アジアの拠点都市を目指す福岡市の中心部で再開発の動きが具体化してきた。市が中心部の天神地区で新たな空間と雇用を創出する「天神ビッグバン」を打ち出したのが、2015年2月。以来、建て替え更新を促すための追加措置が取られ、2019年1月には民間第1号のプロジェクトが着工に至った。福岡中心部の未来像を、前・後編2回に分けてお伝えする。

2019年1月に着工したのは、「(仮称)天神ビジネスセンター」である。敷地は福岡空港に直結する地下鉄天神駅の真上(写真1)。地元デベロッパーの福岡地所が、地下階や低層部に店舗も配置した延べ床面積6万㎡を超える19階建ての賃貸オフィスビルを建設する(図1)。

(写真1)2019年1月に着工した「(仮称)天神ビジネスセンター」。敷地内に立っていた5棟のビルを福岡地所が順次取得し、それらの敷地をまとめて開発するに至った。手前を走る幹線道路が、天神地区を東西に貫く明治通り(写真:茂木俊輔)
(図1)「(仮称)天神ビジネスセンター」の外観イメージ。ビルの高さは周囲よりひと際高く90m近くに達する。右手のビルとの間には、福岡地所など民間3社が地下鉄天神駅と既設の地下通路にある「星の広場」を結ぶ幅員6m×長さ約120mの地下通路を現在整備中(画像提供:福岡地所)

完成予定は2021年9月。免震構造を採用し、ワンフロア約2370㎡の広さを確保した。建築デザインには日本人建築家を起用し、遊びのあるデザインを取り入れた(図2)。グローバルトップ企業を福岡に呼び込むためのプロジェクトと位置付ける。

(図2)「(仮称)天神ビジネスセンター」の内部イメージ。明治通りと地下に通路を整備している道路の交わるコーナー部分に、地下2階から4階までの6層吹き抜け空間を設ける。地下2階は地下鉄天神駅や現在整備中の地下通路につながる(画像提供:福岡地所)

福岡地所社長室課長の冨田靖人氏は「域内の移転需要に応えるだけでなく、関東、関西、さらに海外から企業を誘致し、域外からの進出需要を掘り起こす先駆けとしたい。社長自らトップセールスに回り、強い手応えを感じている」と自信を見せる。

天神地区で延べ床面積1万㎡以上の大型賃貸オフィスビルが供給されるのは、ほぼ10年ぶり。大型ビルが立ち並ぶ一等地でありながら、建て替え更新は進んでこなかった。表通り沿いには耐震補強のブレースを見せるビルが残る。

福岡市住宅都市局都心創生課長の許斐敬史氏は天神地区で建て替え更新が進んでこなかった理由をこう説明する。

「天神地区は福岡空港から近いという良さがある半面、航空法による高さ制限でビルの高さが抑えられてきた。しかも容積率の規制が導入される前に建設されたビルが多く、いまの規制の下で建て替えると床面積が減ってしまうからだ」

その状況がいま、大きく変わろうとしている。「(仮称)天神ビジネスセンター」の周辺では、建て替え更新や再開発の計画が目白押しだ。

西側の隣接街区で福岡ビルと天神コアビル2棟を建て替える計画を発表したのは、西日本鉄道である(写真2)。敷地面積は約6200㎡。同社では2024年春の開業を目指し、延べ床面積10万㎡規模のオフィスや商業などの複合ビルを建設する計画だ。

(写真2)天神地区を東西南北に貫く明治通りと渡辺通りの交差点に立つ福岡ビル。西日本鉄道ではこのビルを含む一帯で再開発事業に乗り出す。高さが100m近い、オフィス、商業、ホテルの複合ビルを、2024年春の開業を目指し建設する計画だ(写真:茂木俊輔)

「天神ビッグバン」で空間と雇用を

その南側の隣接街区でも、再開発の動きがみられる。三菱地所が「INTER MEDIA STATION(イムズ)」の名称で親しまれた商業施設の営業を2021年度内に終え、再開発に着手することを発表した(写真3)。2022年度内の着工を目標に掲げる。

(写真3)2021年度内に営業を終える商業施設「INTER MEDIA STATION(イムズ)」。右手の奥が市庁舎。左手、細長いビルの隣が、福岡ビルとともに再開発される天神コアビル(写真:茂木俊輔)

建て替え更新や再開発の計画を後押ししている一つの要因が、福岡市が2015年2月に打ち出した「天神ビッグバン」である。これは、アジアの拠点都市としての役割や機能を高め、新たな空間と雇用を創出するプロジェクト。天神交差点から半径約500mの範囲を対象とする。2014年11月に国家戦略特区の一つとして航空法による高さ制限の特例承認を受けたのを契機に、市は都市機能の大幅な向上と増床を図ることを決めた。

航空法による高さ制限とは、航空機が安全に離着陸できるように空港の近くでビルの高さを一定程度以下に抑えることをいう。天神地区は福岡空港から地下鉄で5駅11分程度と近い。そのため、この高さ制限を受ける。

例えば「(仮称)天神ビジネスセンター」の敷地周辺一帯では、ビルの高さは約67mまでに抑えられてきた。ビルの階数で言えば15階程度。天神地区内を歩くと、大阪や名古屋などの大都市と違い、ひと際目立つ超高層は見当たらない。

そこで市は、国家戦略特区の会議の中で航空法による高さ制限の特例承認を求めた。その提案が国に認められたのである。

高さ制限に関してはもともと、ビル単位で個別に申請し、個別承認という形で緩和を受けることは可能だった。ただそれでは、承認を受けるまではどの程度の高さまで緩和を受けられるかがはっきりしない。計画を進めるうえではリスクが見込まれる。

特例承認ではエリア単位でどの程度の高さまで緩和を受けられるかが事前に明示される。対象エリアの第1弾は、明治通り沿いで地区計画を策定していた天神明治通り地区約17ha。高さは、近くにある市庁舎避雷針と同等と示された。同等とは約76mである。

高さと並ぶ課題だった容積率に関しては、市は「天神ビッグバン」に先駆けてすでに手を打っていた。2008年8月に始めた都心部機能更新誘導方策の運用である。