災害時に活躍する「ユニットボート」

「スマート・ウォーター・シティ東京」建設構想の中では、水上や水辺の利用を促す仕掛けもいくつか提案している。

水上利用で言えば、高低差の解消策だ。例えば外濠には、JR市ケ谷駅の近くに架かる橋を境に最大約10mの高低差があるという。整備・復元された外濠を船で1周するには、それが当然妨げになる。その高低差を解消するのが、「バランス型ボートリフト」だ(写真3、図3)。

(写真3)水質が改善し、高低差解消を図る「バランス型ボートリフト」でつながった外濠。市ヶ谷から飯田橋にかけての一帯を想定
(図3)「バランス型ボートリフト」の仕組み

原理は、天秤(てんびん)である。船を載せるパレット上の水量を調節することで、二つのパレットを上下移動させる。「これなら水上ボート1艇でも頻繁に上げ下げできる。水域をつなげれば、どの水辺にもにぎわいを出せるようになる」(葛西氏)。

水辺利用では、水位の変化が問題になる。海に近い下流部は潮汐によって水位が変化するため、水辺利用の施設を水面の近くにはつくれない。そこで提案しているのが、統一された仕様の移動可能な「ユニットボート」である(図4)。

(図4)「ユニットボート」のイメージ

ボートには水辺利用のあり方に応じてさまざまな機能を搭載し、それらを連結・係留して利用。それによって親水性を演出する。救援物資を積んだボートを用意しておけば、災害時に陸路が断たれてもそれを被災地に届けることができる。

「災害時に水上ルートを利用するにも普段から利用していないと役立たない。『ユニットボート』のように切り離してすぐ利用できるようになっていれば、災害時にも機能するはず」。「季刊大林」編集長を務める大林組CSR室担当部長の勝山里美氏は補足する。

水上や水辺の開放感は心地いい。運河・水路の水がきれいになって、そのネットワークがつながれば、多くの人がこれまで以上に、水上や水辺を利用するに違いない。一連の構想はすべて、そのための基盤づくりともいえる。

水都の玄関口として東京湾に人工島

「スマート・ウォーター・シティ東京」建設構想では水上・水辺利用に向けた基盤の一つとしてさらに、東京湾に浮かぶ人工島「東京ウェルカム・ゲート」を提案する。大型クルーズ客船が停泊する、水都・東京の玄関口という位置付けだ(写真4)。

(写真4)東京湾に浮かぶ人工島「東京ウェルカム・ゲート」

提案の背景には東京港の抱える実情がある。「レインボーブリッジや東京ゲートブリッジによる高さ制限や航空法に基づく羽田空港の高さ制限があることから、大型クルーズ客船が都心近くまでは入港できない」(葛西氏)。

「東京ウェルカム・ゲート」は、そうした大型クルーズ客船を受け止める、言わばハブの機能を担う。外周は約1??。外側には大型クルーズ客船が最大6隻は停泊できる。ここでシャトル船に乗り換えて羽田空港や東京湾内の各拠点に向かう想定だ。

リング状の施設には、国際線ターミナル機能のほか、宿泊や商業などの機能も配置される。その内側は人工の砂浜やサンゴ礁。「この辺りは東京湾内でも水が比較的きれい。都心から最も近いリゾートとして楽しめる」。葛西氏は夢を語る。

現実社会に目を向けると、東京では昨年9月以来、羽田空港と秋葉原(万世橋)の間を皮切りに、複数のルートで舟運や水上タクシーの社会実験が続く。水上交通の復権に国も東京都も力を入れる。インバウンドの需要もにらみ、都市の魅力を打ち出す狙いだ。

しかも、阪神・淡路大震災をきっかけに舟運が災害救助や復旧支援に役立つことが再認識されたことから、水上交通は災害対策上の意味合いも併せ持つようになった。ただ、それを災害時に生かすには、平常時からの利用が欠かせない。

キーワードは、ネットワーク。都市の魅力を打ち出すにも、災害時の利用を想定しても、運河・水路が「つながっていること」に大きな意味がある。「スマート・ウォーター・シティ東京」建設構想は、まさにその点で興味深い。