人と人のつながりを生み出す「シェア空間」が価値を持ち始めている。都市内には、シェアハウスやシェアオフィスをはじめ、多様な「シェア空間」が登場してきた。単身の高齢者や子育て世代の孤立化が問題視される中、ますます広がりを見せるであろう「シェア空間」。空間づくりに何が求められるか、建築家で首都大学東京助教も務める猪熊純氏に聞いた。


――「FabCafe Tokyo」(東京都渋谷区)やシェアハウス「LT城西」(名古屋市西区)など「シェア空間」の設計を手掛ける一方、『シェアをデザインする』(2013年12月、学芸出版社)や『シェア空間の設計手法』(2016年12月、学芸出版社)など「シェア」関連書籍の編集にも携わってきました。どのような関心から「シェア空間」に関わってきたのですか。


猪熊 独立したころは、「シェア」という分野にはアンテナすら張っていませんでした。ところが10年近く前、不動産業界ではシェアハウスが話題になっていた時期、その事業を手掛けるベンチャー経営者が、建築設計の分かる専門家の話を聞きたいと人づてに訪ねてきたことがありました。その経営者は、分譲マンションの住戸を改修しシェアハウスとして入居者に貸す事業から手を広げていったようです。その当時は、マンションをまるまる1棟借り上げて、同じように内部を改修し、複数人に貸すビジネスに乗り出そうとしていました。

成瀬・猪熊建築設計事務所の猪熊純氏。首都大学東京助教も務める(以下、人物写真の撮影は尾関裕士)

都市部で一人暮らしと言えば、当時はもっぱらワンルームマンションです。建物1棟の中に20㎡程度の狭い住戸をぎっしり詰めて終わりですから、建築設計者のクリエイティビティーを発揮するフィールドではありません。

これに対してシェアハウスは、ワンルームマンションと違って共用スペースを持つ単身者向け住宅です。それが、ビジネスとして成立している。その事実を、実際にシェアハウスをビジネスとして展開している人から聞いた時、その共用スペースはいくらでもいじれると思ったのです。共用スペースのような大きな空間なら、残る住戸スペースのレイアウトによってさまざまな空間を生み出せます。私たちのような建築設計者が、しっかり入り込める余地がある。

話を聞くうちに、シェアハウスなら数十戸規模で新しい生活空間や生活の幅を広げる住み方を提案できそうだと思うようになりました。

「シェア空間」を社会インフラに


――その延長線上で、広くシェアビジネスの関係者にインタビューしたり共にイベントを開催したりして、その成果を書籍『シェアをデザインする』に結び付けます。関心の領域をシェアハウスから「シェア空間」へと広げる中で、何が見えてきましたか。


猪熊 人と人のつながりを取り戻す手段を社会のインフラとして整えるのが建築家の役目ということです。コミュニティが失われた社会で個人がどう楽しく生きられるかという問題を考えたとき、中には過去に戻ればいいと指摘する人もいますが、僕はそうは思えません。人と人のつながりをどう取り戻すかという課題を、前向きに受け止めて乗り越えていくほかありません。


――シェアハウスやシェアオフィスの設計で実績を積んできました。ほかのビルタイプでも「シェア空間」が求められる例がありますか。


猪熊 あらゆるビルタイプであると思います。最近相談が多いのは、福祉関係です。

福祉施設では「高齢者」「障害者」など特定のカテゴリーの人たちを集めて、悪く言えば管理しがちです。しかし、施設内に本来あるべき日常の生活を取り込もうとすると、社会ともう一回つなぎ直すことを考えていい。例えば普通の住宅を隣に配置し、そこと交流を図るような試みです。そのとき、互いがどういう距離感を持てると楽しいと思えるか。重要なのは結構、空間の問題だったりします。

子育て支援施設も設計中です。「子育て」ならぬ「孤育て」と言われるように、子育て中の女性の孤立化が指摘されてもいます。私自身、子育て中の身ですから、その大変さは分かります。対策の基本は、保育施設の整備など子育て中の家族をサポートすることですが、子育て世代同士がつながりを持てる機会も欲しい。そうした機会の提供につながるような「シェア空間」があっていいと思います。