都市間競争がますます激しくなる中、日本の都市は人口減少、少子高齢化、温暖化、災害リスク増と、いくつもの課題に直面している。一方で、課題を乗り越え、未来を切り開こうとする都市インフラの提案・実践も登場している。そこに、「都市の未来」をみる。第1回は、東京の将来像として「水都復活」を提案する大林組の構想を紹介する。

ぱっと見ると、水上交通や水辺利用の構想だ。しかし話を聞くと、それにとどまらない。都市全体の視点から水循環のあり方を問い直す構想である。構想名は「スマート・ウォーター・シティ東京」。大林組が昨年11月、広報誌「季刊大林」の中で公表した(写真1)。

(写真1)「スマート・ウォーター・シティ東京」建設構想で提案する運河復活。神田川の秋葉原近辺を想定する(画像提供:大林組、以下すべて同じ)

構想の舞台は東京だ。そこに、二つの循環系を整備する。

一つは、土地所有権が及ばないとされる深さ50mの大深度地下に、内径14.5m・全周約14??のトンネルを貫通させる「ウォーターズ・リング」である。都心5区(千代田、中央、港、新宿、文京)内のビルで集めた雨水などを、ここに貯留する(図1、2)。

(図1)スマート・ウォーター・ネットワーク概念図
大深度地下を貫通する「ウォーターズ・リング」とビル群で構成するネットワークの概念図。リング内の雨水は「SWN(スマート・ウォーター・ネットワーク)ビル」や運河との間でやり取りする
(図2)ウォーターズ・リングとSWNゲート
「ウォーターズ・リング」には地上部に「SWN(スマート・ウォーター・ネットワーク)ゲート」を5カ所設置する想定。ここを利用して雨水をやり取りするほか、リング内を航行する水陸両用車が出入りする

集水装置の役目を果たすビルは地下に雨水貯留施設を備える。そこに貯留した雨水を雑用水として自ら再利用する一方で、それぞれがリングとネットワークを組み、貯留する雨水を互いに融通できる。ネットワーク内の水循環は一元管理する想定だ(写真2)。

(写真2)「ウォーターズ・リング」内を航行する水陸両用車

もう一つは、都心5区の皇居周辺エリア内と江東・墨田2区の本所・深川エリア内を巡る運河・水路網の整備と復元である。護岸の造りは防災や消波など安全確保の機能を備えたうえで景観性や親水性に配慮したものに改める。

外濠や内濠は水質改善も試みる。多摩川上流から生活用水として取水している量を雨水利用によって減らすことができるため、その分を、都心まで復元した玉川上水経由で外濠や内濠に流し込み、水循環を生み出すことで生態系を健全に保つ。

ここまでは、都市の水循環に関する提案だ。大林組のプロジェクトチームでとりまとめ役を務めたテクノ事業創成本部PPP事業部担当部長の葛西秀樹氏は、これこそ、この構想の骨格にあたるという。

地下リングはゲリラ豪雨にも役立つ

「リング内の水は台風が近づいていたら海に流し、当分雨が降らないようなら貯めておく。気象情報などを活用しながら、水循環をマネジメントしていく。これだけの容量があれば、ゲリラ豪雨のときにも渇水や災害など非常時にも役立つ」

地下と地上に二つの水循環をつくり出し、非常時に備えると同時に、地上の運河・水路を復活させる発想。「季刊大林」の特集企画を考える中で「水都復活」というテーマが定まり、チャーター船で運河・水路を巡ったことから生まれ出たという。

「ゲリラ豪雨対策の必要性や護岸近辺の人影の少なさなど多くの課題が見えてきた。まず考えたのは、運河・水路の水をきれいにするにはどうすればいいか。それには、所々で途切れている箇所をつなげ、水の流れを生み出すことが必要と考えた」(葛西氏)

流れを生み出し、水域の水を3日に1度の割合で入れ替えられれば、アオコの発生が抑えられるという。アオコとは、植物プランクトンの異常増殖で水面が緑一色になる現象。太陽光が水面下に差し込むのを遮り、水中植物の生育を妨げる。

問題は、その水源をどこに求めるか。その答えを探る中で、東京という都市の水の出入りを調べると、何とももったいない実態が明らかになったという。

「東京は世界の都市と比べて水不足都市。多くの人が大量に使うので、自前で賄いきれず、周辺県からもらっている。それなのに、使われずに河川を通じて海に流れ出る雨水が少なくない。雑用水として、もっと有効活用できるはず」。葛西氏はそう強調する。

冒頭から紹介してきた地下と地上に二つの水循環をつくり出す構想は、こうした検討の末に生まれた。原点にあるのは、運河・水路の水をきれいにするにはどうすればいいか、という思い。水上や水辺の利用を促すのにも欠かせない問題意識だ。