普及に必要なことは、サービスの開発

まず安全に対する考え方が大きく異なります。日本ではできるだけ事故をゼロに近づけなければならないという意識が強いのに対して、欧米ではいまより少しでも減ればいいという程度の緩やかな姿勢です。交通事故といういまあるものをいきなりゼロに近づけるというのは、さすがに飛躍があります。

ただそれ以上に興味深いのはやはり、欧米では自動運転を活用したサービスの開発を第一に挙げた点です。活用法の議論が、もっと必要です。

――モビリティーの課題としてはかねて、交通事故や環境問題などが指摘されてきました。自動運転はそうしたモビリティーの課題を解決してくれる可能性を見込めますか。

安藤 可能性はあると思います。都市・建築の専門家として気になるモビリティーの課題として、都市空間の効率性が挙げられます。都市部の一等地でも、幹線道路から少し中に入ると、そこはコインパーキングだらけだったりします。しかもそれが、事業として成り立っている。クルマのためのスペースが、空間の効率性を引き下げているのです。

ところが自動運転社会になると、“駐車”という行為がなくなるため、駐車場はいまのようにあちこちになくて済むようになります。都市の中心部にはすでに都市施設として都市計画駐車場が整備されているので、そこを中心に自動運転車の保管場所になるデポを整備していけば、それで間に合わせることが可能です。自動運転車は都市空間の効率性を改善できると思います(図1)。

(図1)自動運転社会で不要になった地下駐車場の活用イメージ。ライブ会場やオープンスペースにリノベーションするのも一案だ(資料提供:日建設計)
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また、例えば駅周辺で朝夕に発生する混雑の緩和にも期待を持てます。誰もが利用できる道路空間では、ロードプライシングのようにエリアや時間帯を限って自動車利用者に課金し交通量を制御する施策は、自動車利用の高齢者や障害者にどう対応するかという点まで考えると、現実的には実施しづらいのが実情でした。ところが自動運転社会では、テクノロジーによって、ドライバーの属性選別と課金が可能になるため、そうした交通量の制御がやりやすくなるはずです。もちろん、公共がどこまで関与するかという点には、慎重な検討が必要です。

――自動運転社会になると、都市そのものの姿も変わっていきそうですか。

安藤 変わっていくでしょうね。先ほど申し上げた駐車場をはじめ、道路や車寄せなど交通インフラ・施設は、規模がもっと小さくて済むはずです。そうなると、それら不要になった空間をどう活用していくかが問われていきます。

機能を失った土地で、にぎわい創出を

空間活用のキーワードの一つは、ウオーカブルです。例えば道路の不要になった部分を用いながら、歩いて楽しい空間をつくるという発想です。海外の自動車メーカーが自動運転の将来像を示した動画を見ると、広い道路の幅が狭くなって、道路でなくなった部分には樹木が植えられている。では自動運転社会の都市とは緑の豊富な都市かと言えば、そうではないはず。そこをにぎわいのある空間にどう変えていくか、都市の目線で言えば、その発想こそ必要なことではないかと考えています。

モビリティーとは、普通は目的地があって、そこに向かうために用いるものです。モビリティーの利用そのものが目的になることは、そうありません。しかし歩くことは、さまざまなモビリティーの中では珍しく、最近では多様な価値が認められ始めています。健康増進は、その一つです。またにぎわい創出という価値も見込めます。にぎわいが生まれれば、人がさらに集まり、例えばクリエーターが集まるようになれば、クリエティブなまちとして認められるようになり、クリエティブ産業の誘致にも期待が持てます。

――都市のにぎわいをどう生み出すかという視点で空間づくりに臨むわけですね。

安藤 そうです。人と人が触れ合う場を「サードプレイス」と呼んでいます(写真3)。そうした空間をもっと都市の中に生み出せれば、にぎわいが生まれ、産業誘致にもつながります。それを都市空間にどう効率的につくるかが、都市の課題でもあります。

(写真3)キッチンカーを活用したオープンスペースのサードプレイス化の例。次世代モビリティー社会でにぎわい創出を図るヒントになる(画像提供:日建設計総合研究所)
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先ほど申し上げた駐車場としての機能が不要になった土地の有効活用では、二毛作、三毛作の発想も有効です。用途を固定してしまう建物を建てずに、時間帯やニーズに応じて提供するサービスを使い分けられる自動運転車を用いて土地の利用形態を変えるのです。例えば平日の日中はビジネスパーソン向けにランチを提供する店舗を開業し、夜間は受験生向けに予備校として機能させるというアイデアが考えられます。自動運転社会では、用途を固定してしまうより、それを自由に変えられるほうが、土地の価値が高くなるということが起こり得るとみています(写真4)。

(写真4)安藤章(あんどう・あきら)氏。名古屋大学大学院博士課程修了。1991年日建設計入社。都市・交通計画やICTなど先端技術を活用した都市政策研究に取り組む。都市工学だけでなく、社会学、医学、情報学など、多様な領域の研究者と交流。工学博士、技術士(建設部門 都市及び地方計画)。名古屋大学客員教授も務める
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――モビリティーと都市・建築との距離は、これまでより近くなりそうですね。

安藤 そうならないといけませんね。自動運転車を走らせることがシティーセールスにつながるなら、自動車メーカーと都市政策との連携が欠かせませんし、都市部で不要になる空間をどう活用するかを考えるうえでも、異業種間の連携が求められます。関連業界が連携し、自動運転の可能性を洗い出し、見える化することが必要です。