2つのプロジェクトがともに関連するネットワーク型コンパクトシティとは、市が2008年3月に策定した第5次総合計画で目標に掲げた都市構造だ。都市拠点、産業拠点、観光拠点、地域拠点など、市内の各拠点間を公共交通ネットワークで結び、拠点への機能集約を図る一方で、互いの機能連携・補完を促す(図4)。

(図4)市が目標とするネットワーク型コンパクトシティの概念図。都市拠点や産業拠点など市内の各拠点に機能誘導・居住誘導を図って拠点性を高め、それらを、階層性を持った公共交通ネットワークで連携・補完することで、コンパクトなエリアで日常生活に必要な機能が充足できるとともに、市民生活の質や都市としての価値・活力を高めることができる都市空間を形成していく(資料:宇都宮市)

地域拠点とは、郊外部各地域で市民の日常生活を支える拠点だ。窓口機能を担う行政施設や生活利便施設などが立地する。周辺町村を合併によって編入しながら市域を広げてきたという都市の成り立ちから、都市計画で市街化を抑制すべき区域と位置付けられる市街化調整区域には、旧町村の中心地区が地域拠点として点在する。

産業拠点とは、例えば芳賀町との境界近くに広がる清原工業団地である。栃木県と宇都宮市街地開発組合が開発し、1970年代半ばから80年代後半にかけて分譲。キヤノンやカルビーなど35の事業所が立地する(2018年8月現在)。広さは約388ha。内陸型工業団地としては国内最大級の規模を持つ。

近くには宇都宮テクノポリスセンター地区という新市街地も整備されている。都市再生機構が2013年3月、土地区画整理事業によって基盤整備を終えた地区で、計画人口は1万3000人を見込む。地区内の人口は増え続けており、2018年7月現在では計画人口の半数を超える7000人近くにまで達している。

これらの拠点に機能誘導・居住誘導を図り、ネットワーク型コンパクトシティへと都市の構造を変えていこうとする背景には、人口減少時代の到来がある。

例えば、宇都宮の市街地と清原工業団地の間に広がる市街化調整区域で地域拠点の一つに定められている平石地区市民センター周辺。現状のままでは生活利便施設の撤退や公共交通サービスの低下などで利便性やまちの魅力の低下が生じかねない、と市はみる。

人口減少下でも持続的に発展していくためには、機能誘導や居住誘導を図る拠点を絞り込み、そこに民間投資を呼び込むことが欠かせない。そうしたネットワーク型コンパクトシティ形成に向けた仕掛けとして、LRTは位置付けられる。

LRTの支線にあたるバス路線開設

「人が移動しやすい仕組みを整備することで機能誘導や居住誘導を図る」。篠原氏はそう説明する。例えば平石地区市民センター周辺に立地する平石中央小学校(写真3)。児童数は100人を大きく割り込む。「しかし、その近くにはLRTの停留場が設置される。それをきっかけに居住誘導が図られ、児童数が増えることも考えられる」(篠原氏)。

(写真3)写真右手が宇都宮市立平石中央小学校。周囲には田園地帯が広がる。写真左手の水田の中にLRTの軌道が敷設され、写真左奥の交差点近くに停留場が設置される予定だ(写真:茂木俊輔)

市は市街化調整区域での機能誘導や居住誘導に向けて、地区計画制度を活用し計画的な土地利用転換を図る一方で、開発許可基準の緩和と強化を同時に進めていく方針だ。地元に対してはすでに、地域拠点ではスーパーやドラッグストアなど生活利便施設の立地を認めていくという基準運用の方向性を示している。

南北の基幹交通軸であるJRに対して、東西の基幹交通軸と言えるLRT。市はこの基幹交通軸を中心に、小型車両を用いる地域内交通や路線バスといった公共交通ネットワークの再編にも取り組む。

バス事業者とともに進めるのは、バス路線の見直しだ。「トランジットセンター」と呼ぶ乗り継ぎを想定した停留場5カ所のうち「ベルモール前」(仮称)と「清原管理センター前」(同)の2カ所では、そこを基点とする新しいバス路線の開設を見込む。基幹交通軸のLRTを本線とすれば、フィーダーとも呼ばれる支線の位置付けだ(図5)。

