――そのアプリでは本家のように、予約・決済機能も取り込んでいくことをお考えですか。

佐藤 はい。取り込んでいくことを考えています。ただ、日本では決済手段として無線通信技術「Felica」が普及したものの、世界標準ではなくなり、いま課題に直面しているところです。インバウンド需要も想定しながら、「Felica」が普及している現実と、MaaSという新しい流れをどう調和させるのか、検討している段階です。

日本は公共交通の先進国です。その日本でMaaSがここまで実現しているということを、できるだけ早く社会に示したい。そのスピード感を生み出すことができるかどうか、それが問われます。東京五輪・パラリンピックの開催時期を一つの目標にすえています。

データオープン化が収益増に

インバウンド客が困らないようなサービスを提供したいという気持ちもあります。それは、すべてのサービスに共通の思いで、「乗換案内」ではすでに多言語化を進めています。日本語を含めた14カ国語に対応しています。

――MaaS事業の新会社を設立したのに続き、MaaS事業の一環として、公共交通データHUBシステムの提供を始めました。このシステムはどのようなものですか。

佐藤 公共交通情報のデータ標準化に向けて、交通事業者の負担は小さく、定期的・安定的にデータ提供を可能にするシステムです(図2)。データフォーマットには、国土交通省が提供する「標準的なバス情報フォーマット(GTFS-JP)」「GTFS-RT」を採用しています。交通事業者や自治体が持つさまざまな形式のデータを標準化することによって、公共交通データと「乗換案内」サービスや地図情報サービスなどとの連携を図ります。MaaS事業者にとってのプラットフォームにあたります。

(図2)公共交通データHUBシステムのイメージ図。公共交通事業者からHUBを経由してサービス事業者らに提供する流れと、ほかの公共交通データ配信システムからHUB経由で再配信する流れの2系統がある(画像提供:ジョルダン)
(図2)公共交通データHUBシステムのイメージ図。公共交通事業者からHUBを経由してサービス事業者らに提供する流れと、ほかの公共交通データ配信システムからHUB経由で再配信する流れの2系統がある(画像提供:ジョルダン)

――MaaS事業で用いる公共交通のデータは、ここに集約されるという想定ですか。

佐藤 そうです。公共交通のオープンデータ化は、国も推進し、すでに標準フォーマットが用意されています。ところが、技術面・人材面から標準フォーマットに対応できる交通事業者が非常に少なく、公共交通のデータが思うように集まってきていないのが実情です。

これを集めるためには、データを提供することによって交通事業者側にメリットがあることを示す必要があります。交通事業者がデータを提供したことによって収益をそれまで以上に確保できるようになったという事実を示せれば、交通事業者によるオープンデータ化の流れをつくり出せるのではないか、と考えています。

こうした中で、データが「乗換案内」などの経路検索と連携していると利用者が増えるというメリットを、定性的とはいえ独自に確認して行きたいと考え、公共交通データHUBシステムで情報提供を始めようとしているのが、みちのりホールディングスです。

複数のMaaS事業者が併存

――そのみちのりホールディングスが傘下の交通事業者8社の情報をこのシステムに提供する、とジョルダンで発表しています。路線バスの走行位置を示すロケーションデータも、そこには含まれます。

佐藤 ロケーションデータに関しては、走行位置がどんどん変わりますから、例えば10秒単位で収集しないといけません。データ量は膨大です。一方で、路線バス利用者がこのロケーションデータに集中してアクセスすると、どうなるか。恐らく、路線バス各社のロケーションデータを1カ所に集め、サービス事業者らに配信する場をつくらないと、どうにもならない。そういう理由もあって、この公共交通データHUBシステムの提供を始めたのです。ロケーションデータのアグリゲータービジネスのようなものです。

――例えばこの公共交通データHUBシステムをプラットフォームとして利用して、いくつものMaaS事業者が併存するイメージですか。

佐藤 そうなると思います。経路検索と同じように、提供サービスの異なる2、3の事業者が競合するのではないでしょうか。アルゴリズムにはクセがあるため、このMaaS事業者は鉄道の経路をよく案内する、あのMaaS事業者はバスの経路をよく案内する、といった違いが出るようにも思います。

佐藤俊和(さとう・としかず)氏:東京大学工学系大学院修士課程修了。大学在学中にコンピュータに興味を持ち、修士課程修了後、オフィスコンピューターを開発していたベンチャー企業に就職。1979年にジョルダン情報サービス(当時、現ジョルダン)を設立。ソフトの受託開発や商品開発を手掛けながら、1993年に「東京乗換案内」を開発・販売。機能を拡張しながら、パソコン、インターネット、携帯電話上で提供する。
佐藤俊和(さとう・としかず)氏:東京大学工学系大学院修士課程修了。大学在学中にコンピュータに興味を持ち、修士課程修了後、オフィスコンピューターを開発していたベンチャー企業に就職。1979年にジョルダン情報サービス(当時、現ジョルダン)を設立。ソフトの受託開発や商品開発を手掛けながら、1993年に「東京乗換案内」を開発・販売。機能を拡張しながら、パソコン、インターネット、携帯電話上で提供する。

――7月にJMaaSを設立し、8月に公共交通データHUBシステムの提供を宣言し、10月に「乗換案内」と「行き方案内」を一体化させます。次の目標は何ですか。

佐藤 チケットの販売、つまり決済まで手掛けたいですね。インバウンド客がスマートフォンを用いて決済する、その時こういう仕組みがあるのではないか、とさまざまなアイデアを打ち出していきたい。東京五輪・パラリンピックまで残り2年です。目標を実現できるか否かは定かではありませんが、日本の先進性を示すことができれば、と思います。