単車バス約10台を燃料電池バスに

ところで水素エネルギーを利用するのは、街中の建物だけではない。都心や臨海副都心との間を結ぶBRT(バス高速輸送システム)の車両にも、水素エネルギーを用いる燃料電池バスが導入される。都はBRTの運行に向けて、運行事業者として選定済みの京成バスを中心に公共団体からも出資を仰ぎ、運行主体になる新会社を来年春ごろまでに設立する予定。並行して停留施設などの整備を進め、大会開催前の2019年秋ごろをめどに運行開始にまでこぎつきたい考えだ。

新会社では大会終了後、運行ルートを臨海副都心にまで広げ、選手村が新しい街に生まれ変わったころにその街中にも乗り入れる(図3)。都都市整備局都市基盤部交通計画調整担当課長の松本祐一氏によれば、車両台数は運行当初で単車バスと連節バスの各約10台。このうち単車バス約10台はすべて、燃料電池バスの想定という。

(図3)BRT(バス高速輸送システム)の運行ルート。上から2019年運行開始当初、東京五輪・パラリンピック大会終了後、選手村再開発事業完了後(資料提供:東京都)

このBRTは水素エネルギーの利用という面だけでなく、道路を走行する交通機関という面でも、新しさを持つ。それは、従来型のバスでは十分ではなかった定時性・速達性や利便性・快適性の確保という課題に改めて切り込もうとしている点だ。選手村のまちづくりのコンセプトとは必ずしも結び付かないかもしれないが、こうした「新しさ」を感じさせる交通機関で都心や臨海副都心との間が結ばれるようになるということは、「あこがれ住んでみたい」という気持ちを呼び覚ますことにもなる。

定時性・速達性はどのように確保するのか。松本氏が第一に挙げるのは、停留施設間の距離が長いこと。従来型のバス停は200~300mに1カ所程度なのに対して、BRTの停留施設は約1㎞に1カ所という。停留施設間の距離が長ければ、停車・乗降・発車の回数を抑えられるので、定時性・速達性は自ずと確保されやすくなる。さらに期待されるのは、道路上でBRTの優先走行を可能にする専用レーンの確保や信号制御の実施だ。「この点は現在、警察側と協議中。BRTにとって当面の課題だ」(松本氏)。

「鉄道未満・バス以上」の拠点性

利便性・快適性の確保には、国で検討中のART(次世代都市交通システム)と呼ばれる先端技術を生かす。これらの先端技術は、内閣府が戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の一環として検討中のもの。その開発と実証に向けて協力し合うことを、BRTの運行に取り組む都と京成バスはこの4月、内閣府や車両メーカー3社と覚書を交わした。

具体例の一つは、車いす利用者でも一人で乗り降りできるように停留施設ぎりぎりまでバス車両を接近させられる自動制御技術だ。停留施設の高さをバス車両の乗降口の高さにそろえたうえで、この技術を用いて停留施設との間にすき間が生じない位置に車両を停車させることができれば、停留施設と車両の乗降口との間はフラットになって、車いす利用者でも一人で乗り降りできるようになる(写真2)。

(写真2)BRTのイメージ。米グランドラピッズの例。このシステムは自動制御技術を導入しているわけではないが、停留施設と車両の乗降口はフラットな位置関係にある。車両前面の金属製ラックは自転車積み込み用の荷台(画像提供:東京都)

まちづくりにとってはさらに、停留施設の拠点性にも注目したい。「鉄道未満・バス以上」の輸送力と速達性を持つ交通機関だけに、停留施設の拠点性も「鉄道未満・バス以上」といえる。公道上に整備される施設なので限界はあるにしても、「雨風をしのいで待機できるのはもちろん、地域の中心として人が集まる拠点性を持たせたい」(松本氏)という。ブランディングを目的に車両や停留施設を中心にBRT全体にわたって実施するトータルデザインは、そうした拠点性の向上を後押ししていくに違いない。

しかも、選手村のまちづくりで整備が予定されているBRTの停留施設は、船着き場に近く、カーシェアやシェアサイクルとの共通ターミナルとして整備される「マルチモビリティステーション」。シームレスな乗り換えが可能な交通結節点としての役割を持つので、拠点性は一段と高い。だれもがアクセスしやすい地上に、こうした拠点性の見込まれる公共空間が生まれることで、まちづくりの可能性は広がる。

「誰もがあこがれ住んでみたいと思えるまち」の実現に向けて、まちづくりを事実上担うと言える再開発事業の特定建築者は、どのような提案をみせるのか。この点は回を改めて、詳しく紹介していきたい。