エリマネ団体がデータ基盤を整備・運用

(図3)大丸有地区のスマートシティモデル事業で想定するデータ利活用方針。※1 デベロッパー、鉄道会社、エネルギー会社、通信会社、カード会社、自治体など。※2 「データライブラリー」とは、データの概要情報(内容、変数ラベル、保存形式、収集方法など)を整理した目録のイメージ(大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区スマートシティモデル事業企画提案書概要版を基に作成)
(図3)大丸有地区のスマートシティモデル事業で想定するデータ利活用方針。※1 デベロッパー、鉄道会社、エネルギー会社、通信会社、カード会社、自治体など。※2 「データライブラリー」とは、データの概要情報(内容、変数ラベル、保存形式、収集方法など)を整理した目録のイメージ(大手町・丸の内・有楽町(大丸有)地区スマートシティモデル事業企画提案書概要版を基に作成)
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この企画提案でデータ基盤として想定するのが、「データライブラリー」である。これは、まちづくり協議会が主導し大丸有エリアに関するデータの所在や内容を一元的に把握するもの。ライブラリー情報を基にサービス提供事業者からデータの提供依頼を受けると、まちづくり協議会がその所有者との間を仲介する(図3)。このライブラリーでは、まちづくり協議会が司書のような役割を果たす。

エリアに関するデータを新しい事業の創出やサービスの提供に生かそうとする試みには、これまで三菱地所として取り組んできた。2018年5月には、富士通、ソフトバンク、国立大学法人東京大学大学院工学系研究科大澤研究室との間で実証実験を始め、翌19年9月にはその経験を踏まえ、富士通とともに「丸の内データコンソーシアム」を立ち上げた(図4)。

同コンソーシアムはTMIPの連携プログラムとして運営されるものだ。三菱地所と富士通は立ち上げ発表時、コンソーシアムの活動期間を2020年3月までと予定していた。その後も継続するか否かは2月現在、両社で検討中という。

(図4)三菱地所と富士通が2019年9月に「丸の内データコンソーシアム」を立ち上げたのに伴い始動させたデータ活用に関する8つのプロジェクト(三菱地所と富士通が2019年9月12日付けで公表したプレスリリースから抜粋)
(図4)三菱地所と富士通が2019年9月に「丸の内データコンソーシアム」を立ち上げたのに伴い始動させたデータ活用に関する8つのプロジェクト(三菱地所と富士通が2019年9月12日付けで公表したプレスリリースから抜粋)
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ここでの経験が、データライブラリーの運営にも生かされる見通しだ。鈴木氏はデータ利活用型のまちづくりを進める立場でこう話す。「共通のプラットフォーム上に全てのデータを載せることは、秘匿性の高いデータも含まれることを考えると難しい。そうしたデータの取り扱いにはコンソーシアムの活動で積み上げてきたノウハウを生かせる」。

エリアに関するデータを活用しながら、企業・人材の集積やエリア内のコミュニティーを生かし、オープンイノベーションによって新たな価値を生み出す――。三菱地所は「NEXTステージ」でエリアマネジメント団体とも連携し、そうしたまちづくりを目指す。

ユニークなのは、まちづくりの進捗を測定する「KPI(重要業績評価指標)」を設定する点だ。当初目標としては、(1)二酸化炭素(CO2)排出量ゼロ、(2)廃棄物再利用率100%、(3)自然災害による都市機能停滞ゼロ、(4)まちの利用者の幸福度最大化――という4つを設定。中長期的な視野でその達成を目指していく。

こうしたKPIの設定は、SDGsに関連付ける形でまちづくりの成果を評価する仕組みの構築とも言える。鈴木氏は「まちづくりを通してSDGsの実現を図ろうとする姿勢が評価される時代になっていく。こうした仕組みを構築し社会に発信していくことが、国際競争力の向上にもつながる」とみる。

