全国で増え続ける空き家。その使い道は住宅に限らない。いま注目は起業の拠点。空き家を起業家に開放することで、その活用を図りながら、地域に新しいビジネスを生み出していく。「空き家×起業」の試みを空き家対策に取り組む行政が後押しし、空き家ビジネスに乗り出す民間が挑戦する――。都市部でそんな動きが見られるようになってきた。

東京・丸の内にある東京都の創業支援施設「Startup Hub Tokyo」。今年8月1日、そのイベントスペースで「空き家×起業~空き家ビジネス最前線と新しい活用方法を考える~」と題した、起業検討者や空き家所有者に向けた目新しい催しが開かれた(写真1)。

(写真1)東京都の創業支援施設「Startup Hub Tokyo」で開催されたイベント「空き家×起業~空き家ビジネス最前線と新しい活用方法を考える~」。多くの参加者が会場に詰め掛けた。同施設の運営は起業支援サービスを提供するツクリエが受託する(写真:茂木俊輔)
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時代のキーワードとも言える2つの言葉を掛け合わせたこのイベントには、30代から60代までと思われる幅広い年代が集った。主催した「Startup Hub Tokyo」によれば、参加者数は55人。キャンセル待ちが約100人を数えるほど関心を呼んだという。

夜7時に始まったこのイベントでは主催者側が簡単な施設紹介を終えた後、起業家と空き家のマッチングを図る狙いで東京都が実施する「起業家による空き家活用モデル事業」を担当者が紹介。起業家に向け、2019年度モデル事業への応募を促した。

続いて登壇したのは、東京・渋谷に本社を置く不動産会社、ジェクトワンで空き家活用に取り組む担当者だ。同社は、2019年度モデル事業の一環として、起業家の相談に乗る一方で空き家所有者との調整を図るコーディネーターを務めている。

壇上では、3年前から取り組む空き家活用サポート「アキサポ」の事例を紹介しながら、そのビジネスとしての考え方を説明。空き家所有者の意識を「活用」に向けさせるためにも、地域の活性化に貢献しようとする姿勢が重要である点を強調した。

締め括りは、空き家活用のアイデアを考えるワークショップ。空き家ビジネスを手掛ける合同会社パッチワークス代表が進行する中、参加者はテーブル単位で12グループに分かれ、東京・深大寺の戸建て空き家を題材にアイデアを出し合った。

このイベントで一貫していたのは、空き家を起業家に活用してもらうという発想だ。その狙いはどこにあるのか。「起業家による空き家活用モデル事業」を所管する東京都産業労働局商工部で技術連携担当課長を務める堀江暁氏はこう説明する。

「社会課題の解決に取り組む社会的起業家は利益ばかりを追い求めているわけではないため、事業展開の拠点を確保しにくいと聞く。そうした起業家に空き家を活用してもらえれば、空き家という課題解決にも結び付く。それをモデルとして展開していきたい」

空き家活用の事業プランに助成

「起業家による空き家活用モデル事業」では起業家の空き家活用をどのように促すのか。その仕組みを簡単に紹介しておこう。図に示したように、このモデル事業では都の支援として大きく3つのものを想定している。

(図)東京都が実施する「起業家による空き家活用モデル事業」の全体像。起業家、空き家所有者、それらをマッチングするコーディネーターの3者への支援を行う。空き家所有者に対しては、住宅政策を担当する部門で所管する補助金の仕組みも用意されている(出所:東京都資料)
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まず、空き家の借り手である起業家に対する支援だ。

都では創業から5年未満の個人事業主や中小企業者など起業家から、過去6カ月以上にわたって使用されていなかった戸建て住宅の空き家を活用した事業プランを募集。審査を経て、年間2件程度の事業プランを採択する。

採択した事業プランの提案者には都中小企業振興公社の創業助成事業への申請資格を与え、審査の一部を免除する。2019年度モデル事業の公募期間は9月27日まで。権利関係の調査を済ませ、11月には採択者を決める。助成限度額は300万円だ。

次に、空き家の貸し手である所有者に対する支援だ。対象者は、事業プランの採択者に空き家を提供する所有者。建物の用途が居住用から事業用になると、固定資産税や都市計画税の負担は重くなる。都はそれらを最大3年間、一定の割合で補助する。

最後は、起業家と空き家のマッチングを担うコーディネーターへの支援だ。

コーディネーターは、宅地建物取引業の免許を持つ法人を対象に都が公募・選定する。2019年度コーディネーター設置事業では、青山総合企画、プラスワン、タウンキッチン、ジェクトワン、東京急行電鉄(現東急)、スマートライフデザインを選定した。

コーディネーターには、相談対応に関する報告書の提出件数に応じて限度額100万円の範囲内で補助金を交付する。「例えば建物用途を居住用から事業用に変えると、一定の設備が必要になることがある。そうした改修工事へのアドバイスを期待する」(堀江氏)。

「起業家による空き家活用モデル事業」は2018年度から。同年度は未就学の子連れ親子向けカフェやシェアハウス型地域交流スペースの運営という事業プラン2件を採択した。堀江氏は「起業家の関心は高い。今後も継続して取り組んでいきたい」と意気込む。

こうした空き家活用に挑戦する試みは民間事業者にも見られる。冒頭のイベントに登壇したジェクトワンは今年1月、都内で空き家率の高さが目立つ豊島区との公民連携の下で、シェアキッチン型の起業支援施設「コマワリキッチン」を開設した(写真2)。

(写真2)今年1月、豊島区南長崎のニコニコ商店街に面したビル1階に開設されたシェアキッチン型の起業支援施設「コマワリキッチン」。対面冷蔵ショーケースの奥にはキッチン設備が2セット配置されている(画像提供:ジェクトワン)
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