新宿で駅まち一体開発が動き出す。小田急電鉄と東京地下鉄は今年9月、「西口地区の開発計画」を発表し、新宿駅直結のビルを超高層ビルに建て替えることを明らかにした。東京都と新宿区は鉄道事業者らと「新宿の拠点再整備方針」をまとめ、新宿グランドターミナルの一体的な再編を打ち出している。巨大ターミナル新宿のまちづくりは、どこに向かうのか。

小田急電鉄と東京地下鉄(メトロ)が共同で建設するビルは、地上48階建て。高層部に業務機能を、中低層部に商業機能を配置する。業務と商業の中間フロアには、ビジネス創発機能の導入も見込む。その規模から、新宿西口の顔になると言っていい(図1)。

(図1)計画建物を新宿駅西口側から見たときのイメージパース。駅と一体化した地上48階建ての超高層ビルはひときわ目立つ。基本設計は日本設計(資料提供:小田急電鉄、東京地下鉄)
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敷地は、小田急百貨店新宿店本館や新宿ミロードとして営業している建物と新宿地下鉄ビルディングが立つ帯状の土地だ(図2)。計画によれば、この一帯を再開発する工事を2022年度から始め、2029年度には終える予定。事業費は非公表という。

(図2)計画建物の敷地はJR新宿駅と京王線新宿駅に挟まれた帯状の一帯。小田急線新宿駅や東京メトロ丸ノ内線新宿駅と一体的に開発される(資料提供:小田急電鉄、東京地下鉄)
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再開発の狙いを、小田急電鉄CSR・広報部はこう答える。

「渋谷、東京、品川、虎ノ門など都心各所で大型再開発が行われる中、新宿の魅力は相対的に低下してきたと認識している。一方、新宿では新宿住友ビル三角広場やSOMPO美術館などリアル空間の整備や、今後のまちづくりには必須のデジタル環境整備の動きが活発化している。この機運を生かした再開発を通じて、新宿のさらなる魅力向上と当社グループの収益最大化を目指していきたい」

小田急電鉄にとって、新宿は言わずと知れた重要拠点の一つ。その魅力向上は、新宿だけでなく、沿線エリアにも大きな価値をもたらす。小田急百貨店新宿店本館の建物が完成したのは50年以上前だけに、再開発に踏み切るべき時期を迎えているともいえる。

新宿再整備の機運を盛り上げているのは、都市計画の動きだ。東京都と新宿区は2018年3月、「新宿の拠点再整備方針」をまとめ、まちづくりの方向性として「新宿グランドターミナルの一体的な再編」を打ち出した。

駅周辺で目立つ築50年以上のビル

その背景には、小田急電鉄と東京地下鉄の再開発にみられるように、新宿駅を中心とする一帯が更新時期を迎えているという事実がまずある。

図3は、新宿駅を中心とする一帯の建物の築年数(2018年1月1日現在)を色分けしたものだ。駅周辺では築50年以上のものが少なくない。駅西口では再開発の対象である建物のほか、京王百貨店新宿店や小田急百貨店新宿店ハルクの営業する建物が該当する。

(図3)新宿駅周辺の大規模建築物、新宿駅東口地区の建築物、西新宿一丁目商店街地区の建築物の築年数(2018年1月1日現在)。駅周辺には赤で示した築50年以上のものが目立つ(出典:第5回「新宿の拠点再整備検討委員会」資料)
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建物の老朽化が進行すれば、民間所有者は建て替えや再開発に踏み切る。都や区としては、そうした民間の動きと連携し、新宿が抱えるさまざまな課題の解消を図りたい。再整備方針は、そうした狙いから策定されたものである。

再整備方針で指摘する課題は、大きく2つある。

まず「まちの課題」である。一つはまさに、図3で指摘した課題だ。駅周辺には築50年以上の老朽化した建物が集積している。このほか、小田急電鉄でも指摘する新宿の相対的な地位の低下が挙げられる。再整備方針では、商品販売額や売り場面積の横ばい傾向、グローバルビジネスを支える環境の不足を、その具体例として挙げる。さらに、まち同士のつながりが弱く、にぎわいが地域全体に展開されない点や、貴重なみどりの空間である新宿中央公園や新宿御苑とまちとの関わりが弱い点も指摘する。

次に「ターミナルの課題」。ここでは、駅施設や駅ビルの老朽化や駅構造が複雑で分かりにくいという点のほか、駅の東西が分断されているため、駅とまち、まちとまちの間の移動がしづらい点、駅前広場が自動車中心の空間構成のため、数多くの歩行者が滞留できる空間が不足している点を指摘する(図4)。

