首都高速都心環状線の地下化によって、まちの印象ががらりと変わる日本橋エリア(東京都中央区)。再開発によって新しい場が生み出され、歩行者ネットワークの整備で交通結節性が一段と高まる兆しも見せる。こうした都市のにぎわいを産業創造にまで結び付ける要素は何か――。日本橋エリアの未来を展望しながら、エリア価値の向上へ打つべき手を探る。

よみがえれ日本橋――。地元の悲願達成に向け、首都高速都心環状線の地下化が、具体的にいよいよ動き出す。公民連携の下、日本橋川を覆う首都高を高架から地下に移設する一方、開放感が取り戻される川沿いに快適な空間を生み出していく(図1)。

(図1)将来の日本橋のイメージ。日本橋越しに江戸橋方向を見渡す(2019年8月時点。実際の開発計画とは異なる)(画像提供:三井不動産)
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首都高のルートを変える区間は、日本橋川に架かる鎌倉橋と鎧橋の間にあたる約1.8km。既存の高架に車両を通しながら日本橋川を中心とする川沿いの一帯の地下にトンネルを整備し、完成後、車両の流れを地下に切り替え、高架を撤去する(図2)。

(図2)首都高速道路の地下化を定めた都市計画変更案(平面図)。鎌倉橋寄りの区間では、民間再開発事業の進み具合、既存構造物の存在、コスト縮減の必要性を踏まえ、既存の八重洲トンネルを活用する(出所:東京都・首都高速道路「首都高速都心環状線の地下化(神田橋JCT~江戸橋JCT)」)
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地下トンネルには都市計画法に基づく立体都市計画制度を活用。道路の区域を都市計画で地下に立体的に定めることで地上に建築制限が及ばないようにする。これによって民有地の地下にトンネルを整備しやすくする(図3)。

(図3)首都高速道路の地下化を定めた都市計画変更案(横断図)。地下トンネル部分には立体都市計画を定める(出所:東京都・首都高速道路「首都高速都心環状線の地下化(神田橋JCT~江戸橋JCT)」)
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ただ、トンネルは比較的浅い位置に整備されるため、民有地に建設するビルの地下構造物もその深さまで。建設可能なビルの規模は自ずと限られる。川沿いに開放的で快適な空間を生み出せるのは、そうした建築制限も関係する。

首都高速道路日本橋区間更新事業推進室計画調整課課長の草壁郁郎氏は「次のステップである事業認可に向けて調整中。東京五輪・パラリンピック後の工事着手を目指す」と話す。工事着手から地下トンネル整備完了までは10~20年かかる見通しだ。

日本の道路網の基点とも言える日本橋に首都高の高架が覆いかぶさるようになったのは、いまから50年以上前。1964年開催の東京五輪に向けて交通インフラの整備が急がれる中で、用地買収を必要としない河川の上部空間が活用された。

ところが1980年代に入ると、地元の名橋「日本橋」保存会が高架を移設するなどの方法で日本橋をよみがえらせる運動を開始。さらに2000年代には、国土交通大臣だった扇千景氏が「高架に覆われた日本橋の景観を一新する」と発言したのを受け、国が都心部における首都高の将来ビジョンを検討する組織を立ち上げた。いずれも首都高の大規模更新を念頭に置き、その時機を捉えて高架を移設することを想定していた。

こうした流れを後押ししたのは、日本橋川沿いでの民間再開発事業の機運の高まりだ。再開発事業と連携を図れれば、その地下に高架を移設できる。原形とも言える案は、2006年2月に小泉純一郎首相(当時)の依頼を受けて有識者が設立した日本橋川に空を取り戻す会の提言として、設立から7カ月後にまとめられた。

幅員約100m、延長約1.2kmもの親水空間

この提言では、民間が先導して日本橋川沿いでまちづくりを進め、その地下に公共が首都高を整備するという案を示している。川沿いの土地は低層・低容積化しオープンスペースやにぎわいを創出する一方、そこで未消化の容積を隣接ブロックなどに移転することを想定。さらに、街の高質化に伴う受益の一定割合を地域が還元する、つまり首都高移設費用の一部を民間が負担する、という考え方も示された。

その後、首都高速道路自身、地下化される区間を含む箇所を対象に更新計画を公表。緊急性の高い箇所から大規模更新の事業化に乗り出した。また日本橋川沿いで計画されていた民間再開発事業のうち3つが国家戦略特別区域の都市再生プロジェクトに追加され、まちづくりの機運がいよいよ高まってきた。

これらの流れの中で、国と東京都と首都高速道路の3者は2017年7月、周辺まちづくりと連携した首都高の地下化に向けた取り組みをスタートさせることを公表。首都高日本橋地下化検討会を、この3者に地元中央区を加えた4者で2017年11月から18年7月まで開催するに至った。

検討会では事業費の負担割合を示す事業スキームについても合意された(図4)。

(図4)事業スキームの基本的な考え方。まず首都高速道路が大規模更新費の一部と国・地方自治体の出資金償還時期の見直しによる利息軽減分として約1000億円ずつを捻出し、残る1200億円を首都高速道路と民間プロジェクトと地方自治体で三等分する(出所:首都高日本橋地下化検討会資料)
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概算事業費は約3200億円。このうち約1000億円には首都高速道路が更新計画の中で見込んでいた大規模更新予算の一部を、同じく約1000億円には出資金制度の償還時期見直しに伴って生まれる利息軽減分を充てる。出資金とは国や地方自治体からの無利子の借り入れ。償還時期の見直しによって有利子である更新債務の償還を早め、1000億円相当の利息軽減効果を生み出す。残る約1200億円は、首都高速道路、民間プロジェクト、地方自治体という関係三者で三等分する。周辺まちづくりとの連携を図ることで民間プロジェクトを巻き込んだ事業スキームを構築した。

この検討会で整理された地下化対象区間と地下ルートが、冒頭に示したもの。高架を走る現行のルートを地下に変更し、地下部分には立体都市計画を定める都市計画の変更案は、2019年9月開催の東京都都市計画審議会で原案通りに決定された。

では、この首都高地下化によって日本橋エリアのまちづくりにはどのようなインパクトがもたらされるのか――。

日本橋エリアのまちづくりを主導してきた三井不動産日本橋街づくり推進部事業グループグループ長の町田収氏は「日本橋川沿いはこれまで水辺に背を向けた開発だったが、今後は川に向き合う開発になり、そこに川幅を含め幅員約100m、延長約1.2kmもの親水空間が生まれる。まちづくりにとって大きなインパクトを見込める」と期待を寄せる。