無料で乗船率63%、適正な運賃はいくら?

もちろん、臨海部と都心部との間に移動のニーズがあるのは間違いない。今回の社会実験では10日間にわたって計140便を運航したところ、乗船人数は計2834人(図3)。1便当たり平均約20人が乗船した計算だ。乗船率は63%という。

(図3)社会実験期間中の乗船人数。通勤利用を想定したとはいえ乗船目的は限定していないため、また夏休み中ということもあり、家族連れなど通勤利用以外の乗船客も見られた(出所:東京都資料)
(図3)社会実験期間中の乗船人数。通勤利用を想定したとはいえ乗船目的は限定していないため、また夏休み中ということもあり、家族連れなど通勤利用以外の乗船客も見られた(出所:東京都資料)
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池田氏は「かなり利用してもらったという印象」と言うが、問題は、運賃だ。社会実験では無料だったため、これだけの比率に達したのは疑いようもない。運賃の水準によって乗船客の数は増減しうるだけに、運賃設定は極めて重要だ。

感覚的に言えば、地下鉄利用の場合と比べそう変わりない300円程度という水準が一つの目安ではないかと考えられる。所要時間の面でも運賃の面でもそう変わりないなら、交通機関として地下鉄に代替しうるという考え方だ。

しかしその水準は、実現困難のようだ。それは、1日当たりの輸送人員を増やすにも各種の制約から限りがあるからだ。

まず日本橋川を運航するとなると、橋梁の桁下制限の関係で船の規模が限られる。しかも先ほど書いたように、運航間隔は15分がやっと。池田氏も「今後検証することではあるが、地下鉄並みの300円程度に運賃を設定するのは厳しい」と認める。

それでも、社会実験に踏み切る以上、最初から定期運航への移行を諦めているわけでは決してない。「プラスアルファの価値を訴えていけば可能性は見込める」と池田氏。混雑なしに着席して移動できる点は、プラスアルファの価値として評価されるとみる。

とりわけ夏場は、この「混雑なし」の価値は確かに大きい。勝どき駅にしても日本橋駅にしても、朝は通勤客でごった返す。車両はもちろん、地上部に出るまでは息苦しい思いを強いられる。そうした混雑と無縁に通勤できるのは魅力だろう。

ただ定期運航時にプラスアルファの価値を訴えていくには、課題もある。

一つは、雨対策である。社会実験で用いた船は屋根なしと屋根ありの2つのタイプ。屋根なしの船には降雨に備えてポンチョを用意していたというが、それでは実際に雨が降った時、プラスアルファの価値であるはずの快適性が損なわれるのは明らかだ。「実験期間中は出番がなく検証はできないが、雨対策は今後も考えざるを得ない」(池田氏)。

もう一つ、出勤時だけでなく帰宅時の運航も実現できないか、という点もある。

今回の社会実験では、運航時間帯は朝7時30分から9時までと出勤時間帯に限定された。帰宅時間帯は舟運事業者が自らの事業を行う時間帯でもあるからだ。

ショートカット+シェアサイクルの可能性

しかし利用者の立場からすると、帰宅時こそ時間に余裕を持てるだけに、舟運との相性はいい。日本橋エリアで飲食した後、船でゆっくり外の風に当たりながら朝潮運河船着場方面に帰宅する、という利用も見込まれるのではないか。帰宅時なら出勤時に比べ、プラスアルファの価値も打ち出しやすそうだ。

池田氏はこうした想定需要を認めたうえで、「帰宅時であれば、出勤時とは違って15分間隔である必要はないのかもしれない。今後、検討していきたい」と話す。

臨海部には実は、都心部との間以上に実現可能性の見込める区間がある。晴海で目下高層マンション21棟の建設が進む「HARUMI FLAG」と、8月に新しい小型船ターミナル「Hi-NODE(ハイノード)」が開設された日の出ふ頭の間である(写真3)。

(写真3)日の出ふ頭に8月に開設された小型船ターミナル「Hi-NODE」から有明・豊洲・晴海方向を望む。右手は「Hi-NODE」の前面水域に東京都が整備した桟橋。左手に見える建設中の高層マンション群が「HARUMI FLAG」(写真:茂木俊輔)
(写真3)日の出ふ頭に8月に開設された小型船ターミナル「Hi-NODE」から有明・豊洲・晴海方向を望む。右手は「Hi-NODE」の前面水域に東京都が整備した桟橋。左手に見える建設中の高層マンション群が「HARUMI FLAG」(写真:茂木俊輔)
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「HARUMI FLAG」は2024年をめどに5600戸を超える住宅が整備され、将来1万2000人が暮らすようになるまちだ。かたや「Hi-NODE」近くでは、大型の再開発プロジェクトが複数、動き出している。通勤利用を想定した区間として需要は見込めそうだ。

しかも、この2つの間は東京湾を隔てて1km程度。地下鉄や路線バスで行き来しようとすると、新橋方向にいったん回り込む必要があるが、舟運を利用できれば最短距離で済む。池田氏も「ショートカット可能な区間は可能性がある」と前向きだ。

日の出ふ頭のように既成市街地から少し離れた場所に船着き場がある場合、市街地との間のアクセスが課題になるが、その解消に活用できそうなのは、自転車である。実際、「Hi-NODE」には小規模ながら、シェアサイクルの貸し出し・返却拠点を併設する(写真4)。

(写真4)小型船ターミナル「Hi-NODE」は、近くで再開発プロジェクトを計画中の野村不動産とNREG東芝不動産が整備し運営する施設。船客待合所やレストランなどで構成する。写真右下に見えるのが、シェアサイクルの貸し出し・返却拠点(写真:茂木俊輔)
(写真4)小型船ターミナル「Hi-NODE」は、近くで再開発プロジェクトを計画中の野村不動産とNREG東芝不動産が整備し運営する施設。船客待合所やレストランなどで構成する。写真右下に見えるのが、シェアサイクルの貸し出し・返却拠点(写真:茂木俊輔)
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「ショートカット+シェアサイクル」――。これも、「プラスアルファの価値」の一つ。さまざまな交通機関を快適に乗り継ぐ交通結節機能が重視されるいま、「舟運+自転車」という交通手段も、その機能の中に組み込まれていくことになりそうだ。

池田氏は、通勤利用を想定した舟運は競合する交通機関があるだけに実現へのハードルは高いとしながらも、可能性は見込めるという。「強みを生かせる区間では、可能性を見込める。その強みとは、『乗り換えなし』や『ショートカット』などだ。今回の検証結果を受け止めながら、来年度のことを検討していく」。

今回の社会実験を通して、利用者や舟運事業者も舟運の価値や強みを共有できるようになれば、その活性化への道は開かれるに違いない。