MICEは戦略実現のためのツール

大手町・丸の内・有楽町エリアでまちづくりに取り組む三菱地所も2020年1月、同年以降のまちづくりを「丸の内NEXTステージ」と位置付け、有楽町エリアを「文化芸術・MICEを核とした“街づくりのショーケース”」とすることを打ち出した。

ともに明確な戦略の下にまちづくりが進められているエリア。その戦略実現にMICEが有効なコンテンツであるという判断に基づく方針と考えられる。

武内氏は「観光庁が指摘している通り、MICEは戦略実現のためのツール。その戦略とはエリア戦略にも通じる。つまりMICEはエリア戦略の実現に向けたツールと言える」と、エリア開発におけるMICEの意義を強調する。

エリア開発にMICEをどう取り込むかという視点で「都心型エリアMICE」という考え方も打ち出されている。提唱するのは、森記念財団都市整備研究所だ。2019年3月には、「東京都心型エリアMICE~地域全体でMICEの誘致開催を支援する仕組み~」と題した研究報告書を刊行した。

「都心型エリアMICE」とは、都心部に集積するMICE関連施設や地域資産を活用し、地域ぐるみで必要な機能を充足することによって開催されるMICEのこと。大規模なMICE施設単体で勝負するオールインワン型の向こうを張る存在だ(図3)。

(図3)森記念財団が提唱する「都心型エリアMICE」の考え方。地区内に個別に存在する地域資産を生かし、オールインワン型のMICE施設に対抗する(資料提供:森記念財団)
(図3)森記念財団が提唱する「都心型エリアMICE」の考え方。地区内に個別に存在する地域資産を生かし、オールインワン型のMICE施設に対抗する(資料提供:森記念財団)
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こうした考え方を提唱する背景には、さまざまな効果が期待されるMICEの日本開催に対する危機感がある。

森記念財団都市整備研究所で研究報告書の作成業務を担当した上級研究員の小見山和巳氏は「アジアの都市が台頭し、国際会議開催件数のシェアを見ても、日本のシェアは中国に押され、落ち込んでいる。そこに手を打つ必要がある」と背景を語る。

図4は、アジア・大洋州主要国で開催された国際会議の件数シェアを、国際統計に基づき国別に集計したものだ。グラフから分かるように、日本で開催された国際会議の件数シェアは2004年以降落ち込みを見せている。

(図4)アジア・大洋州主要国の国際会議開催件数シェアの推移。2004年以降、中国がシェアを広げる一方で日本はシェアを落としてきた(出所:日本政府観光局)
(図4)アジア・大洋州主要国の国際会議開催件数シェアの推移。2004年以降、中国がシェアを広げる一方で日本はシェアを落としてきた(出所:日本政府観光局)
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競合相手は、小見山氏も指摘する中国だ。日本展示協会の調べによれば、展示会場の規模は米国に次ぐ675万㎡(2019年3月現在)。展示会場面積の世界ランキングトップ10の中には、上海、広州、昆明の3都市がランクインしている。

それをけん引するのが、オールインワン型のMICE施設。講演会場・ホール、展示場、会議施設・セミナールーム、宴会・レセプションルームなどMICE開催に欠かせない機能はもちろん、宿泊施設・休憩施設、飲食・物販・サービス施設、エンターテインメント施設といった周辺機能まで取り込んだ大型施設である。

地域間連携へ、プラットフォームを

一方、日本の都市ではオールインワン型の施設整備は望みにくい。海外からのアクセスに優れる都市の近郊では用地を確保しにくいからだ。国内最大の展示会場である東京ビッグサイト(東京都江東区)でさえ、2019年7月に増築・開業した南展示棟を加えても先ほどの世界ランキングで40位台にランクアップするにすぎない。

そこで期待されるのが、都心型エリアMICEなのである。これと同様の考え方で誘致・開催されるMICEは実態としてはあったが、それを強く意識していこうという呼びかけでもある。小見山氏は「エリア全体で勝負することによって、オールインワン型を強みとする中国の都市に対する優位性を発揮していこうという戦略だ」と話す。

都心型エリアMICEの考え方を意識し実践する担い手は、誰か。森記念財団が想定するのは、DMO(Destination Management/Marketing Organization、観光地域づくり法人)だ。六本木エリアではDMO六本木が2014年9月に、大手町・丸の内・有楽町エリアではDMO東京丸の内が2017年4月に設立済み。MICEというビジネスイベントの成功を支援する立場で実績を上げている。

成功のポイントは、エリアの魅力を生かせるか、という点だ。「例えばビジネスイベントで参加者はキーマンとの交流を望む。その媒体になるイベントやレセプションパーティーが求められる。そこにエリアの魅力を生かすことが重要だ」(小見山氏)。

ただ一つのエリア内だけでは、エリアの魅力を支える地域資産に限りがある。そこで求められるのが、地域間の連携だ。森記念財団では研究報告書の刊行に続き、2019年11月にはエリアMICEをテーマに掲げた講演会を開催した。見すえる先には、地域間連携に向けたプラットフォームづくりがあるという。

東京都心ではいま、地域密着でまちづくりを担う企業がエリアMICEを実質的に支えている。その考え方をさらに広め、継続させるには、エリアMICEを支える組織の財源の確保が欠かせない。エリアマネジメントと共通の課題だ。

その原資として期待される一つには、エリアMICEでのデータビジネスの展開がある。「協賛企業にとってはMICE開催で収集できるデータの活用が協賛への動機づけになり得る」と武内氏。エリアMICEでもそうしたデータ活用をさらに進めることが、財源確保の一つの突破口になるのではないか、と将来を見通す。