スマートフォンとSNS(交流サイト)の普及で、誰もが様々な情報を発信できる時代になった。災害時には、被災状況を伝える動画などがメディアでも紹介されている。これらの情報を災害対応に生かさない手はない。自然言語処理技術を用いて膨大な量のSNSへの投稿を基に災害対応に役立つ情報を提供するプラットフォームが、すでに社会実装されつつある。

災害に関する情報を自治体がツイッターやフェイスブックなどSNS(交流サイト)上で収集する取り組みは、情報発信にSNSを活用する取り組みに比べればまだ少ないものの、スマートフォンやSNSの普及とともに着実に広がりつつあるようだ。

内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室が2018年11月から19年1月までの間に実施した「災害対応におけるSNS活用状況に関する自治体調査(情報発信)」によれば、災害対応でSNSを情報発信に活用した市区町村の割合は調査対象1741自治体の62.6%。この2018年度の調査で初めて、1000自治体を超えたという。

これに対して、同室が2019年1月から同年2月までの間に実施した「災害対応におけるSNS活用状況に関する自治体調査(情報収集)」によれば、災害対応でSNSを情報収集に活用した市区町村の割合は有効回答1022自治体の7.4%。防災訓練や実証実験での活用を含めても10%に満たないという。

これらはしかし、さらに増える可能性が見込まれる。同じ調査によれば、情報収集を検討中の市区町村は25.6%、検討段階にはないものの関心を持つ自治体は47.7%に達する。1年半前の調査であることから、その後、活用や検討に至ったとしてもおかしくない。

ただ、SNSを活用するにあたっては、課題がある。

すでに活用している自治体は市民に向けて、例えば書き込む文章内に「#○○市災害」というような災害用ハッシュタグをつけるなど、投稿する場合には一定のルールを守ることを自治体のホームページで要請している。膨大な量のSNS情報の中から必要な投稿だけを検索し活用できるようにするためのルールである。

課題とは、このルールを現実にどこまで徹底できるのか、という点だ。しかも、仮に徹底できたとしても、ハッシュタグで検索した投稿を、災害対応にどう役立てられるか、という別の課題も残る。ルールとは無関係に自由に投稿されたSNS情報を、災害対応に役立てることのできるツールがあれば、それに越したことはない。

そうしたツールの一つが、日本電気(NEC)が今年6月に販売を開始した「高度自然言語処理プラットフォーム」である。災害時には、「地震・大雨被害」「救助・孤立」「道路トラブル」「ライフライン」「避難所・支援」「交通機関トラブル」という6つのカテゴリーに含まれる投稿内容を、リアルタイムに検知できる(図1)。

(図1)「高度自然言語処理プラットフォーム」でリアルタイムに検知可能な情報。被災情報や救援要請などSNSへの投稿が、これら6つのカテゴリーに分類される(資料提供:NEC)
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被災現場の状況をいち早く把握

核となる人工知能(AI)利用の自然言語処理技術は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が開発した対災害SNS情報分析システム「DISAANA」と、災害状況要約システム「D-SUMM」を基にしたもの。NECでは同機構とライセンス契約を交わし、その社会実装を「高度自然言語処理プラットフォーム」という名称で事業化した。

NEC第一都市インフラソリューション事業部主任の伊熊結以氏は「もともと自治体向けに防災行政無線システムを納入するなど、公共機関に災害対応を支援するシステムを提供してきた。AIを利用した新しいプラットフォームを提供することで、顧客への付加価値を高め、オリジナリティーを発揮していく」と、事業化の狙いを話す。

プラットフォームの特徴は、大きく3つある。

第一の特徴は、被災現場の状況をいち早く把握できる点だ。SNS情報を基に「どこで」「いつ」「どのような事象や被害が発生しているか」を、自然言語処理技術を用いて仕分け。「地震・大雨被害」であれば、「氾濫・決壊」「浸水・冠水」「建物・インフラ被害」などの項目ごとに情報を参照できるように整理する(図2)。

(図2)第一の特徴は、いち早く被災現場の状況を把握できる点だ。2019年10月に上陸した台風19号に関して長野県内で発信された投稿内容を解析すると、「地震・大雨被害」のカテゴリーに分類されるものが1152件あり、そのうち「氾濫・決壊」は531件あることが分かる。右は投稿の具体例。被災状況や場所ごとに投稿内容を確認できる(資料提供:NEC)
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第二の特徴は、事象の発生場所・種類ごとに地図上で状況を俯瞰できる点だ。例えば台風19号が2019年10月に上陸した時、群馬県内で発信された孤立や救援要請に関する投稿を解析すると、情報の空白地帯である八ツ場ダム付近や嬬恋村付近で数多くの書き込みが投稿されたことが地図上で見て取れる(図3)。

(図3)第二の特徴は、事象の発生場所や種類ごとに地図上で状況を俯瞰できる点だ。台風19号に関して群馬県内で発信された投稿内容を解析すると、情報の空白地帯である八ツ場ダム付近や嬬恋村付近で数多くの書き込みが投稿されたことが地図上で分かる。嬬恋村で土砂崩れによる孤立が発生していたことは、メディア報道の6時間前に把握していた(資料提供:NEC)
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第三の特徴は、正確でない可能性がある情報を検知できる点だ。このプラットフォームが同じ地域・時間帯に発信されていながら内容が矛盾している投稿を検知した場合、その投稿を画面に表示(図4)。利用者が正確性を見極める判断を支援する。

(図4)第三の特徴は、正確でない情報を検知できる点だ。同じ地域・時間帯に発信されていながら内容の矛盾している投稿を検知し、画面表示する機能を持つ。これによってデマ情報の排除を支援する(資料提供:NEC)
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利用者はこれまで通りの手段で得た情報とこのプラットフォームの活用で得た情報を組み合わせ、より的確な災害対応を迅速に取れるようになるという。「例えば台風被害では、洪水が起きているのか、道路が寸断しているのか、どこで何が起きているかによって、初動対応は異なる。このプラットフォームは、従来の情報収集手段を補完し、より的確な判断を迅速に下すための材料の一つと位置付けてほしい」(伊熊氏)。

NECが事業化に至るきっかけは、総務省の公募事業である。

この公募事業は、NICTの研究開発成果を活用し、具体的な利活用分野を対象に「最先端の自然言語処理技術を利用できる先進的かつ独創的な情報通信プラットフォーム」の社会実装に向けて、要件定義、設計・開発、実証・評価・試験的運用にあたる受託者を募るものだ。研究開発期間として、2017~19年度の3年間を予定していた。