地方創生やSDGs(持続可能な開発目標)の観点から、都市部でのビル建設に木材を用いる例が増えている。いわゆる都市木造の登場である。デベロッパーとして一際強い積極姿勢を見せるのは、三菱地所だ。高層ビルで実績を重ねながら、普及に向けた技術開発に乗り出し、今年1月には建築用木材の生産から販売まで一気通貫で手掛ける合弁会社まで設立した。

「私たちが目指すのは、大通公園沿いの都市木造化だ」

三菱地所関連事業推進室CLTユニット主事の海老澤渉氏は、こう言い切る。今年3月、札幌市内で木造・木質ビルとしては同社にとって4番目の実績である「(仮称)大通西1丁目プロジェクト」を着工。目標実現への第一歩に踏み出した。

このプロジェクトは、さっぽろテレビ塔の近く、大通公園に面した一角に地上11階建てのホテルを建設するもの(図1)。客室数は約130。2021年秋までの開業を予定している。グループ会社のロイヤルパークホテルズアンドリゾーツが運営にあたる。

(図1)「(仮称)大通西1丁目プロジェクト」の外観イメージパース。外装には、北海道産のタモ材を用いた木製ルーバーを採用する。高熱乾燥処理で腐りにくくした木材を用いる(資料提供:三菱地所)
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木造ビルとはいえ、厳密には混構造である。地上7階までは鉄筋コンクリート造(RC造)だが、同8階はRC造と木造のハイブリッド構造、同9階以上は木造で構成する。構造材への木材使用量は1050m3。その約8割を地元の道産材で賄う。

なぜ、都市木造化に取り組むのか――。

一つは、地域貢献である。北海道の森林面積は国内トップ。2017年3月現在、550万haを超える。地域産材の利用を進めることで、地域経済の循環を生み出し、森林の持続可能な経営を促す。SDGs(持続可能な開発目標)の観点とも言える。

もう一つは、ホテルの魅力向上だ。三菱地所北海道支店コマーシャル不動産事業ユニットの平野晋作氏は「ホテルを運営していくうえで、木材利用は商品価値の一つになる。普通のホテルではなく、ここにしかないホテルという価値を打ち出せる」と話す。

木造・木質ビルの建設は、建築基準法の改正を背景に建築界で20年ほど前から技術開発が進み、実績が少しずつ積み重ねられてきた。同じ時期、欧米では高層ビルに利用される「CLT(直交集成板)」と呼ばれる木材に熱いまなざしが注がれるようになった。

三菱地所が目を付けたのも、このCLTである(写真1)。2017年度には、社内提案を受けて専門部署「CLTユニット」を新設。木造・木質ビルの技術開発に乗り出した。海老澤氏は、その狙いをこう話す。

(写真1)CLT(直交集成板)は、乾燥させた板材を並べたものを繊維方向が直交するように積層・接着した大判のパネル。コンクリートに比べ、軽く、断熱性が高い(画像提供:三菱地所)
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「当時、工事費が高騰し、作業員の不足も心配されていた。工事費を抑えられるビル開発の手法を持たないと、差別化を図れない。注目度の高いCLTを用いる技術を開発し、グループのリソースを生かした一気通貫のビジネスモデルを確立することを考えた」

木材利用で工期短縮とコスト削減

三菱地所は、グループ内に設計部門も抱えるデベロッパー。建築技術の開発にあたる一方で、建築主として自ら投資する立場でもある。自社で開発した木造・木質ビルの技術を投資先に実装することで、その検証を重ねられる強みを持つ。

2019年に入ると、CLTを活用した木造・木質ビルを2つ完成させる。床と壁の一部にCLTを用いた地上10階建ての賃貸マンション「PARK WOOD高森」(仙台市)と、屋根の構造材にCLTを用いた「みやこ下地島空港」(沖縄県宮古市)のターミナルビルだ。今年3月にはさらに、同じく床の一部にCLTを用いた地上8階建ての賃貸オフィスビル「PARK WOOD岩本町」(東京都千代田区)を完成させた。

いずれも、RC造や鉄骨造(S造)との混構造ではある。「地震国であり、海外と法規制が異なるだけに、すべての構造材をCLTにするのは困難」(海老澤氏)。RC造やS造と組み合わせながら、工期短縮やコスト削減につながる汎用技術を開発してきた。

CLTを用いると、なぜ工期短縮やコスト削減につながるのか。海老澤氏が「見えてきた」と指摘するのは、床材としての利用だ。「CLTは床に置くだけで、そのまま構造材として機能を発揮する。RC造やS造と違って、工程を短縮できる。また規模の大きなビルなら、構造体が軽くなるため、それを支える基礎の築造コストを抑えられる」。

札幌市内のホテル開発も、一連の技術開発の流れの中に位置付けられる。三菱地所北海道支店コマーシャル不動産事業ユニット統括の熊沢祥太氏は「技術の汎用性を確認するのが、狙いの一つ。普及啓発を目的としたショーケースの役割を担う」と説明する。

このプロジェクトでは、木造・木質ビルの技術を3つ、開発・採用している。

一つは、地上9階以上を構成する木造の造りだ。ここでは、一級建築士事務所であるMoNOplanとともに、構造体を「面」で構成する「ツーバイフォー」と呼ばれる枠組み壁工法を基に壁の強度を高めた工法を開発。床のCLTと組み合わせた。客室を「面」で構成することで、柱や梁による凹凸がない、すっきりした空間を実現する(図2)。

(図2)地上9~11階までの木造階の客室内イメージパース。柱や梁による凹凸がない、すっきりした空間に仕上がる。内装材への木材利用は検討中(資料提供:三菱地所)
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このビルでは、枠組み壁工法は構造体を柱や梁といった「軸」で構成する在来軸組みと呼ばれる工法に比べ、コストを抑えられる。海老澤氏は「在来軸組みと同じく戸建て住宅にも用いられる工法のため、地元の作業員でも施工に対応できる良さがある。また部材がパネル化されるため、高層階でも重機を用いて効率良く施工できる」と指摘する。