新たな産業創造に向けMaaSへの取り組み

日本橋川沿いでは現在、図5で示した5地区で民間再開発事業が計画されている。

(図5)日本橋川沿いでは、日本橋一丁目中地区をはじめ5つの地区で市街地再開発準備組合が立ち上がり、民間再開発事業が計画されている(2018年5月時点)。2019年10月には、八重洲一丁目北地区、日本橋室町一丁目地区でも都市計画決定が済んだ(出所:首都高日本橋地下化検討会資料)
(図5)日本橋川沿いでは、日本橋一丁目中地区をはじめ5つの地区で市街地再開発準備組合が立ち上がり、民間再開発事業が計画されている(2018年5月時点)。2019年10月には、八重洲一丁目北地区、日本橋室町一丁目地区でも都市計画決定が済んだ(出所:首都高日本橋地下化検討会資料)
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これら5地区で計画されている再開発ビルの延べ床面積は合計約37万坪。東京ミッドタウンの倍に相当する規模という。さらに川沿いの親水空間には、低層・低容積の店舗ビルやプロムナードが整備される計画だ(図6)。この一帯では景観ガイドラインの作成・運用にも取り組むエリアマネジメント団体の立ち上げも想定されている。

(図6)日本橋川沿いには民間再開発事業によって低層・低容積の店舗ビルやプロムナードが整備され、開放的で快適な空間が生み出される見通しだ(2019年8月時点。将来イメージで実際の開発計画とは異なる)(画像提供:三井不動産)
(図6)日本橋川沿いには民間再開発事業によって低層・低容積の店舗ビルやプロムナードが整備され、開放的で快適な空間が生み出される見通しだ(2019年8月時点。将来イメージで実際の開発計画とは異なる)(画像提供:三井不動産)
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しかも水辺のプロムナードは、東京駅方面までネットワーク化される見込みだ(図7)。町田氏は「日本橋川沿いには東京駅方面にかけて民間再開発事業の計画されている地区が続いている。それらが完成すれば、東京駅との間も川沿いを歩いて行き来できるようになる」と、将来を見通す。

(図7)江戸橋上空から日本橋方面を見渡す。日本橋川沿いの民間再開発事業によって整備されるプロムナードは画面奥の東京駅方面まで続く見込み(2019年8月時点。将来イメージで実際の開発計画とは異なる)(画像提供:三井不動産)
(図7)江戸橋上空から日本橋方面を見渡す。日本橋川沿いの民間再開発事業によって整備されるプロムナードは画面奥の東京駅方面まで続く見込み(2019年8月時点。将来イメージで実際の開発計画とは異なる)(画像提供:三井不動産)
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こうした「豊かな水辺の再生」は、三井不動産が推進する「日本橋再生計画」でいま重点構想の一つに位置付けるもの。首都高の地下化なしには実現できなかったこの構想が、具体化に向けていよいよ動き出すことになる。

日本橋エリアの再生に向けて三井不動産が同じく重点構想として取り組むのが、「新たな産業の創造」と「世界とつながる国際イベントの開催」である。

「新たな産業の創造」では、戦略カテゴリーとしてこれまで取り組んできた「ライフサイエンス」に、「宇宙」「モビリティ」「食」を新たに加える。オープンイノベーションの拠点がすでに立地していたり、立地や文化の面で地域特性と関わりがあったりするなど、日本橋エリアとの関連が深いカテゴリーだ。

各カテゴリーでの取り組みは具体的にはこれから固めるというが、例えば「モビリティ」では日本橋の立地特性を生かす方針だ。「日本橋は東京駅に近く、成田空港や羽田空港への便もいい。地下鉄も複数の路線が乗り入れている。今後は、民間再開発事業によって歩行者ネットワークも整備され、舟運の活性化も期待される。そうした交通環境を生かし、例えば『MaaS(Mobility as a Service)』への取り組みが考えられる」(町田氏)。

「世界とつながる国際イベントの開催」では、エリア内に三井不動産が所有するホール・カンファレンス施設を中心にさまざまな場を有機的につなぎ、まち全体をイベント会場化することを思い描く。町田氏は「開催する国際イベントとして具体的に想定しているものはまだないが、その分野としては『宇宙』『モビリティ』『食』という3つの戦略カテゴリーも考えられる」と説明する。

場づくりと機会づくりを両輪で進めていく

三井不動産が「日本橋再生計画」に取り組み始めたのは、日本橋エリアの活性化を目的に日本橋地域ルネッサンス100年計画委員会が設立された1999年という。2004年にはCOREDO日本橋の開業を皮切りにその第1ステージを、2014年にはCOREDO室町2・3の開業を皮切りにその第2ステージを繰り広げてきた。

第1・第2ステージの成果を、町田氏は3つに整理する。

まず、まちの用途の多様化。オフィス中心のまちが、商業施設もホテルもカンファレンス施設もあるまちに変わった。それに併せて多様な人が集まるようになったという。

次は、歴史・伝統・文化が息づく日本橋の特性に合ったまちづくりを展開できている点という。「日本橋には路地裏の魅力もあり、その再生にも取り組んだ。地元と一緒にイベントを開催するなど、まちの特性を踏まえながら活性化を図れている」(町田氏)。

最後は、新たな産業創造やオープンイノベーションを推進できている点だ。これまで戦略カテゴリーとして取り組んできた「ライフサイエンス」に関しては、このカテゴリーに特化した賃貸オフィス、サービスオフィス、カンファレンスなど多様な拠点を、日本橋エリア内の8棟のビルで整備・提供してきた。また三井不動産と産学の有志が中心になって立ち上げた一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)では、これらの拠点で産官学の連携の機会づくりにも努めてきた。

「第1ステージや第2ステージの取り組みを通じて、多様な人や企業が集うようになり、まちのにぎわいがよみがえってきた」と町田氏は総括する。三井不動産ではこうした成果を受け、2019年3月に日本橋室町三井タワーが完成したのを経て「日本橋再生計画」を第3ステージに進めることを決めた。

再開発という場づくりによって生み出された都市のにぎわいを産業創造にまで結び付けるまちづくりのポイントを、町田氏は機会づくりとみる。「場づくりによってプレイヤーは集められる。しかし機会を提供しないと、オープンイノベーションにはつながらない。今後も、場づくりと機会づくりを両輪で進めていきたい」。

首都高地下化によって生み出されることになる親水空間という新しい場。そこではどのような機会が提供されていくことになるのか。豊かな水辺の再生は、都市のにぎわい創出はもちろん、産業創造にまで結び付く可能性も見込めそうだ。