(図4)新宿駅の駅端末交通手段分担率と駅前広場の空間構成比を比較したもの。鉄道乗降客が駅と目的地(出発地)の移動に利用する駅端末交通手段は徒歩が大多数を占めるものの、西口も東口も広場に占める歩道の割合は、2~3割にすぎないことが分かる。データは、「平成20年東京都市圏パーソントリップ調査」(東京都市圏交通計画協議会)に基づく(出典:東京都・新宿区「新宿の拠点再整備方針」2018年3月)
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これらの課題認識を踏まえ、打ち出したのが、「新宿グランドターミナルの一体的な再編」という考え方だ。その具体的な再整備方針は「方針1」から「方針10」まで10項目に整理されている(図5)。都や区はこれらを基に基盤整備を進め、鉄道事業者らはこれらを自社施設の更新計画に反映させることを求められる。

(図5)新宿グランドターミナルの再整備方針。「交流」「連携」「挑戦」という再整備の方向性を示す言葉ごとに、具体的な方針を「方針1」から「方針10」まで掲げる。行政や民間が基盤整備や施設整備を進めていくときに計画に取り込むべき内容を定めている(出典:東京都・新宿区「新宿の拠点再整備方針」2018年3月)
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線路上空にはデッキと別に広場空間

駅周辺一帯の基盤整備については2019年12月、土地区画整理事業で進めることが都市計画決定済みだ。対象は、「新宿駅直近地区」と呼ばれる10.1haの区域(図6)。この区域内では、JR線路上空をまたぎ、駅東西を結ぶデッキを整備したり、東西の駅前広場を歩行者優先の空間構成に改めたりする。

(図6)新宿駅直近地区は駅東西にまたがる10.1haの区域。土地区画整理事業によって、JR線路上空をまたぎ、駅東西を結ぶデッキなど、新たな歩行者動線を整備するほか、東西の広場に滞留空間を確保することで、人中心の広場に再構成する(出典:東京都・新宿区「新宿駅直近地区に係る都市計画案について」2019年9月)
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例えば西口広場では現在、地上と地下を結ぶ「ボイド」と呼ばれる巨大な穴が開けられ、そこにループ状の車路が上り・下りの2本通る。最大の特徴は、この「ボイド」。地下広場に太陽光を取り込み、地下空間の地上化を図る役割を果たす(図7)。

(図7)西口広場の地上部分。現状は、ループ状の車路が広場を占有している。土地区画整理事業によって、車両系機能をスバルビル跡地まで展開させることで歩行者空間を広げる。「ボイド」と呼ばれる穴で地上と地下の一体化を図る発想はいまのまま残す(出典:東京都・新宿区「新宿駅直近地区に係る都市計画案について」2019年9月)
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基盤整備ではこの広場を、人中心の広場に再構成することで、歩行者が滞留できる空間が不足しているという課題に応える。ループ状の車路は撤去する一方、地上と地下を「ボイド」でつなげ、地下空間の地上化を図るという、当初の発想は生かす(図8)。

(図8)西口広場の地下部分。ループ状の車路を撤去し、歩行者空間を広げる。車道とのつなぎ目には、次世代モビリティーへの対応を意識した交通結節機能を持たせる予定。東京都都市整備局開発計画推進担当課長の山本健一氏は「ラストワンマイルの移動需要には応える必要がある。最新のモビリティーに柔軟に対応していきたい」と話す(出典:東京都・新宿区「新宿駅直近地区に係る都市計画案について」2019年9月)
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東京都都市整備局開発企画課課長代理の斧林義嗣氏は「土地区画整理事業の施行主体は目下、都施行の方向で調整中」と話す。スケジュールは未定ながら、都が2019年12月にまとめた「『未来の東京』戦略ビジョン」では、2035年度の概成をうたう。

鉄道事業者らの更新計画に反映させる方針としては、例えば「交流・連携・挑戦」を誘導する空間や機能の導入が挙げられる。

「交流・連携・挑戦」は、都と区が2017年6月にまとめた「新宿の新たなまちづくり」で打ち出していたもの。2040年代を見すえた新宿駅周辺地域の将来像を、「『交流・連携・挑戦』が生まれる人中心のまち」と位置付けている。

