ゴンドラは夜間ライトアップを計画

都市型ロープウエーの建設・運営で必要になる法令上の手続きは大きく2つある。

一つは、鉄道事業法に基づく索道事業の許可だ。ロープウエーの経営者は国土交通大臣の許可を受けなければならない。ここでは、工事計画が法令で定める技術上の基準に適合するか、経営者が事業を安全・的確に遂行する能力を持つかが問われる。ただこれは都市型に限らず、ロープウエーの建設・運営一般に共通するものだ。

もう一つは、法令に基づく占用・使用許可である。都市型ロープウエーは各種公共空間に停留所や支柱を建設し、その間でゴンドラを運行することになるため、各施設管理者から占用・使用許可を得る必要がある。横浜市の場合であれば、道路は市道路局や首都高速道路、水域や港湾施設は市港湾局から許可を得なければならない。許可権者は多岐にわたる。

市都市整備局はそこで、協定に基づく調整窓口の役割を果たした。松井氏は「許可権者はそれぞれの都合で許可要件を満たすよう求めてくる。個別調整ではまとまりにくい中、それらの要請をワンストップで受け止め、全体調整を図った」と話す。

市の役割は泉陽興業も認める。社長の山田氏は「市都市整備局とともに必要な法令上の許可手続きを済ませてきた。都市型ロープウエーを公民連携で事業化するモデルになるのではないか」と評価する。

市都市整備局と泉陽興業は2019年12月、これら法令上の手続きを終えるメドが立ったことから事業実施協定を締結し、事業着手を決めた。事業費は80億円程度の見通し。事業期間は、占用・使用許可を更新する前提で30年と定めた。「年限を迎える段階で協議し、事業継続の可否を判断する想定だ」(松井氏)。

利用料金や営業時間など事業運営の詳細は、泉陽興業で目下検討中だ。社長の山田氏は「周辺施設や各種イベントとの相互協力を含め、正確な利用予測を行い、利用者に満足してもらえる安全・安心で快適な施設の運営を目指す」と意気込む。

興味深いのは、夜間の運行も想定している点だ。ゴンドラから夜景を楽しめるだけでなく、そこに搭載した発光ダイオード(LED)照明によるライトアップも計画しているため、ロープウエーそのものが夜景を構成する。監修は照明デザイナーの石井幹子氏だ。

回遊性向上へ、歩行者用デッキ延伸

デザイン面は泉陽興業が力を入れている点だ。社長の山田氏は「これまで形成されてきた景観に調和し融合することを基本にしつつ、新たな観光振興施設として先進的なイメージが感じられ、景観の魅力がさらに高まるデザインを目指した」と解説する(図3)。

(図3)泉陽興業が施設デザインの方向性として示したイメージ図。8人乗りゴンドラ36基が循環する形でJR桜木町駅前と運河パークの間を結ぶ。ゴンドラには、バッテリー型の冷房設備や各種安全監視システムなど独自のノウハウと技術を結集する。その製造は輸送設備メーカーの日本ケーブルに依頼している(資料提供:泉陽興業)
(図3)泉陽興業が施設デザインの方向性として示したイメージ図。8人乗りゴンドラ36基が循環する形でJR桜木町駅前と運河パークの間を結ぶ。ゴンドラには、バッテリー型の冷房設備や各種安全監視システムなど独自のノウハウと技術を結集する。その製造は輸送設備メーカーの日本ケーブルに依頼している(資料提供:泉陽興業)
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例えば支柱のデザイン・形状は、構造上の安全性に加え、景観にも配慮し、丸型鋼管4本支柱の幅狭タイプを採用している。比較検討したトラス形状4本支柱や丸型鋼管1本支柱に比べ、部材が細いため面として認識されず、支柱の向こうの景色も部材越しに見える点を評価した結果だ。さらに構造上の安全性は確保したまま支柱先端部の角度を狭めることで足元の基礎部分の幅を約1m短くした幅狭タイプを自ら提案した。

これに対して市では、市長の諮問機関として条例に基づき設置する都市美対策審議会を通して、ロープウエーの建設・運営を景観面から審議している。泉陽興業ではそこでの審議を踏まえ、計画を固めてきた。ライトアップについてもこれまで同様、今後開催される審議会での審議を踏まえ、計画を固めていくことになる見通しだ。

市都市整備局と泉陽興業の連携は、停留所の造りにも表れる。JR桜木町駅側は駅前広場の一角(図4)。ここはJR駅舎との接続は図っていないが、一方の運河パーク側(図5)では運河パークと横浜ワールドポーターズとの間をつなぐ歩行者用デッキを延伸し、停留所につなげる事業を市が2020年度内に進める予定だ。松井氏は「デッキの延伸で横浜ハンマーヘッド方面に行きやすくなる。回遊性の向上につながることから市都市整備局として取り組むことを決めた」と話す。

(図4)JR桜木町駅前の停留所イメージ。ここから右手方面に向けて、ゴンドラは出発することになる。停留所の背景、左手に見えるのは、横浜ランドマークタワー(資料提供:泉陽興業)
(図4)JR桜木町駅前の停留所イメージ。ここから右手方面に向けて、ゴンドラは出発することになる。停留所の背景、左手に見えるのは、横浜ランドマークタワー(資料提供:泉陽興業)
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(図5)運河パーク内の停留所イメージ。開業時までに、背後の横浜ワールドポーターズと運河パークとの間を結ぶ歩行者用デッキが停留所まで延伸されることになる(資料提供:泉陽興業)
(図5)運河パーク内の停留所イメージ。開業時までに、背後の横浜ワールドポーターズと運河パークとの間を結ぶ歩行者用デッキが停留所まで延伸されることになる(資料提供:泉陽興業)
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大型プロジェクトによる拠点開発が進む都市部では、拠点間の回遊性をどう高めるかが課題に上っている。その役割を担うことが期待されているのが、多種多様なモビリティーだ。その利用を促し回遊性を高めるには、「まちを楽しむ」という要素は欠かせない。

その要素を持てることが、都市型ロープウエーの強みだ。泉陽興業代表取締役会長の山田三郎氏は「都市型ロープウエーは世界的に普及しており、この計画のように諸条件が整えば、将来性はあると考える」と、将来展開にも前向きだ。

「ウイズコロナ」を当面は意識せざるを得ない時代。エリア内の集積をこれまで以上に高めることには限界が生じる。そこで注目したいのが、回遊性だ。

エリア内の回遊性を高めれば、拠点間でにぎわいの相乗効果を生み出せる。その役割を小規模・分散輸送のロープウエーが担う――。そこには、ポストコロナを先取りするかのような都市型モビリティーのあり方が見て取れる。