木材利用を商品価値につなげる

高層ビルの上層部を木造とする場合、通常の木造建築と同じようにRC造やS造に比べ大きな変形を許容する設計で必要な性能を確保できるのか、検証することが不可欠だ。このプロジェクトでは、木造の構造体にサッシや外装材などを取り付け、台風や地震など大きな外力を受けても性能を確保できるか、実物大の実験で確かめた。

木造とRC造のつなぎ目になる地上8階では、RC造の柱・梁・壁にCLTの床を組み合わせたハイブリッド構造を用いた。これが、2つ目の技術だ。組み合わせる構造は異なるものの、S造を用いた「PARK WOOD高森」で開発済みのもの。三菱地所設計北海道支店デザイナーの緒方祐磨氏は「技術の汎用性をさらに高めようと、そこで培った技術をRC造にも適用することを意図した」と説明する。

3つ目は、地上3~7階までの天井に用いた「(仮称)配筋付型枠」である(写真2)。

(写真2)「(仮称)配筋付型枠」。あらかじめ配筋を施した板材を、型枠兼天井仕上げ材として用いる。約3分の2の配筋を工場で済ませておくため、現場作業の負担を軽くできる(画像提供:三菱地所)
(写真2)「(仮称)配筋付型枠」。あらかじめ配筋を施した板材を、型枠兼天井仕上げ材として用いる。約3分の2の配筋を工場で済ませておくため、現場作業の負担を軽くできる(画像提供:三菱地所)
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型枠とは、コンクリートを思い通りの形状に固めるために組み上げる枠組み。通常は、型枠を組み上げた後、鉄筋を配置したうえでコンクリートを打設し、それが固まると解体する。「(仮称)配筋付型枠」は、コンクリート打設後そのまま内装材になるため、解体は不要だ(図3)。大豊建設の協力の下、建材メーカーのケンテックと共同で開発した。

(図3)地上3~7階までの鉄筋コンクリート造階の客室内イメージパース。天井には「(仮称)配筋付型枠」を用いるため、その仕上げには木部が現れる(資料提供:三菱地所)
(図3)地上3~7階までの鉄筋コンクリート造階の客室内イメージパース。天井には「(仮称)配筋付型枠」を用いるため、その仕上げには木部が現れる(資料提供:三菱地所)
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これだけの技術を用いるものの構造材に木材を用いていることは、残念ながら目には見えない。法規制とコスト面の制約から、地上3~7階までの天井を除き、構造材の表面を耐火性能のある部材で覆うことになるからだ。

ただ、木材利用を商品価値につなげるには、宿泊客や利用者にそれをアピールする必要があるのは明らかだ。平野氏は「構造材に木材を利用していることを打ち出していくと同時に、客室や共用施設の内装や家具に、極力、道産材を利用していく」と話す(図4)。

(図4)ホテルロビー内装イメージパース。北海道産の木材をふんだんに用いて自然の温もりに包まれた空間を実現する計画だ(資料提供:三菱地所)
(図4)ホテルロビー内装イメージパース。北海道産の木材をふんだんに用いて自然の温もりに包まれた空間を実現する計画だ(資料提供:三菱地所)
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木造・木質ビルの実績を重ねながら技術開発に取り組む一方、三菱地所では2020年1月、建築用木材の生産、流通、施工、販売まで、一気通貫で手掛ける合弁会社「MEC Industry」を立ち上げた。資本金は2020年7月現在、19億2500万円。出資者には、三菱地所と同じく木材利用に取り組む、竹中工務店、大豊建設、松尾建設、南国殖産、ケンテック、山佐木材の6社が顔を並べる。

新会社設立の狙いは、生産から販売までのビジネスフローを統合し、中間コストを抑えたビジネスモデルを確立することにある(図5)。

(図5)MEC Industryと既存の建築用木材事業のビジネスモデルを比較したもの。「販売」に至るまでのプロセスを1社で担うことで、プロセス間で生じていた中間コストを省き、商品開発と製造段階の連動によって効率的な製造システムを構築する(資料提供:三菱地所)
(図5)MEC Industryと既存の建築用木材事業のビジネスモデルを比較したもの。「販売」に至るまでのプロセスを1社で担うことで、プロセス間で生じていた中間コストを省き、商品開発と製造段階の連動によって効率的な製造システムを構築する(資料提供:三菱地所)
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コンビニ、工場、倉庫への展開も

これまではビジネスフローの各プロセスを異なる会社が担っていた。その結果、何段階にもわたり中間コストが発生する一方、プロセスの分断によって市場ニーズを製造の現場に届けることが難しかった。

MEC Industryはビジネスフローを1社で担うことで、これまで生じていた中間コストを省き、商品開発と製造段階の連動によって効率的な製造システムを構築することを目指す。同社企画営業部リーダーを兼務する海老澤氏は、「木材の使い道を内外装などさまざまな部材にまで広げられるようになる。伐採前の立木をうまく使い切ることで、ローコスト化を進めていきたい」と、将来をにらむ。

事業の柱は、規格型の戸建て住宅を開発・供給する木プレファブリック事業と、RC造やS造のビル向けに木材を用いた新建材を開発・供給する新建材事業だ。

木プレファブリック事業で開発・供給する規格型の戸建て住宅は、CLTパネルや集成材を用いて工場で生産した部材を現場で組み立てるものだ。現場作業の負担が軽くなり、工期短縮も可能になることから、床面積100m2程度の平屋を1000万円未満の価格で供給できるようになる見通し。将来は、コンビニエンスストア、工場、倉庫といった非住宅の用途にまで展開していくことを目指している。

新建材事業で開発・供給する新建材は、施工性が高く、現場作業の負担を軽くする一方で、木材を見せることで優れた意匠性を発揮できるものを想定する。札幌市内のホテル開発で採用する「(仮称)配筋付型枠」は、その一例だ。

MEC Industryは鹿児島県湧水町内に自社の生産拠点である木材加工施設を建設し、2021年4月には部分操業を始め、規格型の戸建て住宅や「(仮称)配筋付型枠」の販売に乗り出す。2022年4月には、本格操業を始める予定だ。

売り上げ目標は、会社設立から10年で100億円。同社経営管理部課長の重田翔平氏は「当面は、鹿児島、宮崎、熊本の南九州3県を中心に、九州全域で事業を展開する。将来は、木材加工施設を増やし、全国展開を図る。アジアへの展開も構想している」と、事業展開への意欲を見せる。

新会社設立で三菱地所の木材利用にはさらに弾みがつきそうだ。「木造化や木質化はこれまでコストアップにつながるものだったが、MEC Industryでは『(仮称)配筋付型枠』のように、そうした木材利用の課題解決につながる商品を開発・供給していく。コスト削減によって事業採算の合う木材利用が可能になる」。海老澤氏は今後をそう見通す。