民間施設誘致へ、歩行者利便増進道路を

このうち道路空間のあり方を大きく変えることになると思われるものを、ここでは2つ紹介しよう。いずれも具体の施策として動き出そうとしているものだ。

最初に紹介するのは、「行きたくなる、居たくなる道路」である(図4)。想定の一つは、まちのメーンストリート。環状道路などの活用によってそこを歩行者中心の空間として再構築するというイメージを描く。道路のデザインや構造を刷新し、沿道の建築物とも連携しつつ新しい道路景観を創出するという。

(図4)道路空間の未来像イメージの一つ「行きたくなる、居たくなる道路」。イベント開催やオープンカフェ設置によって、人が安全に楽しく滞在できる道路空間を創出する(資料提供:国土交通省)
(図4)道路空間の未来像イメージの一つ「行きたくなる、居たくなる道路」。イベント開催やオープンカフェ設置によって、人が安全に楽しく滞在できる道路空間を創出する(資料提供:国土交通省)
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こうした歩行者中心の空間づくりは必ずしも目新しいものではない。環境面や安全面で自動車社会が問題視されるようになった1960年代から提案・試行されてきた。70年8月には初めて、東京都内の繁華街4地区で歩行者天国が実施された。

道路上でイベントを開催したりオープンカフェを設置したりすることは、現行制度下で不可能ではない。国交省では地域活性化やにぎわい創出を支援する狙いから、道路占用に対する許可制度の弾力的な運用を打ち出している。

しかし道路は法令上、「一般交通の用に供する道」。「移動」と「空間」という道路の役割に立ち返れば、「移動」の役割だけが明文化されていた。そのため、「空間」の役割を持たせようとする現場では、関係機関との協議に苦慮する例が見られるという。

そこで打ち出されたのが、「滞留の用に供する部分」を確保する「歩行者利便増進道路」という考え方である(図5)。今国会で審議中の「道路法等の一部を改正する法律案」の中に新しい制度として位置づけられ、法律案の成立によって制度が創設されれば、道路管理者は区間を定めて、歩行者利便増進道路を指定できるようになる。

(図5)道路管理者は区間を定めて「歩行者利便増進道路」を指定。その中で歩行者の利便増進を図る空間を「利便増進誘導区域」として定められるようになる(出所:国土交通省)
(図5)道路管理者は区間を定めて「歩行者利便増進道路」を指定。その中で歩行者の利便増進を図る空間を「利便増進誘導区域」として定められるようになる(出所:国土交通省)
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道路管理者はこの道路内に民間事業者の歩行者利便増進施設を誘致する場合、道路内に「利便増進誘導区域」をまず設定する。そのうえで、区域内にそれを設置する民間事業者を、自ら作成する公募占用指針を基に公募で選定する。

カーブサイド・マネジメントで魅力向上

民間事業者にとっては、これまでにないメリットが見込める。

一つは、道路占用許可基準の緩和だ。道路占用許可では原則として、道路の区域外に占用物を置く余地が認められないという「無余地性」が求められる。ほかに余地がないためやむを得ず区域内を利用することを許可するという考え方である。その「無余地性」が、利便増進誘導区域内では問われない。事業の障壁は自ずと下がる。

もう一つは、事業期間を長期にわたって見込めるようになる点だ。地域活性化やにぎわい創出を目的に道路を占用する場合、その期間は更新可能なものの5年間。その期間が、利便増進誘導区域内では20年を超えない範囲に設定される。これによって、初期投資のかさむ施設の運営を計画する民間事業者が事業に参入しやすくなる。

次に紹介するのは、「世界に選ばれる都市へ」である。ここではいくつかのイメージが描かれているが、そのうちの一つ、「カーブサイド・マネジメント」に目を向けたい(図6)。平たく言えば、路側の有効かつ柔軟な活用を図るマネジメントだ。モビリティーサービスと道路空間と沿道民地で一体的にエリアの魅力を向上させ、投資を呼び込む。

(図6)道路空間の未来像イメージの一つ「世界に選ばれる都市へ」。路側の活用を図るマネジメントによって、道路空間や沿道民地と一体的で多目的な空間利用を促す(資料提供:国土交通省)
(図6)道路空間の未来像イメージの一つ「世界に選ばれる都市へ」。路側の活用を図るマネジメントによって、道路空間や沿道民地と一体的で多目的な空間利用を促す(資料提供:国土交通省)
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マネジメントの主体として想定するのは、道路管理者。可変型の道路標識や道路標示などを活用し、路側を曜日や時間帯に応じて、自動運転車の乗降スペース、移動型店舗スペース、オープンカフェなど、多目的な用途に振り分ける。

提言とりまとめの事務局を務める国土交通省道路局企画課課長補佐の藤浪武志氏は「新たに検討組織を立ち上げ、運用の仕方を協議していく予定」と話す。カーブサイド・マネジメントの導入にあたっては、内閣府・国土交通省令である「道路標識、区画線及び道路標示に関する命令」などの改定が必要になる見通しだ。

道路空間を今後大きく変えていくことを具体的に打ち出している都市の例として、大阪市が挙げられる。市内中心部を南北に貫く御堂筋を歩行者中心の空間に変えていくことで、都市資源の交流を促し、新たな価値を生み出していく狙いだ。道路の景色を変えれば、まちが変わる――。道路空間再編への思いは、強い。

都市部ではいま、「Stay Home」の掛け声とともに、メーンストリートの景色がすっかり変わってしまった。ポストコロナの時代には、歩行者の姿がただそこに戻ってくるだけではなく、道路の景色が大きく変わり始めることになりそうだ。