――検索対象の交通機関を公共交通から広げて複合検索に乗り出すとなると、これまでとは異なる考え方が求められるということですか。

太田 そうです。公共交通機関はダイヤに従って軌道や道路といった決まった場所を運行します。検索のロジックは組みやすい。しかし、例えばシェアサイクルはそうはいきません。その日の天候が雨や雪なら、検索結果として案内されても利用できません。天候や渋滞などリアルタイム情報を踏まえることも求められます。

またシェアサイクルやカーシェアの場合、サイクルポートやステーションに利用可能な自転車やクルマがあるのか、利用してきた自転車やクルマを目的地の近くにあるポートやステーションに返却できるのか、といった情報も、リアルタイム情報として必要です。これらの情報を収集し、サービスを提供していかなければなりません。各交通事業者と連携し、基本的にはそれらの情報提供を受けながら、サービスを開発していく方針です。

MaaS事業の可能性の一つは観光に

――そもそもMaaS事業に参入される狙いは、どこにあるのですか。

太田 都市部と地方部、それぞれの課題解決です。

都市部では、朝晩の通勤・通学ラッシュが課題です。最近ではパーソナルモビリティーやライドシェアなど多様な選択肢が登場しています。目的地までさまざまな交通手段を利用した多様な経路をご案内し利用していただくことが、混雑緩和に必要です。また地方部では、高齢化による交通難民の救済や観光地での集客力アップが課題です。オンデマンド交通の効率良い運行が求められます。そこに、MaaSが役立ちます。

――MaaS事業はビジネスとして成り立ちそうですか。

太田 ビジネスとして成り立つ可能性を2つの領域で感じています。一つは、BtoBを中心とする乗換案内サービス「駅すぱあと」の領域です。公共交通機関以外の移動手段を取り込み、アップセル(売り上げ増)を図ります。

例えば、取引先まで営業に行くときはシェアサイクルを利用するのが早い、取引先まで3人でプレゼンテーションに行くときはタクシーを利用するのが安い、と多様な検索結果をご案内することで、お客様に効率化やコスト削減をもたらすことが可能です。「駅すぱあと」のサービスメニューの中にこのような従来に比べ進化したサービスを加え、それを継続的にご利用いただくようにすることが重要です。

もう一つは、観光の領域です。交通事業者や決済代行会社などと組んで、観光客が便利に使いこなせるものをつくり上げていきたいと考えています。

観光地にはよく、公共交通機関の1日乗り放題チケットが用意されています。ただ、使いこなすにはどうすればいいのか、分からない。しかも、移動手段は公共交通機関だけでなく、タクシーもあります。それらの組み合わせを、もっと考えていいはずです。

誰がどんな目的で移動するかに着目

例えば鎌倉観光で、お目当ての寺院を訪ねたい。しかし路線バスで行こうにも、どれに乗ればいいのか、分からない。一方で、タクシーの空車がずらりと客待ちをしている。これらの状況を改善できれば、観光にももっと余裕が生まれるはずです。

観光客は、さまざまな移動サービスを使いこなし、見どころはすべて訪ねたいと考えるはずです。もし一度の決済で、それらの移動サービスがすべて乗り放題になれば、とても安心です。インバウンド増加への対応という観点からも、観光地でのMaaS事業には大きな可能性を感じています。

――MaaS事業に対する今後の抱負をお聞かせください。

太田 取り組みたいことは、3つあります。まず、経路検索サービスのパーソナライズです。個人個人の移動にフォーカスしたいと考えています。

これまでの経路検索サービスは、忙しいビジネスパーソンにも、足の不自由な高齢者にも、小さなお子さんにも、同じ経路をご案内していました。しかし、それはおかしい。忙しい人なら「時間」を、高齢者なら「快適」を、お子さんなら「安全」を最優先した経路をご案内すべきです。検索した人の状況に合わせた最適な経路をご案内するパーソナライズを目指します。実現に向けて、パートナー企業とタイアップし企画していきたいですね。

太田信夫(おおた・のぶお)氏。1963年生まれ。1986年日本大学農獣医学部(現在の生物資源科学部)卒業後、水産食品加工会社に入社。87年ヴァル研究所入社、パソコン(MS-DOS)のデータベースソフト「ファラオ」「ナイル」の店舗およびSI営業担当。99年営業チームのリーダ就任、「駅すぱあと」の販売チーム統括。2014年取締役就任、法人向け営業・開発部門統括。15年9月代表取締役就任
太田信夫(おおた・のぶお)氏。1963年生まれ。1986年日本大学農獣医学部(現在の生物資源科学部)卒業後、水産食品加工会社に入社。87年ヴァル研究所入社、パソコン(MS-DOS)のデータベースソフト「ファラオ」「ナイル」の店舗およびSI営業担当。99年営業チームのリーダ就任、「駅すぱあと」の販売チーム統括。2014年取締役就任、法人向け営業・開発部門統括。15年9月代表取締役就任

次に、移動の目的ごとに最適な経路をご案内することです。例えば移動の目的がバーゲンセールなら、帰りは荷物が多くなると予想されますから、シェアサイクルや公共交通機関の利用はお勧めできません。乗り合いタクシーがあれば、それが最適です。目的としては買い物だけでなく、ビジネスや観光なども考えられます。

(表)ヴァル研究所のMaaSへの取り組み
(表)ヴァル研究所のMaaSへの取り組み

最後は、MaaS事業のエコシステムを形成することです。さまざまな事業領域のプレイヤーと組んで、それぞれの強みを掛け合わせ、最強のサービスを生み出していきたいですね。小田急電鉄、タイムズ24、ドコモ・バイクシェア、WHILLとのタイアップは、いい例です(表)。あのようなエコシステムを、ほかでも形成していきたいと思います。