一人もつながるも、自分で選べる


――人と人のつながりをつくるうえで「シェア空間」はどんな役割を果たしますか。


猪熊 つながりをつくるサポート役です。例えばいま設計中の子育て支援施設のような場では、つなぎ役を果たすのはあくまで、人です。コミュニケーションを取れる人が集まって自然とつながりが生まれるシェアハウスと違って、子育て支援施設のような場では運営者の組織力や動きがパフォーマンスを左右します。そしてそれを持続できるようにするためには、そのクオリティーを確保することが大事です。

とはいえ、運営者がずっとかかりっきりになるわけにはいきません。運営者が前に出なくてもその場が成り立つような、自走する状態をつくる必要があります。それには「シェア空間」が、そこでのコミュニケーションが自然と続いていくような、ストレスがない環境をつくり出していないといけません。


――書籍『シェア空間の設計手法』では、大都市から村落まで幅広い場所でつくられたさまざまな「シェア空間」を建築設計の視点からまとめています。その中にイノベーションを感じる例もあったそうですね。


猪熊 驚いたのは、「サトヤマヴィレッジ」という北九州市若松区の分譲住宅地の例です(図)。まとまった土地を開発する場合、普通は開発区域内に道路を整備し、そこから各住宅にアプローチするように計画します。ところがこの例では、区域の外周道路から直接、どの住宅にもアプローチできるように計画しています。そうすることで、住宅に囲まれた大きな共用スペースとしての雑木林を確保したのが特筆すべき点です。

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(図)通常の住宅地開発では、開発区域内に区画道路を整備し、その道路に沿って住宅を並べる(図左)。「サトヤマヴィレッジ」では、開発区域の外周道路から全ての住宅に直接アプローチできるような造りを採用した(図右)。完成は2008年。事業主は、都市デザインシステム(開発当時)、エス・コンセプト、コプラスの3社(出典:『シェア空間の設計手法』(2016年12月、学芸出版社))


――これまでの経験を踏まえて、都市内に「シェア空間」を確保していくうえでのポイントを教えてください。


猪熊 シェアされている場にいる人が他人との間で気を使わないで済む空間をつくることです。その場に一人でいることもできるし、誰かと関わることもできる。どうするかは自分で選べる状態をつくることが重要です。

先ほどの「サトヤマヴィレッジ」の例で言えば、雑木林の広さが何より効いています。共用スペースが4、5世帯に1カ所割り当てられるような造りだと、そこでバーベキューをやろうにも、ほかの全世帯にも声を掛けないとやりづらい。しかしこの広さなら、勝手に始めても気まずい思いはしないだろうし、近くには例えば犬を散歩させている人も来たりして、自由な雰囲気がある。

誰にとっても居場所になる空間を

そういう自由度が広がる方向に空間をつくっているのがいいと思います。下手をすると、同じことを一斉にやる方向にその場にいる人を拘束しかねません。それでは「シェア空間」は持続しない。一人でいても居心地が悪くならないような配慮が必要です。

自由度を担保する基本は、共用スペースの中に居場所をたくさんつくることです。「サトヤマヴィレッジ」の雑木林では、周囲の建物が雁行し、たくさんの木が植えられているため、それが実現されています。ここがただの四角い空間だったら、居場所を確保しづらい。ぽつんと真ん中にいれば、周囲から監視されているようで落ち着きません。

私たちが設計したシェアハウス「LT城西」でも、共用スペースをパズル状に立体的に組み込んでいます(写真)。空間としてはつながっていますが、一人になりたいときは、誰もが好きな場所に身を寄せたり隠れたりすることができるような造りです。ほかの空間とのつながり方やスケール感が、ポイントです。

(写真)成瀬・猪熊建築設計事務所が設計を担当した名古屋市西区のシェアハウス「LT城西」。3層構造の中に、プライベートスペースと共用スペースを入り組むように配置している(撮影:西川公朗)


――他人との距離感を自分で調整できるようにするわけですね。ほかに何か、ご自身でも心掛けている点はありますか。


猪熊 できるだけ誰も排除しないような空間づくりです。シェアハウスではよく、同じ趣味を持つ人で入居者を構成したりもします。入居者集めのやり方としてはうまいと思いますが、それはそれ以外の人を排除しているわけです。いま設計中の子育て支援施設でも、意匠に凝れば凝るほど、本当にサポートすべき層から遠ざかっていくように感じています。そこを訪れにくいという気後れを感じさせるようではいけません。誰もがふらっと訪れることのできるものにしたいですね。


――「シェア空間」の未来をどのようにご覧になりますか。


猪熊 理想は、誰もが自由に入り込めて、好きに立ち去れる空間です。そういう自由度の高い空間が、生きていくうえでの課題を乗り越えるためにうまく活用される。それが「シェア空間」づくりに携わる私の願いです。そんな「シェア空間」が都市内に広がっていくといいと思います。

猪熊純(いのくま・じゅん)氏。東京大学大学院修士課程修了。千葉学建築計画事務所を経て、2007年に成瀬・猪熊建築設計事務所を共同設立。2008年から首都大学東京助教。編著書に『シェアをデザインする』『シェア空間の設計手法』などがある