのすぐ近くのポートから目的地まで自転車で向かうほうが、快適であるということも考えられます。
公共交通機関の経路検索ではこれまで、「早い」「安い」「乗り換えが少ない」という条件・考え方で検索結果をご案内してきました。しかし複合経路検索では、その発想から抜け出す必要があります。例えば「安い」を優先してしまうと、目的地までずっとシェアサイクルを利用するのがいい、という結果になりかねません。利用者に支持されるような経路をご案内するにはどのような考え方を取ればいいのか、試行錯誤を重ねています。