高齢期の住まいを考える一つの視点がある。住み慣れた地域で安心して暮らし続ける仕組みをどうつくるか――。高齢期の住まいは決してハードの問題ではなく、ソフト一体の仕組みの問題なのである。戦後の自由を謳歌(おうか)し自立を願う団塊の世代以降の住まいを考えると、なおさらそうだろう。その仕組みを模索しながら新しいスタイルの高齢者住宅を運営する東京都板橋区内の例に、高齢期の住まいの未来をみる。

この高齢者住宅は、2014年12月に開設した「ゆいま~る高島平」。全国8カ所で「ゆいま~る」ブランドの高齢者住宅を運営する株式会社コミュニティネットが運営する。都市再生機構(UR都市機構)の前身にあたる日本住宅公団が1970年代に開設した高島平団地(東京都板橋区)内の住棟の一部35戸を、同社が事業期間20年にわたって借り上げ、60歳以上の高齢者に転貸する仕組みだ(写真1)。

(写真1)ゆいま~る高島平の住戸35戸がある高島平団地(東京都板橋区)内の住棟。周囲には緑の豊かな環境が広がる(画像提供:コミュニティネット)

高齢者住宅とは言っても、住棟内のほかの住戸と明確な区別はない。玄関扉の脇に木製の手すりが設置されている程度。住戸内は間取り変更など改修工事を施しているのでほかの住戸とは異なるが、外見上は周囲にすっかり溶け込んでいる(写真2)。改修工事費は、UR都市機構の改修費と国や東京都からの補助金で賄っている。

(写真2)ゆいま~る高島平の住戸例。広さは40㎡超。改修工事を施し、バルコニーに面する南側と玄関のある北側をひと続きの空間に改めた(画像提供:コミュニティネット)

入居者の暮らしも、団地住民と変わりなさそうだ。一事業者が運営する高齢者住宅だからという理由で生活上の制約があるわけではない。古い団地だけに住民には確かに高齢者は多いが、ほかの世代の住民と交流を持つことは可能だ。

一方で、ほかの住戸に比べ家賃設定が若干高く生活支援サービス費も加わるため、居住費負担はかさむ。住戸の広さは43㎡前後。そこに一人住まいの場合で月額負担は13万2300~6800円に上る。それでも入居率は高く、7月末時点で30戸が埋まる。「向こう3年内をめどに50戸まで増やしたい」。コミュニティネット運営部部長の玉井美子氏は事業拡大に意欲を見せる。

ゆいま~る高島平の特徴の一つは、住棟内に分散する住戸の入居者に生活支援サービスを提供する点にある。内容は大きく分けて、「状況把握」「緊急時対応」「生活相談」の3つ。コミュニティネットの職員が朝9時から夜6時までの間、入居者の様子を見守り、生活上の相談に乗る。その拠点として、隣の住棟1階にフロントと呼ぶ事務所を置く(写真3)。ここには常勤者2人を配置し、必要に応じて本社から応援を送り込むという。

(写真3)ゆいま~る高島平の職員が常駐し活動の拠点とするフロント。午後1〜3時までの間は誰でも自由に出入りできる(画像提供:コミュニティネット)

それまでの暮らしの延長線上でいられる

ただし、高齢者住宅の一類型である有料老人ホームと違って、介護や食事のサービスに関しては相談には乗るものの自ら提供することはない。これらのサービスを必要とする入居者は個別の事業者からその提供を受ける前提だ。サービスを提供する事業者が地域内に数多く立地する都市部だからこそ可能なスタイルとも言える。

ゆいま~る高島平のように状況把握や生活相談という最低限2つの生活支援サービスを提供する高齢者住宅は、「サービス付き高齢者向け住宅(サ付き住宅)」と呼ばれる。国が2011年10月に登録制度を開始したもので、そこで定める条件を満たすものは整備費に対する補助金や税制上の優遇措置などを受けられる。登録戸数は制度創設以来、右肩上がりに増え続け、この5年近くで20万戸を超える。

その中で言えば、ゆいま~る高島平はたとえ介護を必要としていても比較的軽度な高齢者向けと位置付けられるのかもしれない。実際、入居者33人のうち介護保険制度の要介護・要支援の認定を受けている高齢者は10人。3分の2は自立の高齢者という。今後、介護や医療が必要になった場合には、訪問介護や訪問看護など地域内のサービスを利用しながら住み続けてもらう想定だ。それらのサービスを自ら提供することはない。

高齢者にとって至れり尽くせりのサービスを提供するわけではないゆいま~る高島平。にもかかわらず、入居者が集まる理由は何か――。

玉井氏が挙げる魅力の一つは、居住環境の面でそれまでの暮らしの延長線上でいられることだ。通常、高齢者住宅と言えば、大多数は一つの住棟内に高齢者だけが暮らし、そこにサービスを提供する運営会社の職員も常駐する。しかもサ付き住宅でさえ、広さ25㎡未満の住戸が4分の3を上回るというほど、住戸面積は狭いのが当たり前。限られたコミュニティと限られた広さの中で暮らさざるを得ない。ゆいま~る高島平では、そうした暮らしを強いられる心配がないわけだ。

「閉鎖された中で暮らすと精神的な不満を抱きがち。しかしここなら、のびのび暮らせる。職員が日中常駐するフロントは隣の住棟1階に置いているので、そことの距離感を自分でコントロールすることもできる」。玉井氏はこう強調する。

ゆいま~る高島平の入居者は一方で、フロントに常駐する職員から先ほど挙げたような生活支援サービスを受けられる。