これらを誘導する空間・機能として導入するものの象徴は、「新宿セントラルプラザ」と名付けられた広場空間である(図9)。

(図9)JR線路上空には「新宿セントラルプラザ」と名付けられた広場空間、駅東西を結ぶデッキと地下との間に整備される歩行者動線上には「新宿テラス」と名付けられた広場空間の確保を求める。それぞれ、公益的な活動交流空間である「新宿ラボ」と呼ばれる場、鉄道沿線の多様な情報やサービスなどを提供する「地域連携ラボ」と呼ばれる場を創出する方針だ(出典:東京都・新宿区「新宿の拠点再整備方針」2018年3月)
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この広場空間は、駅東西を結ぶデッキと同様、JR線路上空をまたぐものだが、デッキとは別のもの。土地区画整理事業で整備する予定のデッキと異なり、どのようなものをだれがいつ整備するか、という点は未定。東京都都市整備局開発計画推進担当課長の山本健一氏は「鉄道事業者と『再整備方針』の実現に取り組む」とだけ話す。

冒頭に紹介した小田急電鉄と東京地下鉄の再開発も、上位計画と位置付ける「新宿の拠点再整備方針」を踏まえて計画されている。

その具体的な表れが、「国際競争力強化に資する都市機能の導入」という整備方針の一つである。小田急電鉄と東京地下鉄ではこの方針に基づき、業務フロアと商業フロアの間にビジネス創発機能を配置する計画だ。「交流・連携・挑戦」を生み出す施設でもある。

こうした機能を導入する背景には、消費者が数多く訪れる商業エリアである新宿がそのニーズをキャッチアップしやすい立地環境にありながら、来街者や企業間の交流の場が少なく、その強みを生かし切れていないという課題意識がある。

業務と商業でアフターコロナを意識

東京圏国家戦略特別区域会議の東京都都市再生分科会に提出された「都市再生特別地区(新宿駅西口地区)都市計画(素案)の概要」によれば、施設の想定規模は約5000m2。オフィス、セッション、体験、イベントの各スペースが想定されている。小田急グループと東京メトログループが専門家の助言を受けながら運営にあたる想定だ。

このビジネス創発機能を業務フロアと商業フロアの間に置くのは、企業側と来街者側がともに利用しやすい場所だから。来街者をさらに誘う狙いで、同じ建物内のほかの機能や隣の街区とも連携し、この施設への動線を多方面から誘導する。

業務フロアと商業フロアについては、どのような計画を描いているのか。

小田急電鉄CSR・広報部では、業務フロアのリーシング戦略について、こう回答する。「アフターコロナでテレワークなど働き方改革が一層進むとしても、コラボレーションやイノベーションを生み出すためのリアルな場の重要性も同様に存在し続け、利便性の高い駅直結のオフィスの需要や価値は依然として高いと考えている。多様な働き方に対応したオフィスの実現に向け、リーシング戦略も含め検討を進めていきたい」。

また商業フロアの業態については、こう回答する。「事業形態や提供コンテンツは計画中。アフターコロナを踏まえ、リアルならではの価値を一層追求していきたい。商業、オフィス、ビジネス創発、それぞれの相乗効果を高め、新たな収益機会に結び付けたい」。

新宿駅西口は、戦後の復興を象徴するまちだった。昭和40年前後には、「ボイド」で地上化された地下広場が整備され、駅と一体のビルに小田急・京王という2つの百貨店が相次いで開業した。駅西口の発展を妨げていた東京都水道局の淀橋浄水場の跡地は超高層ビル街区に生まれ変わり、副都心としての下地が整った。

それから半世紀以上。一貫して変わらないのは、駅東口まで含めれば、商業、娯楽、観光、業務といった多様な顔を持つこと。「世界一のターミナル」と言われるほど膨大な数の乗降客が駅周辺を行き交うことである。新宿の今も昔も変わらない財産だ。

新宿グランドターミナルは、「交流・連携・挑戦」「人中心」という考え方で、その不変の財産をもっと生かし、活力をさらに生み出そうとする発想だ。それは、まちと一体化する駅ビルだけにとどまらず、駅周辺にも波及することが期待される。

「駅周辺の民間事業者に、まちの更新を進め、ここで引き続き事業を営んでいこう、と思わせるようなグランドターミナルの整備が求められる。できるだけ早く事業に着手し、鉄道事業者とともに、その実現を果たしたい」。山本氏は意欲を見せる。

「交流、連携、挑戦、人中心」という方向性の前にはいま、新型コロナ感染症という壁が立ちはだかる。2040年代という将来を見すえる中、期せずしてポストコロナのまちづくりを求められることになった新宿。大都市での「交流、連携、挑戦」のあり方や「人中心」の空間づくりに、ぜひ一つの方向性を示してほしい。