安否確認は情報端末からのメール送信で

そのうちの一つが状況把握、いわゆる安否確認である。ゆいま~る高島平では、ボタン一つでメールを送信できる手のひらサイズの情報端末を用いる。入居者は毎朝10時までに、この機能を用いてフロント側にメールを送る(写真4)。それを、フロントの職員が毎朝10時ごろに確認する。この段階でメールの届いていない入居者に対しては、電話を掛けたり住戸を訪ねたりすることでその安否を見極めるという。

(写真4)ゆいま~る高島平で安否確認に利用する情報端末。入居者は毎朝、これを用いてフロント側にメールを送信する。左のストラップを引き抜くと、警備保障会社に緊急通報できる(画像提供:コミュニティネット)

入居者と直接顔を合わせる機会も確保する。午後3時ごろに住棟内を定期巡回し、体調の悪そうな入居者や何か用事のある入居者に関しては巡回途中で訪ねて声を掛けるという。さらに、「イベントカレンダーや費用明細書を毎月配布するとき、開設当初は郵便受けへのポスティングで済ませていたが、いまはできるだけ直接手渡しするようにしている」。玉井氏は運営上の工夫を明かす。

安否確認で用いる情報端末は警備保障会社が運用するもの。緊急用のストラップを引き抜くだけで緊急通報する機能を備える。緊急事態が生じた場合、入居者はこの機能を用いて警備保障会社に異状を知らせ、一次対応を待つ。ゆいま~る高島平の職員には警備保障会社側から必要に応じて連絡が入るため、職員が入居者のもとに駆け付けることもあるという。

こうした情報端末を用いるのは、「ゆいま~る」シリーズでは初の試みだ。高島平は団地の住棟内に住戸が分散し、フロントとも距離を置く。そうした分散型のスタイルの中で生活支援サービスの提供を徹底するには、情報端末は欠かせないという。「フロントや警備保障会社とつながっているという安心感も抱いてもらえる」。玉井氏はそう評価する。

もう一つの生活支援サービスは生活相談である。これは、例えばフロントを開放している毎日午後1~3時までの間、そこに自由に出入りしてもらう中で持ち掛けてもらう。日常、顔を合わせる中でも、もちろん対応は可能。日常生活上の困りごとのほか、介護保険内外の各種サービスの利用に関する相談などに乗る。

生活支援サービス単独の提供にも本腰を

生活相談の根っこには、不安感がある。例えば、介護が必要になったら、どうすればいいのか――。そうした不安をできるだけ小さくするような「備え」として、ゆいま~る高島平では勉強会を月1回のペースで開催する。生活相談に個別に乗るのとは異なるが、入居者の不安を和らげるという観点で同じような役割を果たすことが期待できる。名称は「完成期医療福祉部会」。専門職向けの勉強会を思わせる名称だが、対象はあくまで入居者。専門家を招き、薬や口腔ケアなどをテーマに学ぶ。

「ゆいま~る」の流儀は、入居者自らが暮らし方を決め、それを築き上げていく、というもの。ゆいま~る高島平を開設する前の2012年8月から、団地内に「高島平団地で暮らし続けるしくみをつくる会」を立ち上げ、団地内外の高齢者らと月1回のペースでその「しくみ」を検討してきた。この7月は、入居者らが毎週日曜日にフロントで昼食を共にする「お好みランチ会」の後に、地域内で望まれる「食」の提供に向けた仕組みを話し合っている。こうした「攻め」の姿勢も、不安の解消を図る「備え」につながっているといえる。

ゆいま~る高島平では生活支援サービスを今後、その入居者以外の団地住民にも単独で提供していくことを視野に入れる。すでに、一人暮らしが心配という家族からの要望を受け、団地内に暮らす高齢者2人にサービスを提供中だ。玉井氏は「フロントから5分程度で駆け付けられる住戸に限られるが、この夏から広めていきたい」と意気込む。高齢者やその家族に安心感だけを提供しながら、ゆいま~る高島平の存在意義を広めていく戦略だ。生活支援サービスだけを切り離して提供することは、事業収益面でもプラスに働くという。

生活支援サービスの提供者である自らの立場を、玉井氏は「準家族」と言う。地域資源である医療や介護サービスに通じていることも求められるだけに、地域コーディネーターとしての役割も果たす「準家族」が一つの理想だ。そうした「準家族」として振る舞える人材が、「住み慣れた地域で安心して暮らし続ける仕組み」には欠かせない(写真5)。

(写真5)高島平団地内で花見を楽しむ。1970年代に開設された団地ともなれば、植栽が育っている分、居住環境として豊かさが感じられる(画像提供:コミュニティネット)

幸い、都市部には高島平団地のように、居住環境に恵まれながらも空き住戸が目立つ住宅地は少なくない。そこに「準家族」の拠点を確保し、状況把握や緊急通報を手助けする情報システムの利用環境を整えることは決して難しくない。「準家族」として振る舞える人材の確保・育成に課題は残るかもしれないが、住み慣れた地域で安心して暮らし続ける仕組みの一つが、空き住戸を活用した分散型の高齢者住宅というスタイルで都市部に広まっていくことは十分に考えられる。

「これからの時代、都市部ではこのスタイルしかない」。玉井氏はその可能性を高く評価している。