都市部のエリア開発でいま、定番になりつつあるコンテンツがある。カンファレンス施設だ。20年前には見られなかったが、今では多くの開発で取り込まれるようになった。それを核にエリアのさまざまな資源を生かしながら交流人口を呼び込み、新しい価値の創出に結び付けていこうという考え方が、「エリアMICE」である。その可能性と課題を探る。

品川、日本橋、浜松町、渋谷、虎ノ門。東京で大型開発が進むエリアには必ずと言っていいほど、カンファレンス施設が整備・計画されている。オフィス、商業、ホテル、住宅と並んで、今や定番化した感さえある。

例えば交通結節性の向上が今後期待される品川エリア。この春開業予定のJR高輪ゲートウェイ駅西口で東日本旅客鉄道(JR東日本)が計画する品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)では、合計床面積1万平方メートルを超えるコンベンション・カンファレンス施設が誕生する。駅直結のビル内にこれだけの規模の施設が生まれることが、一つの売りだ。

MICEに関わるトータルビジネス企業を標ぼうするコングレで代表取締役社長を務める武内紀子氏は定番化の背景をこうみる。「エリア開発のコンセプトの中でこうしたスペースを備えることが意味を持つようになってきた」。

実際、コングレではエリア開発に伴い整備されるカンファレンス施設の運営を担う事例が増えているという。例えばJR大阪駅前に開発されたグランフロント大阪。その中核施設のナレッジキャピタルではコングレコンベンションセンターを運営する(写真)。

(写真)グランフロント大阪のナレッジキャピタルコングレコンベンションセンター。2018年8月には主要都市で毎年主催している「スポーツビジネスジャパン2018 together with スタジアム&アリーナ2018」を開催した(画像提供:コングレ)
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空港近くというこれまでにはない立地条件を持つ施設の運営にも挑戦する。民間9社が出資する羽田みらい開発が京浜急行電鉄空港線・東京モノレール天空橋駅前で開発を進める「HANEDA INNOVATION CITY」では、直営の会議研修施設として「コングレスクエア羽田」を2020年夏に開業する予定だ。

「エリアの資源をうまく活用しながら、これらの施設を核にしてエリアを発展させていくことができるかどうか――。それが、楽しみでもあり宿題でもある」。武内氏はエリア開発に伴い整備されるカンファレンス施設を運営する決意を明かす。

エリア開発にこうした施設を取り込む狙いは言うまでもない。国際会議や展示会など「MICE」の展開による交流人口の確保と、それによる新しい価値の創出である。

ここで改めてMICEとは何かを整理しておこう。観光庁の定義によれば、企業などの会議(Meeting)、企業などの報奨・研修旅行(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会などの国際会議(Convention)、展示会・見本市やイベント(Exhibition/Event)の頭文字を並べたもので、それらの総称という(図1)。

(図1)観光庁が説明する「MICE」の定義。「Meeting」「Incentive」「Convention」「Exhibition/Event」の頭文字を並べ、それらを総称する用語として使われる(出所:観光庁)
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MICE開催でエリアの競争力向上

期待される効果として、観光庁では主に以下の3つを挙げる。

第一は、ビジネス・イノベーションの機会の創出。世界中から企業や学会の主要メンバーが集まることは内外の関係者のネットワークを構築し、新しいビジネスやイノベーションの機会を生み出すことにつながるという。

第二は、地域への経済効果だ。MICEは、会議の開催、参加者の宿泊、飲食、観光など、経済・消費活動のすそ野が広い。しかも、滞在期間が比較的長いと言われているため、一般の観光客以上に経済効果を生み出すことが期待されるという。

第三は、国・都市の競争力向上である。MICEの開催による人の交流や情報の交換、そしてネットワークの構築などは、ビジネス環境や研究環境の向上につながる。それが、都市の競争力向上、さらには国の競争力向上につながるという。

エリア開発におけるMICEの展開とは、第三の効果にある「国・都市」を「エリア」に置き換え、MICEの開催でエリアの競争力向上を図ろうという動き。MICEはいま、エリア開発のコンテンツとして大きな存在感を放つようになってきたのである。

その理由を武内氏はこうみる。「オフィスほど賃料は取れないが、エリアの産業発展への起爆剤として、また地元自治体への提案として価値を見いだせる。エリアの特性としてプロモーションできれば、オフィス需要の創出にもつながる」。

MICE施設の供給が増える一方で、MICE開催の需要は着実に増えている。図2は、国際会議開催件数上位10カ国に関して開催件数の推移をたどったもの。日本はわずかながらも右肩上がりの傾向を見せていることが分かる。

(図2)国際会議開催件数上位10カ国の開催件数推移。2008年から2017年までの10年間、日本での開催件数はわずかながら増えている(出所:日本政府観光局)
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とりわけ大型のMICEは、受け入れ施設が限られる分、需給が逼迫しているという。武内氏は「大型施設は稼働率が海外に比べ高く、新規の催しを受け入れる余地が少ない。その分、国内では新しい催しが生まれにくくなっているほどだ」と解説する。

一方、中小型のMICE開催需要も増えているとみられる。「MICE関連の世界的な統計を見ると、件数が増加する中で小型化の傾向も多少見られる。背景には、テーマの専門化が進んでいるという事情があるのではないか」(武内氏)。

かねてエリア開発に取り組んできた大手デベロッパーも、そのエリア内でMICEを明確に位置付け始めている。

日本橋エリアでまちづくりに取り組む三井不動産は2019年8月、第3ステージを迎えた日本橋再生計画の重点構想を発表した。その一つが、国際イベントの開催である。まち全体をイベント会場化し、ビジネスとエンターテインメントが融合した国際発信力のある大型イベントの開催を検討するという。