ガス導管を用いて電気を供給?

水素の市街地への供給は、燃料電池バス車両への供給と違って、法的な課題が指摘されている。

一つは、エネルギー事業者の位置付けである。現状では、ガス事業者と電力事業者のどちらに当たるのかを整理しきれていない。

水素パイプラインは管径150mmで総延長約1.2㎞。日本ガス協会で実施した水素ネットワーク導管に関する調査の結果を基に最適なパイプラインを検討している。整備計画では、材質は中圧ガス導管と同等の仕様である配管用炭素鋼鋼管を想定。パイプライン敷設の技術基準は、国の検討成果を踏まえて都市ガス導管の技術基準が適用可能という前提に立つ。

「ところが一方で、エネルギー事業者が最終的に供給するのはあくまで電力。この事業はガス事業にあたるのか電気事業にあたるのか、法令上の扱いを整理する必要がある」。村上氏はそう指摘する。この点は現在、国との間で協議中という。

もう一つの法的な課題は、水素ステーションに設置されるタンクの容量だ。水素を貯蔵するタンクには一般に、容量に対して法律上の規制が課される。ただ車両供給設備として認められる場合に限って、その規制を緩和する措置が取られる。

選手村地区の水素ステーションでは市街地への供給も想定しているため、容量への規制は受けざるを得ない。しかし、それだけでは貯蔵量が限られてしまう。ステーション運営や非常時対応にはマイナスの要因になる。

そこで整備計画では、車両供給用のタンクとは別にサブのタンクを設置し、貯蔵量の確保と市街地への供給を両立させる方向性を打ち出した(図4)。市街地へは水素製造装置から供給するが、それが不可能な場合はサブタンクから供給する想定だ。このアイデアを実現できるかどうかが、一つの課題だ。

(図4)水素ステーションは貯蔵量を確保しながら市街地への供給を実現するため、メーンとサブの2つのタンクを設置する方向が考えられる(画像提供:東京都)
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(図4)水素ステーションは貯蔵量を確保しながら市街地への供給を実現するため、メーンとサブの2つのタンクを設置する方向が考えられる(画像提供:東京都)

付臭に代わる保安措置の提案へ

水素インフラのまちづくりでは、これら法的な課題とともに、エネルギー事業の事業性も問われる。議論の中心は、保安措置のコスト抑制と、BRTの燃料電池バス車両への水素充てんの効率化である。ただ、整備計画は東京ガスを代表とする事業協力者グループと共同で検討してきたもの。それだけに、整備計画に盛り込まれた事業性の確保に向けた提案には説得力がある。

パイプラインを通して供給する水素を都市ガス同等と考えれば、パイプラインから漏れた場合にそれを感知できるよう、臭いを付けることが求められる。さらに純水素型燃料電池は臭いの付いた水素をそのまま使用できないため、脱臭も必要になる。「付臭だけで原価が約3割増しになるのに加え、脱臭装置を置くスペースも必要になる」(村上氏)。

そこで整備計画には、付臭に代わる保安措置として3つの提案が盛り込まれている。具体的には、(1)中圧ガス導管と同等以上の保安体制を確保する、(2)パイプラインの露出箇所にガスセンサーを設置し、純水素型燃料電池の上部では通気性を確保する、(3)パイプラインの埋設箇所は定期的な気密試験による漏えい検知を実施するか、公道上に漏えい検知口を敷設し常時監視するか、どちらかの対応を取る――という内容だ。村上氏は「これらの措置によって水素に臭いを付けないで済むか、国との間で現在協議中」という。

事業性という点では、エネルギー事業者の収益を支える燃料電池バス車両への水素充てんの効率化も見落とせない。「この規模になると、1時間に2、3台程度しか水素を充てんできない。水素ステーションには、BRTの運行に支障を来さない範囲でできるだけ多くの車両に水素を充てんする効率的な運営が求められる」(村上氏)。

整備計画では、水素ステーション運営の効率化に向けた具体策として、(1)BRT事業者と協議し、充てんスケジュールを調整する、(2)運行ダイヤを踏まえてBRTの専用時間帯を設定する、(3)深夜時間帯に車両を預かり、充てんを終えて翌朝に引き渡す――という取り組みを例示する。ステーションを運営するエネルギー事業者が付帯サービスを提供し、それに対してフィーを得ることも念頭に置く。

前段の法的な課題は、街開きに伴って市街地への水素供給を開始する2022年までには整理が付くはず。それ以降はもっぱら、エネルギー事業としての水素供給の事業性が問われることになる。BRTの燃料電池バス車両への供給で収益基盤を固め、市街地への供給でも一定の役割を果たすことができるのか。ここが“水素の街”をつくるうえでの大きなポイントになる。

「選手村地区では、水素インフラのまちづくりが成立するか、その事業性を検証したい。水素のコストや水素ステーションの整備コストが下がれば、水素インフラのまちづくりをほかの地区でも展開できる可能性はある」。村上氏はこう期待を掛ける。