(図5)LRTの導入ルートと将来の公共交通ネットワークのイメージ。停留場19カ所のうち5カ所は「トランジットセンター」という位置付けで、路線バスやタクシーなどほかの交通機関との乗り継ぎ利用を想定する。これらの停留場の近くには、駅前広場のロータリーのようなほかの交通機関の乗降施設を市や芳賀町が整備することになる(資料:宇都宮市)

こうしたバス路線の再編にどう臨むのか――。LRT沿線エリアで路線バスを運行する関東自動車と東野交通の2社(今年10月に経営統合予定)で取締役専務執行役員を務める吉田元氏は、「LRTと完全に重複する路線は取り止めるが、既存の路線を大きく変えることはない。課題はフィーダーをどう走らせるかという点だ」と答える。

LRTは、朝夕のピーク時は6分間隔、それ以外は10分間隔で運行する計画。乗り継ぎを前提にする以上、運行ダイヤも1時間当たり6~10本は運行するというLRT側と整合を取る必要が生じるが、場合によってはフィーダー側の事業性を損ないかねない。

吉田氏は「運賃による収入だけでは運行できない路線も発生しうる。民間単独で判断した場合の均衡点と社会全体として判断した場合の均衡点に差があるなら、その差を埋める補正メカニズムが欠かせない。その構築は、公共の役割ではないか」と指摘する。

路線バスでは経路検索に遅延情報を

公共交通ネットワークの再編で事業性と並んで重要な視点は、その裏返しでもある利用者にとっての利便性だ。基幹交通軸であるLRTが利用されないことには、各拠点への機能誘導や居住誘導は望めない。

そこで求められるのが、MaaS(Mobility as a Service)の発想である。

路線バスを運行する関東自動車と東野交通を傘下に抱えるみちのりホールディングスには、その意識も垣間見える。同社ではグループディレクターを務める吉田氏は、バス利用の敷居を低くさえすれば、利用者はまだ増やせる、と言い切る。

「昨年訪れたロンドンでは、オリンピックを境に路線バスの利用者が増えている。バスの運行頻度が高いうえに、その位置情報がリアルタイムで分かり、交通系ICカード1枚で乗れるからだ。専用アプリを組み込んだスマートフォンと交通系ICカードがあれば、現在地から目的地まで安心して移動することができる」

みちのりホールディングスでは路線バスの利用を促す狙いから、乗り換え案内サービスを提供するジョルダンと組んで、傘下の事業者が運行するバスの位置情報などの情報提供を、今年10月をめどに開始する予定だ。例えばバスの位置情報が乗り換え案内アプリ各社やグーグルなどに提供されれば、それらの経路検索の結果にはバスの遅延情報が反映される。「関東自動車ではさらに、LRTとの間で共通利用できる交通系ICカードを近い将来、先行導入する」(吉田氏)。

乗り継ぎを前提にした公共交通ネットワークにとって、こうした利用の敷居を低くするサービスは不可欠だ。一方、トランジットセンターでのLRTとの乗り継ぎは路線バスに限らず、地域内交通やタクシーにも及ぶ。MaaSの考え方に立って、それらとの乗り継ぎまでにらんだサービスを提供できれば、LRTの価値は一段と高まる。

図5で示したように、市はLRTをJR宇都宮駅の西口方向に延伸することを検討中だ。西口は栃木県庁や市役所も立地する中心市街地。東口に比べ路線バスの路線数・便数も格段に多い。そこを基幹交通軸としてLRTが運行するようになれば、乗り継ぎを想定した公共交通ネットワークのさらに大掛かりな再編が必要になる。

「自家用車でドアツードアという世界で生きてきただけに、公共交通ネットワークの中で交通機関を乗り継ぐという発想がない」(篠原氏)という宇都宮のまち。そうしたまちで市民のライフスタイルを変えていくことはできるのか――。LRTというハード整備の次の一手が、待たれる。