施設内の利用者の流れを把握し、オープンデータなどと組み合わせ、エリアマネジメントに役立てようとする実証実験が相次いでいる。各種データを一元管理するプラットフォームを構築し、エリアの魅力向上や課題対応に生かすほか、新しいサービスの提供につなげる狙いだ。言わばまちのスマート化。その取り組みを、前・後編2回にわたって紹介する。

東京・日本橋の複合ビル「室町東三井ビルディング」の地下1階から地上6階までを構成する商業施設「COREDO室町1」(写真1)で2017年8月から、まちのスマート化を目指す実証実験が始まった。日建設計総合研究所(以下、NSRI)と日本電信電話(以下、NTT)が共同開発してきたエリア情報活用プラットフォーム「AI×AI(アイアイ)」を、同ビルの事業主である三井不動産との協働で試験的に運用し、投資効果を検証する。名称の初めの「AI」は「エリアインフォメーションプラットフォーム」を、次の「AI」は「人工知能」を意味する。

(写真1) 東京・日本橋の商業施設「COREDO(コレド)室町1」。上層階にはオフィスが入居する。右奥には「COREDO室町2」が、右手前には「COREDO室町3」が立地する(写真:茂木俊輔)

このプラットフォームは、マネジメントの対象とする一定のエリア内で取得したセンサーデータや気象データのようなオープンデータなどを、NTTグループのAI技術「corevo(コレボ)」を用いて処理し、エネルギーや交通などさまざまな分野の課題に応じた最適なソリューションを導き出すものだ。どのようなデータを活用し、どのようなソリューションを導き出すのかという点には、NSRIがこれまで手掛けてきた都市開発の計画・マネジメントに関する知見を生かす。

実証実験では、対象施設内の通行量をレーザーセンサーとサーモセンサーで測定し、プラットフォーム上でその結果を基にその後の通行量を予測することで、対象施設内のマネジメントに役立てる。ここで主に想定しているソリューションは、空調制御、清掃仕様・コスト、エスカレーター・エレベーター運行、テナント業務を、通行量の変動に併せて最適化することだ(図1)。

(図1)左は、「COREDO室町1」で事前調査の段階で得られた通行量の把握結果。1mメッシュで時間当たりの人密度を表現している。右は、実証実験で主に想定するソリューションの例。通行量の把握結果を基に空調制御などの最適化を図る(資料提供:日建設計総合研究所)

例えば空調制御では、通行量の予測に基づき、その最適制御のシナリオを作成する。そのシナリオに従って、担当者が空調の運転を制御するという流れだ。単純に言えば、通行量が多くなる場所では空調の運転を強め、反対に通行量が少なくなる場所では空調の運転を弱める。それによって、空調のエネルギー使用量を削減する。

不特定多数の利用施設で最適制御

ただ、それによって来訪者が不快感を覚えるようでは困る。実証実験では温度センサーも併用し、人流予測に基づく空調制御による温度変化も予測。その結果を最適制御のシナリオに反映させることで、来訪者が快適に感じられる体感温度レベルを維持する。

実証実験は「COREDO室町1」のような商業施設で取り組むことに意味があるという。NSRI主任研究員の吉田雄史氏はこう解説する。「大型ビルでは過去のトラックレコードを基に空調の最適制御を実施しているが、それは通行量が比較的安定しているオフィス用途だからできること。不特定多数が集まる商業施設をはじめ、駅・空港では、天候やイベントの有無などで通行量は変動する。これらの施設ではその変動をリアルタイムで捉えていくことが、最適制御に欠かせない」。

天候やイベントの有無などで変動する通行量の予測データはテナント店舗にも提供する。テナント側はそれを基に、例えば飲食店であれば、仕入れの量、メニューの構成、人員配置などを検討できる。販売戦略を練るのに生かせるわけだ。ビル側にとってみれば、こうした通行量の予測データを賃料設定に役立てることも可能だ。

NSRIとNTTでは2年近く前から、ビッグデータを生かしたまちづくりに向けて検討を重ねてきた。両者の強みを生かし、都市に関する各種のデータを取り扱うプラットフォームを構築し、エリアマネジメントのスマート化を進めるという発想だ。

社会実装に向けた具体的なフィールドを求める中で、日本橋エリアで官民・地元と共同で都心型スマートシティのモデルプロジェクトに取り組む三井不動産に声を掛け、1年ほど前に協働の体制を築いた。その後は、NSRI、NTT、三井不動産の三者で共同研究を進め、2017年1~2月にかけては、実証実験に取り組むのを前に「COREDO室町1」で事前調査も実施した。