住民目線のサービスをまるごと提供

ポイントの最後は、技術開発側・供給側の目線ではなく、住民目線で未来社会を前倒しで実現するということ。内閣府が「まるごと」の説明に「生活全般」という言い方をしていることにも、また大阪のスマートシティ化で「住民のQOL」という表現が使われていることにも、この「住民目線」の重要性がよく表れている。

これは取りも直さず、先取りする未来とは住民にとっての未来であるということ。最先端技術を暮らしに実装し、新しいサービスを「まるごと」提供することで、未来を先取りする。それには、「まるごと」提供される新しいサービスが、日常生活の中に自然と組み込まれ、定着していかないといけない。「住民目線」を徹底するには、住民の抱える生活課題の解決に技術を役立てようという姿勢でサービス開発に臨むことが求められる。

住民合意の下で必要な規制改革を断行し、住民目線でビッグデータを活用しながらサービス開発を進めていく――。スーパーシティはこうしたデータに基づく新しいサービスの開発という角度から、未来の暮らしをつくり上げていこうとするものだ。

このスーパーシティという都市・地域をどのように実現していくか。その手続きを定めたのが、この6月に閣議決定し通常国会に上程されながら、時間切れ廃案になった国家戦略特別区域法等の改正法案、通称スーパーシティ法案である。

「国家戦略特区法は毎年のように改正しているもの。新たな規制改革事項を盛り込めないか、検討する」と永山氏。スーパーシティをどう実現していくか、その手続きに関する規定はすえ置いたまま新しい規制改革事項を加え、再上程を目指すという。

ここでは通常国会に上程され廃案になった改正法案(以下、旧法案)を基に、スーパーシティ実現までのプロセスをみていこう。

旧法案ではまず、都市OSであるデータ連携基盤の整備事業を法定化。同事業の実施主体で国の安全基準に適合するものは国や自治体に対しその保有データの提供を求めることができるという規定を置いた。ただ都市OSの整備という事業だけに目を向ければ、決して新しいものではない。総務省が2017年度から取り組んできたデータ利活用型スマートシティ推進事業が、それに重なる。初年度の公募で事業採択された団体は、一般財団法人さっぽろ産業振興財団、株式会社リアライズ、兵庫県加古川市など、6団体に上る。

トロントを反面教師にビジョン重視

スーパーシティがこのデータ利活用型スマートシティ推進事業と決定的に異なるのは、住民合意を前提とする特例措置の適用という形で規制改革を想定している点だ。

住民合意とは、スーパーシティで想定される未来の暮らしを良しとするか、そこで必要になる特例措置の適用を良しとするか、という都市・地域の将来像に対するものだ。永山氏は「合意手法はスーパーシティで提供するサービスに応じて議会議決や住民投票など多様なものが考えられる。自治体と関係事業者に内閣府も加えた国家戦略特別区域会議でそれらの中から適切な手法を選ぶことになる。内閣府令で具体的に列挙する想定」と明かす。

都市・地域の将来像に対する合意が得られれば、規制の特例措置を求める手続きに入る。旧法案では特例措置の適用に向けて、①住民合意の形成②総理から所管大臣への検討要請③国家戦略特別区域諮問会議から所管大臣への勧告――という仕組みを新しく取り入れた(図3)。これによって特例措置の適用を受けながら事業計画を同時・一体・包括的に実現していくことを狙う。

(図3)スーパーシティ(SC)型は現行法で定める従来型に比べ、事業計画立案の段階と各省検討の段階に大きな差がある。住民合意から始まる同時・一体・包括的なプロセスで規制の特例措置を求め、規制改革を推し進める(出所:内閣府資料)
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仕切り直しの新法案は10月召集とも観測される臨時国会に再上程される見通し。可決・成立し施行されれば、内閣府では公募によってごく少数のエリアを透明なプロセスで支援対象の候補地として選定する予定だ(図4)。

(図4)内閣府では支援対象としてごく少数のエリアを選定する予定。選定にあたっての重要要素として、住民の合意形成を促進・実現できるビジョンとリーダーシップを備えた首長と最新技術を実装できる企業の2つを挙げる(出所:内閣府資料)

そこで想定するのは、新規開発型と既存都市型の2つ。「思い切った革新的なものを開発するなら、新規開発型が向く。一方で、地方都市のような既存都市で水平展開の図れそうなものを整備する価値もある」と永山氏は補足する。

スーパーシティ実現までの道筋で反面教師とするのは、カナダ・トロント市の例だ。内閣府によれば、米グーグル系列の会社が行政と連携し、センサーで把握した人やモノの動きをビッグデータとして活用したまちづくりを進めているが、住民の不安による混乱や遅滞も見られるという。「まずデータをください、どんなサービスを提供するかはそれから考えていきます、という姿勢では反発を受ける。まずビジョンを示すべき」(永山氏)。

ビジョンとは、住民合意の手続きを前に示される都市・地域の将来像。永山氏は「『移動』『物流』『支払い』など各領域にまたがるサービスの提供で暮らしがどれだけ便利になるのかというメリットを、住民の目に見える形で具体的にパッケージとして示すことが、そこでは求められる」と強調する。

第4次産業革命に向け、新しい経済価値を生み出すことが期待されるようになった都市。その未来の姿が、いままた新たに形づくられようとしている。