「2040年、道路の景色が変わる」――。そう題する提言が近く、国土交通省から公表される見通しだ。その案文に描かれたのは、歩行者中心への再構築や移動型サービスへの対応など、道路空間の景色が変わる未来像の数々。ポストコロナ時代、社会とのつながりの重要性が再認識されるであろう中、これからの屋外公共空間に望まれる絵姿が指し示されている。
世界各地の都市が大きな打撃を受けている。新型コロナウイルスの感染拡大である。
震災時と違って、まちなかの風景は至って穏やかだ。住まいや仕事場が損傷を受けたわけではない。ライフラインもこれまで同様、通じている。都市活動に必要な物理的な環境は、何も失われていない。それでも、都市は死に体だ。
感染拡大防止に向け人と人の接触が大幅に制限されたこともあって、都市活動は停滞を強いられている。多様な資源の集積する都市が新しい価値を生み出す場として期待されるようになってきただけに、影響は計り知れない。
人は社会とのつながりを弱め、都市はクリエイティビティーを失った。
内閣府が毎年実施する「国民生活に関する世論調査」によれば、人が日ごろの生活の中で充実感を感じる時の上位に、いま制限されている「友人や知人と会合、雑談している時」がランクインする(図1)。つながりが弱まれば、満たされない思いが募る。
この社会とのつながりに対する渇望感は強い。商店街や公園など屋外公共空間とも言い得る場所に問題視されるほどの人出が見られることにも、それは表れる。事態収束の兆しが見えれば、渇望感はさらに高まり、そうした空間への需要は増していく。
ポストコロナの時代、屋外公共空間はどうあるべきか――。それを考えるうえでヒントになりそうなのが、国土交通省が近く公表する見通しの提言「2040年、道路の景色が変わる」である。その案文には、道路空間の未来像イメージが添えられている(図2)。
提言をとりまとめているのは、国土交通大臣の諮問機関である社会資本整備審議会道路分科会基本政策部会。この2月に開催した部会の中で、「ビジョン(案)」として提言の案文が配布された。これを基に、道路空間の未来像を見ていこう。
冒頭、道路政策の原点を「人々の幸せの実現」に置くとしたうえで、道路がそのために果たすべき役割を再確認。「移動」の経路という役割を安全面・効率面から進化させる一方で、人が滞在し交流する「空間」という役割に回帰させる必要性を指摘した。
20年後を見すえ、「移動」の変化を予測
「進化」を求める背景には、デジタル技術の進展やモビリティー分野での技術革新がある。これらの技術を活用することで、人やモノの移動の安全性や効率性を極限まで高めることが可能になる、という考え方に立つ。
「回帰」を求める背景には、道路は古くから、人々の交流を生む場だった、という認識がある。冒頭紹介した世論調査の結果などを踏まえ、「幸せの実現」にはそうした交流が今後さらに重要になる、と将来を見通す。
続いて、おおむね20年後を見すえ、「移動」に関する5つの変化を予測し、それによって道路の景色がどう変わるか、を展望する。
第一の変化は、通勤のようなルーティン移動の激減だ。バーチャルコミュニケーション化が進み、郊外や地方への移住・定住が増える、と予測。三大都市圏では、小学校区など地元のコミュニティー圏域単位に生活圏が再構成される、とみる。
第二の変化は、余暇移動の増加である。それは例えば、旅行、観光、散歩、健康のためのウオーキングやランニングなど。ルーティン移動の対極にある。その増加を受ける形で歩行者空間が充実し、公園と一体化した道路が出現する、と予測する。
第三の変化は、自動化・無人化だ。人の移動は自動運転技術を用いた移動サービスとして公共交通化されるという前提に立ち、マイカー所有のライフスタイルが過去のものになり、交通事故の減少で安全な道路空間が出現する、とみる。またモノの移動は、自動運転技術の進展とEC(電子商取引)の普及を背景に、無人物流が主流になる、とみる。
第四の変化は、店舗(サービス)そのものの移動である。完全自動運転化によって接客・営業しながら移動することが可能になり、小型店舗型サービスが需要の分布に応じて道路上を移動するようになる、と予測する。これらの店舗は曜日や時間帯に応じて道路の路側に停車し営業するようになるなど、まちの姿は一変する、という。
第五の変化は、道路の機能強化によって災害時もネットワーク機能を発揮できるようになる、というものだ。道路空間が災害リスクから解放され、人の避難や災害物資の輸送を支えるようになる、という見方を示す。
「ビジョン(案)」ではこれらの予測を踏まえ、道路行政が目指す「持続可能な社会の姿」を3つの社会像として提案し、その実現に向けて道路が貢献できることを「政策の方向性」として10項目示した(図3)。