都市のインフラとして、イノベーションを生み出すエコシステムやデータ基盤の構築が求められるようになってきた。そうした未来像を先取りするのが、東京駅前に広がる「大手町・丸の内・有楽町地区」だ。まちづくりを主導する三菱地所ではこうしたインフラの活用で生み出される成果を、常盤橋や有楽町で計画中・検討中の個別開発にも反映させていく方針だ。

丸の内ビルディングの開業以降、「大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区」は既存ビルの建て替え更新を続けてきた(写真)。その一方で、まちづくりを主導する三菱地所は、多くのエリアに共通する都市の未来像の実現へ、着々と準備を進めてきた。

(写真)八重洲地区上空から見た「大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区」。中央に位置する東京駅の向こうに左右に広がる。この20年で多くのビルが建て替わった(画像提供:三菱地所)
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それが、エコシステムとデータ基盤の構築である。都市はいま新たな価値を生み出す舞台としての役割が期待され、エコシステムやデータ基盤の構築はそのためのインフラの整備として位置付けられる。まちづくりには変革が求められている。

それは、三菱地所の言葉使いにも表れる。

同社では1998年、丸の内再構築への取り組みを公表し、以降10年間をその「第1ステージ」と位置付けた。2004年には、それに続く2008年からの10年間を「第2ステージ」と位置付け、それまでの「拡がり」と「深まり」を目指すことを打ち出した。

ところが、さらにその次に続くステージは、「丸の内NEXTステージ」。第1、第2ステージの延長線上と位置付けるなら使うはずの「第3ステージ」という言葉をあえて避けた。その意図を開発戦略室兼DX推進部副主事の鈴木将敬氏はこう説明する。

「社会の価値観、企業の行動、個人のライフスタイルが、変革しつつある。まちづくりもそれを踏まえて、変革し続けることが欠かせない。まちづくりのあり方を変えていくというメッセージを込めて、『NEXT』という言葉を用いた」

では、まちづくりのあり方をどう変えていくのか。三菱地所では「NEXTステージ」に立つにあたってあらためて、まちづくりに求められる役割を3つに再定義している。

まず、多様な個人のクリエイティビティーの発揮。次に、「持続可能な開発目標(SDGs)」に向けた具体的アクションである。最後は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)によるライフスタイル・企業行動の革新に応えることだ。

注目したいのは、個人に焦点を当てている点だ。その理由は、2つあるという。一つは、イノベーションが求められる中、企業の活性化にとっても個人の自己実現にとっても、一人ひとりの発想が重要になるから。もう一つ、テクノロジーの進化によって一人ひとりの活躍を支えるサービスを提供できるようになったことも挙げる。

三菱地所は2030年までに既存ビルの建て替えやソフト・インフラの整備に約6000億~7000億円を投じ、まちづくりのプレイヤーとして再定義した役割を果たしながら、「NEXTステージ」で掲げる「丸の内Reデザイン」というテーマの実現を目指す(図1)。

(図1)大丸有地区の開発を主導する三菱地所ではビルの建て替えを進める一方で、地区内にさまざまな交流拠点を整備してきた。「丸の内NEXTステージ」では、「常盤橋」と「有楽町」の2つの区域を重点更新エリアに位置付けている(画像提供:三菱地所)
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有料会員向けに「URBAN LAB」を提供

「丸の内Reデザイン」とは言葉を換えれば、「新たな『価値』を生み出す舞台」の創造。「新たな『価値』」には、2つの意味を込める。一つは、個人の「QOL(Quality of Life)」の向上。もう一つは、社会的課題の発見・解決だ。こうした価値を生み出すためのインフラが、エコシステムとデータ基盤なのである。

エコシステムの構築には、大丸有エリアの優位性を生かす。それは、エリア内でビジネスを展開する事業所数が約4300、就業者数が約28万人にのぼるという企業・人材集積の豊かさだ。また三菱地所では2000年11月、ベンチャー支援組織として「丸の内フロンティア」を立ち上げたのを皮切りに、丸の内ビルディング内にインキュベーションビジネスクラブ「東京21cクラブ」を、新丸の内ビルディング内に新事業創造支援拠点として「EGG JAPAN」を開設してきた。その後、エリア一帯を「オープンイノベーションフィールド」と位置付け、2019年2月にはSAPジャパンと協業し、大手町ビル内にオープンイノベーションの拠点として「Inspired.Lab」を開設した。

これらの既存ネットワークや拠点型コミュニティーと連携を図りながらオープンイノベーションを推進する組織として2019年8月には、「Tokyo Marunouchi Innovation Platform(TMIP)」を設立した。2020年1月現在、会員企業37社とパートナー32団体で構成。大丸有エリアで活動するエリアマネジメント団体の一つである一般社団法人大丸有環境共生型まちづくり推進協会が事務局の役割を担う。

このTMIPがプロジェクト会員と呼ばれる有料会員向けに提供するサポートが、「URBAN LAB」と呼ぶエコシステムを活用したものだ(図2)。提携候補先を探索・提案し、大丸有エリアに集う就業者や来街者によるニーズ検証やまちでの実証実験を経て事業化に持ち込む、という価値創出のプロセスを支援する。三菱地所では「URBAN LAB」をこのTMIPの活動に限らず、まち全体をイノベーションの舞台にしていくための指針と位置付ける。

(図2)大丸有地区で想定するイノベーションを生み出すためのエコシステム。地区内に置かれているさまざまな交流拠点を生かし、まち全体を実証実験の舞台とする(資料提供:三菱地所)
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鈴木氏は大丸有エリアのまちづくりを主導する立場でこう話す。「エリア全体でイノベーションを起こす仕組みの土台がようやく整えられた。『NEXTステージ』ではこの土台を基にイノベーションが自然発生的に生まれていくようになるといい」。

データ基盤は、「国土交通省スマートシティモデル事業」の中で構築される予定だ。事業主体は、大丸有エリアで活動するエリアマネジメント団体の一つである一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会と、東京都、千代田区の3者で組織する「大手町・丸の内・有楽町地区スマートシティ推進コンソーシアム」。同コンソーシアムの企画提案はすでにモデル事業として採択されている(表1)。

(表)大丸有地区のスマートシティモデル事業での取り組み内容(大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区スマートシティモデル事業企画提案書概要版を基に作成)
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