評価指標の中で数値化が難しいと思われるのは、「まちの利用者の幸福度最大化」である。具体的にどう測定するかは検討中だ。ただ今後のスマートシティ開発には欠かせない指標とみる。「幸福度最大化は最近、スマートシティの目標とも言われるものだ。評価の仕組みを用意しないと、ビジョンを共有できず、投資を呼び込めない」(鈴木氏)。

重点更新を起爆剤に仕組みづくりを加速

エコシステムとデータ基盤というソフト・インフラの整備によって生み出される成果は、今後のハード整備のあり方を変えていく可能性を見込める。まさに都市空間のリ・デザイン。「丸の内Reデザイン」という言葉使いも、それを意識する。

鈴木氏が例示するのは、次世代モビリティーの社会実装に至った将来の想定だ。「建物の造りではエントランスの形状が変わったり、道路空間では人とクルマの関係性が見直されたりすることが想定される」。

候補地として考えられるのは、「NEXTステージ」での重点更新エリアと位置付けられる常盤橋地区と有楽町地区である。

常盤橋地区の更新事業は、東京駅前の一角に高さ約390mの超高層ビルなど4棟のビルを建設し、約7000平方メートルもの大規模広場を整備するもの(図5)。三菱地所が関係権利者とともに取り組む。すでに着工済みで、2027年度完成を目指す。

(図5)街区全体を日本橋側から見た東京駅前常盤橋プロジェクトの完成イメージ。中央の超高層ビルが「日本一の高さ約390m」をうたう(画像提供:三菱地所)
(図5)街区全体を日本橋側から見た東京駅前常盤橋プロジェクトの完成イメージ。中央の超高層ビルが「日本一の高さ約390m」をうたう(画像提供:三菱地所)
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一方、有楽町地区の更新事業は検討中の段階。帝国劇場や国際フォーラムという既存施設の立地を念頭に置き、「文化芸術・MICEを核としたまちづくりのショーケース」を再構築のコンセプトイメージに掲げる(図6)。

(図6)有楽町再構築のコンセプトイメージ。隣接する銀座エリアや日比谷エリアとの間をつなぐ歩行者ネットワークも整備される見通しだ(画像提供:三菱地所)
(図6)有楽町再構築のコンセプトイメージ。隣接する銀座エリアや日比谷エリアとの間をつなぐ歩行者ネットワークも整備される見通しだ(画像提供:三菱地所)
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「まちづくりのショーケース」とは、大丸有エリアで生み出されたイノベーションの成果を、ビジネス以外の世界に発表する舞台という意味。有楽町は銀座や日比谷に近いだけに、大手町や丸の内と違って一般の人が多い。そうした地域特性を生かす。

これらの地区で更新事業が完了するのは、2020年代後半。「その時期にはエコシステムもデータ基盤もすでに構築済みのはず。常盤橋地区や有楽町地区の更新事業を、そうした仕組みづくりを一気に加速させる起爆剤として生かしたい」(鈴木氏)。

今後の課題は、エコシステムとデータ基盤を活用し、社会的なインパクトを持つテーマにスピード感を持って取り組むこと。鈴木氏は「社会的なインパクトを持つテーマは、成果を出すまでに時間がかかる。一方でスピード感を持って取り組めるテーマは、企業単体で成果を出せる。社会的なインパクトとスピード感の両立が欠かせない」と指摘する。

例えば次世代モビリティー。長期の視点に立てば、まちのあり方を変えるほどの社会的なインパクトを持つ。「しかし、いますぐできることは、自動運転やパーソナルモビリティーの実証実験に限られる。その間をどうつなぐか、試行錯誤を重ねている」(鈴木氏)。

まちを利用する人間の目線に立ち、個人の幸福追求を目指す大丸有エリア。だれもが共感できる社会的なインパクトを持つテーマを掲げ、その実現に向けてテクノロジーをどう生かせるか――。大丸有エリアの課題は、スマートシティに共通の課題でもある。