鉄道駅とまちを一体的に開発する駅・まち一体開発に新しいカタチが登場する。東京・豊洲で清水建設が開発中の「駅前」プロジェクトである。駅は「都市型『道の駅』」と位置付けられる交通結節点。地上には臨海部と都心部を結ぶ東京BRTの停留施設が置かれる。この開発では、にぎわい創出と災害対応というデュアルモードの都市インフラづくりを目指す。

「道の駅」と言えば、「休憩」「情報提供」「地域連携」の3つの機能を備えた道路施設。「休憩」機能を備えていることに表れているように、ドライバーがひと休みしたくなるような都市近郊や中山間地域に立地する印象が強い。

その「都市型」とは、どのようなものか――。

都市型「道の駅」と位置付ける施設・空間を東京・豊洲で開発中の清水建設が引き合いに出すのは、国土交通大臣の諮問機関、社会資本整備審議会道路分科会の建議に盛り込まれた一文だ。そこでは、推進すべき道路の「オープン化」の一例をこう記す。

「都市部では人を中心に据えながら、低速モビリティや自動運転などの交通拠点機能や防災機能などを併せ持つ空間や歩く人のための小規模な施設など、新たな都市型の道の駅とも言うべき空間の創出についても、官民の役割分担を明確にしながら検討すべき」

「都市型」とはつまり、「道の駅」に交通拠点や災害対応などの機能を加えたもの。清水建設では、例示のこの2つに「にぎわい創出」を加えた3つの機能を想定する(図1)。

(図1)清水建設が東京・豊洲で開発中の都市型「道の駅」完成予想CG。都市型として、交通拠点機能、災害対応機能、にぎわい創出機能が加わる。完成予想CGは計画段階のもので、実際とは異なる(画像提供:清水建設)
[画像のクリックで拡大表示]

「にぎわい創出」と「災害対応」は、コインの裏表のような関係性という。

同社営業総本部街づくり推進室プロジェクト営業部長の溝口龍太氏は「平時はにぎわい創出の機能を、災害時は災害対応の機能を発揮する。デュアルモード・ソサエティーを意識し、平時と災害時で切り替え可能な都市インフラを提供する」と話す。

「都市型」が提唱される背景には、環境の変化がある。

図2は、東京都市圏で10年に1度実施されているパーソントリップ調査の結果である。「トリップ」とは、移動のこと。目的地までの移動を、「1トリップ」と数える。途中で異なる交通手段に乗り換えても、「1トリップ」に変わりはない。

(図2)東京都市圏で10年に1度実施されるパーソントリップ調査の結果。総トリップ数が落ち込んだのは、昭和43年(1968年)の調査開始以来初めてという(出所:国土交通省関東地方整備局企画部)
[画像のクリックで拡大表示]

このグラフが示すように、第2回調査の昭和53年(1978年)調査以降、総トリップ数は増えていたものの、最新の調査である平成30年(2018年)調査では前回の調査である平成20年(2008年)調査と比べ約13%落ち込んだ。

オフィスとホテルの間に交通広場

調査時点は2018年9~11月。コロナ禍の影響ではない。調査対象地域内の人口は、調査対象である5歳以上で3462万人(2008年)から3690万人(2018年)へと増えている。にもかかわらず、総トリップ数は1割以上も減ったのである。

こうした環境変化を背景に、既存の道路を活用し、そこに新しいモビリティーを持ち込む交通ネットワークの考え方が登場しているという。総トリップ数の減少傾向を踏まえると、費用便益比上、軌道系の交通ネットワーク整備は困難になるからだ。

道路を活用したその交通ネットワークにも、新しいモビリティーの停留施設として軌道系の鉄道駅にあたる交通拠点が必要になる。それが、都市型「道の駅」という位置付けだ。駅前開発にあたる民間の開発プロジェクトに併せて整備する。

清水建設の開発プロジェクトは、そうした民間開発の一例である。

開発地は、豊洲市場の目の前。都心との間を結ぶ環状2号線沿いに広がる広さ約3.5haの土地だ。清水建設では土地を、所有者の東京ガス不動産から定期借地契約で借り上げ、オフィス棟とホテル棟を建設する(図3)。

(図3)開発プロジェクト全体の完成予想CG。交通広場をはさんで右にオフィス棟、左にホテル棟。2階に歩行者用デッキを整備し、右手の新交通ゆりかもめ「市場前」駅、オフィス棟、交通広場上のデッキ、ホテル棟、左手の晴海運河沿いの水辺空間をつなげる。完成予想CGは計画段階のもので、実際とは異なる(画像提供:清水建設)
[画像のクリックで拡大表示]

オフィス棟は、地上12階建て、延べ床面積約8万9100m2。運河や公園に近い自然環境に恵まれた場所でワンフロア約2000坪の広さを提供する。研究開発機能、テストキッチン、スタジオなどの用途を想定し、天井高や床荷重に余裕を持たせる。

ホテル棟は、地上14階建て、延べ床面積約3万2300m2。豊洲一帯の観光・ビジネス客の宿泊需要に対応したエリア最大規模のアーバンリゾートホテルを提供する。運営主体は共立メンテナンス。客室数は582を予定している。

交通広場は、オフィス棟とホテル棟の間に整備する約3200m2の空間だ。東京ガス不動産が土地を所有したまま清水建設が交通広場として整備し、その後は江東区が区有通路管理条例に基づく区有通路として管理する。

オフィス棟とホテル棟はすでに建設中。交通広場も近く工事に入る。完成は2021年8月の見通しだ。投資額は不動産開発事業費で約600億円。清水建設ではオフィス棟とホテル棟を一定期間保有・運用した後、第三者に売却し投資資金を回収する。