「駅まち一体開発」とは、公共交通の利用を前提とした都市開発のあり方。米国では「TOD(Transit Oriented Development)」と呼ぶ。東京ではターミナルの再開発や新駅開発などにその考え方が見て取れる。都市間・地域間の競争が激しくなる中、「人が集まる」という駅の拠点性をまちの価値向上につなげる考え方は、国内外で広く展開されていきそうだ。
渋谷駅を中心とする一帯が、超高層ビル街へと変わろうとしている(写真1)。
駅周辺では目下、合計4カ所で東京急行電鉄など地権者が再開発ビルを建設中。2018年9月開業予定の渋谷ストリームを皮切りに、2023年度までをめどに超高層ビル3棟が次々と開業する見通しだ。渋谷ヒカリエを加えて計4棟の超高層ビルが、駅を取り囲む。

超高層ビルの建設と並行して進むのが、駅改良工事と基盤整備である。
鉄道4社・9路線が乗り入れる渋谷駅は、鉄道各社の駅舎移設・増改築で複雑化し、周辺はJRの線路や幹線道路で東西・南北に分断されている。鉄道各社のデータによれば、単純合計で延べ300万人以上が1日に利用する駅ながら回遊性に欠けていた。
駅改良工事と基盤整備では、駅利用者の動線を改善し、課題である回遊性の向上を図る。歩行者が上下方向に移動する「アーバン・コア」と呼ぶ空間と、水平方向に移動するデッキ空間を組み合わせ、駅からまちへ、まちから駅へ、とつながる歩行者ネットワークの強化を図る計画だ(図1)。

この渋谷駅周辺の再開発こそ、駅まち一体開発の具体例の一つである。
駅まち一体開発では、多くの人が集まる駅と周辺のまちとのつながりを良くすることで、人の集積をまちの価値向上につなげる。それには歩行者ネットワークの整備が不可欠。人をまちに誘い、にぎわいを生み出す。渋谷駅周辺の再開発も、そこを狙う。
もともとはクルマ社会へのアンチテーゼとして米国で生まれた考え方だ。渋谷駅周辺の再開発など駅まち一体開発の計画づくりや建築設計を国内外で手掛ける日建設計で執行役員を務める田中亙氏はこう解説する。
「米国の都市ではクルマ社会の下で郊外化が進む半面、ダウンタウンでは治安が悪化し、コミュニティが弱体化した。その反省に立ち、軌道系の公共交通を中心とした『TOD(Transit Oriented Development)』の考え方が生まれた」
私鉄沿線で日本版TOD
軌道系の公共交通を中心としたまちづくりは、日本ではそれより早く戦前から行われてきた。現在の阪急電鉄の沿線開発である。
鉄道会社はターミナル・梅田を起点に郊外に伸びた私鉄沿線で不動産開発を行い、人口を集積させてきた。鉄道事業による開発利益を不動産開発事業で顕在化させる一方で、不動産開発事業による人口増で鉄道事業の安定を図ってきた。
日本における駅まち一体開発の源流はこうした沿線開発にある。田中氏は「TODとは、公共交通を中心とするまちをつくり、クルマの利用を抑えようとするもの。日本では図らずも、都市郊外の私鉄沿線にそうしたまちが誕生していた」と指摘する。
それから約100年。駅まち一体開発の舞台はいま、渋谷駅の再開発がそうであるように、都市郊外の私鉄沿線から都市中心部へと広がりを見せている。その背景には、鉄道会社間の競争が生じる中、駅ビルが更新時期を迎えるようになってきた点などが挙げられる。
駅の複合機能化も進んできた。「駅ビルで商業やホテルなど多様なサービスが提供されるようになり、地域のハブとして機能するようになってきた。それによってまちの利便性が高まり、駅の拠点性は一段と増すようになった」(田中氏)。
横浜市のみなとみらい21地区のクイーンズスクエア横浜は、複合施設に地下鉄新線の駅を組み込んだ例だ。地上部は、オフィス、商業施設、ホテルなどで構成。地下と地上との間を上下に貫く吹き抜け空間「ステーションコア」が、駅とまちをつなげる(写真2)。

駅まち一体開発は公民連携のまちづくりでもある。田中氏は「公共は都市計画を誘導する狙いで容積率を引き上げ、民間はそれによって得られる開発利益を公共空間づくりに還元する。駅、再開発、まち、それぞれがWin-Winの関係を目指す」と解説する。