MaaS(Mobility as a Service)の実証実験が各地で始まり、自動運転社会の実現に向けて関連法令が整備されるなど、都市部のモビリティーを取り巻く環境はいま大きく変わろうとしている。こうした環境変化を、都市づくり・建築づくりに携わる専門家はどう受け止め、どう対応しようとしているのか――。これからのモビリティーと都市・建築の望ましい関係性を、日建設計総合研究所上席研究員の安藤章氏に聞いた。

――ここ数年、モビリティーを取り巻く環境の変化が目立ちます。長年、都市・建築づくりに携わってきた専門家として、こうした変化をどう受け止めていますか。

安藤 MaaS社会や自動運転社会が本格的に訪れれば、モビリティーのあり方は大きく変わります。当然、道路・駐車場や車寄せなどの交通インフラ・施設を通して自動車交通とも密接に関わる都市・建築のあり方も変わっていくはずです。自動車メーカーをはじめとする産業界がモビリティー革命を推し進める一方で、私たち都市・建築の専門家も都市づくり・建築づくりの視点で発言していくことが必要と考えています(写真1)。

(写真1)日建設計総合研究所上席研究員の安藤章氏。都市政策は、20年、30年スパンで考えるものだけに、MaaS(Mobility as a Service)社会や自動運転社会の到来を見すえて、都市空間をどうつくるか、ルールをどう整備するか、いまから準備しておくことが必要と指摘する(以下、人物写真の撮影は尾関裕士)
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ルールづくりは、その一つです。都市計画ではこれまで、都市を健全に発展させる、居住環境の向上を図るなどの視点から、さまざまなルールを整備し運用してきました。モビリティーのあり方が大きく変わる中、そうしたルールづくりが必要になるとみています。

例えば「ウーバー」のような配車サービスは、利用者が自分の都合でそれを利用するため、空港やスタジアムなど人が集まる施設では出入り口に最も近い場所で利用が集中し、渋滞を引き起こす原因にもなっています。米国では、配車サービス用の乗降場を出入り口から離れた場所に用意するなど、ルール化に乗り出しているほどです。モビリティー革命は利用者個人にとっては便利でも、社会的には混乱を招く恐れがあるわけです。

――個人にとっての移動の最適化を、社会にとっての移動の最適化にどう結び付けていくか、という発想ですね。自動運転社会にも、同じような側面がありますか。

安藤 ええ、ありますね。自動運転社会になると公共交通がいらなくなるという見方が出ています。都市部で自動運転車への移行が過度に進むと、確かに公共交通の衰退につながる恐れがあります。しかし、それでいいのか。例えば200人を運ぶために必要な空間は、自動運転のマイカーとバスや次世代型路面電車(LRT)など公共交通機関との間では、大きな差があります。都市空間の活用を考えると、大きな問題が生じます。その視点から、どういう活用が考えられるのか、もっと議論が必要です(写真2)。

(写真2)ウイーンの中心市街地にあるマリアヒルファー通りでは、自動車の走行速度は時速20kmに制限され、歩行者、自転車、自動車などがシェアードスペースとして活用し、にぎわいを生んでいる。自動運転社会では速度制御を実現しやすくなるため、こうした一定のルールに基づくモビリティー空間のシェア化に期待が寄せられる(写真:Ricky Rijkenberg)
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自動運転車がプロモーションの場に

通過交通に過ぎないクルマは通常、渋滞原因にもなるため、一般的に嫌われます。しかし、自動運転社会では、ドライバーが運転に集中しなくて済むため、観光資源をはじめ、「都市の顔」とも言える建物や風景など多くの資源を見てもらう工夫を施せば、どうでしょうか。ドライバーが周囲の景色を眺めながら、「あそこに面白そうなものがある」「今度あらためて行ってみよう」と、興味を示してもらえるなら、自動運転車をシティーセールスに向けたプロモーションの場として活用する可能性が開けます。地域産業の活性化にもつなげられます。

自動運転車の中でゴーグルを装着して映画を楽しむという将来イメージも描かれますが、都市・建築の専門家としては、まちなかの資源にもっと光を当てるべきではないか、と考えています。都市を劇場にするような視点で考えると、都市にとって生かせるテクノロジーとして自動運転の受け入れに向けた文脈も変わるはずです。

自動運転社会に向けたいまの規制緩和は、自動運転を何としても実現したいからルールを緩和してほしいという流れではないかと思います。だから、何か問題が起きるのではないか、本当に大丈夫なのか、という不安が先に立ちます。しかし、自動運転をまちのために活用するという視点に立てれば、その方向性は変わっていくのではないでしょうか。

――自動運転に対する市民ニーズがはっきりしません。マイカー利用者らからはどのような期待が寄せられているのですか。

安藤 市民に対してインタビュー調査を実施すると、自動運転車に実際に乗ったことがある人はほとんどいなく、テレビCMの影響が強いことが分かりました。自動運転のことを尋ねると、「手放し運転できる、あれでしょ。でも私、運転嫌いじゃないんで必要ありません」「事故を無くすものですよね。それなら、高齢者に利用してもらえばいい。私は関係ないですね」と、否定的な意見を述べる方も結構います。

こうした状況を改善するには、自動運転をどう活用するかという具体のサービスを示す必要があります。そうでないと、市民のニーズに本当に届くことができないと思います。

もう一つ、興味深い調査結果があります。日本と欧米、それぞれの政府機関の政策決定者に対して、自動運転の普及に何が必要か、アンケートで尋ねたものです。その結果によると、日本の政策決定者の多くは、車両の安全性能を上げることと値段を安くすること、この2つを挙げたのに対して、欧米の政策決定者の多くは、自動運転を活用したサービスを開発することを第一に挙げたのです。