計600%の容積率割り増しで開発へ

これは文字通り、都心部の機能更新を誘導する目的で運用する仕組み。地区計画など既存の制度を活用して、容積率を割り増すときの評価項目に「まちづくり取組み評価」と「敷地外公共施設整備評価」を加えるなど、既存制度の運用を拡充した。

「まちづくり取組み評価」は「九州・アジア」「環境」「魅力」「安全・安心」「共働」の5項目(図3)。これらを合算すると最大400%の容積率割り増しを受けられる。また「敷地外公共施設評価」は地下歩道や道路付加車線の確保などを評価する。

(図3)都心部機能更新誘導方策で定められた「まちづくり取組み評価」の対象になる項目。「九州・アジア」「環境」「魅力」「安全・安心」「共働」「天神ビッグバンボーナス」という項目ごとに計画内容を評価し、容積率の割り増し分を決めていく(出典:「福岡市都市部機能更新誘導方策」)

2016年5月にはさらに、「天神ビッグバンボーナス」分として50%の容積率割り増しを加え、割り増し幅を最大450%まで引き上げた。2024年までに完成予定のビルで魅力あるデザイン性に優れたビルを、その適用対象にすえる。

市都心創生課長の許斐氏は「誘導方策を運用することで、先進的なビルへの建て替えを促すとともに、その足元に広場や歩道などにぎわいをもたらす空間を生み出してもらい、まちづくりに貢献してもらう」と、その狙いを説明する。

冒頭に紹介した「(仮称)天神ビジネスセンター」は実は、この仕組みに基づき容積率の緩和を受けられる見通しが立ったことから着手されたプロジェクトだ。

福岡地所は敷地内に立っていたビル5棟を2008年以降順次取得し、計画の立案を進めた。敷地一帯の指定容積率はもともと800%だったが、地区計画を定め、さらに都心部機能更新誘導方策に基づく各種評価を受けることで計600%の容積率割り増しを受けた。

2017年9月には航空法による高さ制限の特例承認として明示されていた高さが見直され、この敷地に関しては高さ約89mまで建築が可能になった。福岡地所ではそれを受け、計画を見直し。ビルの高さを引き上げる代わりに、敷地の周囲に余裕を持たせ、賃貸オフィスとしてフロア形状を整えた。

福岡地所開発事業部長の古賀良太氏は「航空法による高さ制限の数値がエリア内で一律に引き上げられるのは、画期的なこと。容積率の割り増しとともに、建て替え更新を後押しする力は大きい」と評価する。

企業集積に向けた課題は移転受け皿

市が「天神ビッグバン」を打ち出した時点で目標に掲げたのは、2024年までの向こう10年間でビル30棟の建て替えを誘導すること。それによって、延べ床面積は約1.7倍、雇用者数は約2.4倍に増える、とその効果をはじき出した。

ただ、建て替え更新や再開発によって企業集積が一段と進んでいくか、という点には課題も残る。建て替え更新や再開発で取り壊されるビルに入居するテナント企業の移転先を確保できるかが問題になる。

「『(仮称)天神ビジネスセンター』の開発に着手する時は周辺の賃貸オフィスにまだ空室があったため、テナント企業の移転先を確保できた。しかしいま、空室率は2%を切る水準まで下がり、移転先の確保は容易でない」。福岡地所の古賀氏もそう指摘するほどだ。

そこで福岡地所がイオン九州とともに取り組むのが、移転受け皿の供給である。

イオン九州は天神地区で1971年から営業してきたイオンショッパーズ福岡店の地下1階から4階までの商業スペースをリニューアルするのに併せ、5階から8階までの1万㎡以上を賃貸用のオフィススペースに切り替える。

福岡地所はこのオフィススペースを賃借し、内装工事を実施したうえで移転先を求めるテナント企業に転貸する。「受け入れ可能になるのは、早くて秋ごろの見通し。移転先を探すビルオーナーからの問い合わせをすでに受けている」(古賀氏)。

同社では現在、天神地区に3棟のビルを保有する。「(仮称)天神ビジネスセンター」に続く、第2弾、第3弾、第4弾のプロジェクトが控える。

古賀氏は「『(仮称)天神ビジネスセンター』並みの規模を目指し、周囲との共同化を前提に建て替えを検討している。関係者ともすでに勉強会レベルで話し合いを進めている」と明かす。福岡地所にとっても、移転先の確保は見過ごせない課題だ。

求心力はある。福岡の魅力を、福岡地所の冨田氏は「九州の拠点都市。大学が多く、人材を確保しやすい」と、古賀氏は「アジアに近く、生活しやすく働きやすい環境もある。災害時のバックアップ需要も見込める」と説く。実際、市内では世帯数と人口がこの20年間、右肩上がりに増えてきた(図4)。

(図4)福岡市内の世帯数と人口の推移。各年9月30日現在の住民基本台帳に基づく。20年前に比べ、世帯数は4割近く、人口は2割近く増えた(資料:福岡市)

建て替え更新や再開発によって床面積が増えれば、企業集積はさらに高まる可能性は十分に見込める。「天神ビッグバン」の本格始動に向け、移転受け皿の確保が急がれる。