未来を先取りしたデータ駆動型の都市が今後誕生していきそうだ。内閣府が打ち出すスーパーシティ構想である。実現への手続きを定めた国家戦略特別区域法等の改正法案は、6月に閉会した通常国会での廃案を経て、10月召集とも観測される臨時国会に再上程の見通しだ。「スーパーシティ」とは何か、うまくいくのか。再上程を前にいまあらためて整理する。

2020年東京五輪・パラリンピックの次の焦点は「2025年国際博覧会(大阪・関西万博)」とでも言わんばかりだ。都市の領域でいま熱い視線を注がれているのが、その開催地・大阪である。万博を契機に、大阪はどう変わるのか――。

万博会場である人工島・夢洲と中心部との間を結ぶ交通インフラ整備やそれに伴う開発事業が大きなインパクトをもたらすことは間違いない。しかも、万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。サブテーマに「多様で心身ともに健康な生き方」「持続可能な社会・経済システム」を掲げる。こうしたテーマ立てから、ライフサイエンス・バイオメディカル関連の企業立地が一段と進むのではないか、という期待感も高まる。

注目の的は、もう一つ。万博に向けたスマートシティ化である。この4月にダブル選挙を制した大阪府知事の吉村洋文氏が選挙公約に掲げた政策。狙いは、住民のQOL(生活の質)向上である(図1)。

(図1)大阪において重要と思われるスマートシティのイメージ。「住民サービス」「都市戦略」両面でQOL(生活の質)向上を目指す(出所:副首都推進本部会議資料)
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府はこの8月、副首都・大阪を目指し大阪市とともに組織する副首都推進本部会議の下に大阪スマートシティ戦略会議を立ち上げ、検討成果を来年度予算案に反映しようと11月に中間取りまとめを行う見通しを明らかにした。

その大阪が目指すのが、内閣府が構想するスーパーシティである。同構想に関する内閣府資料の言葉を借りれば、「まるごと未来都市」。ポイントは3つある。

まず、そこで提供されるサービスがエネルギーや交通など個別の領域にとどまらず生活全般にわたること。「まるごと」とはそういう意味だ。内閣府では例として、①移動②物流③支払い④行政⑤医療・介護⑥教育⑦エネルギー・水⑧環境・ゴミ⑨防犯⑩防災・安全――といった領域を挙げ、これらを広くカバーするサービスを想定する。

具体的にはどのようなサービスが考えられるのか。内閣府地方創生推進事務局参事官の永山寛理氏は、配車予約、診療受付、デジタル通貨によるキャッシュレス決済の3つをスマートフォンのアプリケーション上で同時に受けられるものの一例として挙げる。

サービスを受ける主体は、過疎地の高齢者である。事業効率や費用負担の面から医療機関を受診するときにタクシー会社の配車サービスを受けられず、往復の足に困っている高齢者を念頭に置く。

このアプリでは、そうした高齢者を医療機関との間の送迎を担ってくれるドライバーとまずマッチングし、医療機関到着後できるだけ短い待ち時間で受診できるように配車予約と診療受付を完了させる。送迎サービスに対する対価の支払いは同じアプリ上でキャッシュレス決済によって済ませることができる。ただ送迎サービスが法律上のタクシー事業に該当しないように、対価のやり取りにはデジタル版の地域通貨を用いる。このデジタル通貨は地域通貨として公共サービスの対価支払いに充てられる。

規制改革の断行で「未来」を先取り

こうした「まるごと」を実現するには、先ほどの例示にならえば「移動」「医療・介護」「支払い」といった異なる領域間でのデータの連携基盤が欠かせない。ここに、生活全般にわたって提供される各種サービスの利用に関するデータや都市インフラに取り付けられた各種センサーなどから得られるデータが蓄積される。これらビッグデータを人工知能(AI)で解析し、新しいサービスの開発に結び付けていくことも想定する(図2)。スーパーシティ構想ではこの基盤を「都市OS(オペレーティングシステム)」と呼ぶ。

(図2)スーパーシティ構想のイメージ。生活全般にまたがるサービスを、分野間でデータ連携しつつ提供する。人工知能(AI)の活用によるビッグデータ解析も想定する(出所:内閣府資料)
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次のポイントは、最先端技術の実証を一時的に行うのではなく、暮らしに実装すること。実証実験の段階ではなく、社会実装の段階ということだ。2030年頃に実現される未来社会での暮らしを加速実現することを目指す。

言わば「未来の先取り」である。内閣府では一例として、「自動走行のみ」「現金取り扱い・紙書類なし」という未来感を挙げる。この「未来」とは、新しい技術の開発によって切り開かれるものもあれば、必要な技術はあるものの法規制のような社会的な理由から現実社会の中ではそれを活用し切れないため、まだ実現できないものもある。ただ技術開発がさらに進み、必要な規制改革を断行できれば、実現は可能だ。

例えば未来の象徴として挙げる自動走行。その実現に向けた法制度の整備はいま着々と進められている。この6月に閉会した通常国会では、自動運転車両の安全性を確保するための制度を整備する改正道路運送車両法や、自動運行装置を備えた車両のドライバーに課す義務を定めた改正道路交通法が、いずれも可決・成立した。技術面はもちろん、法規制の面でも、日本は着実に自動運転社会に近づきつつある。

「完全自動運転のレベルになると、どの国でもまだ実現していない。しかし技術的には、そう遠くない時期に実現可能になるだろう。自動運転に対する住民合意が一定の条件の下で得られる区域では、特例措置の適用によって完全自動運転に近いレベルを実現していくことも考えられる」。内閣府の永山氏は解説する。

つまり、規制改革による「未来の先取り」である。例えば先ほどの配車予約、診療受付、デジタル通貨によるキャッシュレス決済という3つを一体提供するサービスでも、課題は技術よりむしろ法規制。「タクシー事業との関係やデジタル通貨の性格など、法規制の面で整理すべき課題がある」(永山氏)という。これらの課題を規制改革によって解消できれば、タクシーの配車予約が望めない過疎地の高齢者でも、医療機関をスムースに利用することができるという未来を実現できる。