「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会」が2020年11月、「Tokyo Sky Corridor ~空中回廊の創造に向けて~」と題する提言書をまとめた。銀座エリアの外周をC字型に囲む自動車専用の高架道路「KK線」を、歩行者中心の空間として再整備することをうたう。戦後復興を象徴する道路インフラをどう活用するのか――。提言書の中身を深掘りする。

東京・銀座エリアには、その外周を取り囲むように地上2階建てのビルが細長い敷地に沿って立ち並ぶ(写真1)。このビルは、西は有楽町・日比谷、北は八重洲・京橋、南は新橋・汐留、と隣接エリアとの間を区切る境界壁のように連なる。

(写真1)数寄屋橋交差点から、「西銀座デパート」として運営される北数寄屋ビルを見る。その屋上は東京高速道路(KK線)として利用されている。銀座外周にはこのような道路一体のビルが、地上を走る道路に分断される形で計14棟立つ(写真:茂木俊輔)
(写真1)数寄屋橋交差点から、「西銀座デパート」として運営される北数寄屋ビルを見る。その屋上は東京高速道路(KK線)として利用されている。銀座外周にはこのような道路一体のビルが、地上を走る道路に分断される形で計14棟立つ(写真:茂木俊輔)
[画像のクリックで拡大表示]

ビルの屋上は全長2㎞余にわたる無料の自動車専用道路である。首都高速道路のネットワークに組み込まれているため、首都高を乗り降りするときや首都高を乗り継ぎするときに利用される(図1)。名称は「東京高速道路」。通称「KK線」という。

(図1)KK線周辺の道路インフラ。北側では首都高速道路日本橋区間地下化事業が進められている。それに伴い、「新たな都心環状ルート」を整備する方向で検討されるようになったことから、KK線既存施設のあり方検討を前に進められるようになった(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書」(2020年11月))
(図1)KK線周辺の道路インフラ。北側では首都高速道路日本橋区間地下化事業が進められている。それに伴い、「新たな都心環状ルート」を整備する方向で検討されるようになったことから、KK線既存施設のあり方検討を前に進められるようになった(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書」(2020年11月))
[画像のクリックで拡大表示]

いわゆる高架下の活用とは異なる。高架下の活用ではなく、ビルと自動車専用道路の一体開発。「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会(以下、既存施設のあり方検討会)」が2020年11月にまとめた提言書は、その自動車専用道路を歩行者中心の空間として再整備することを東京都に提言するものだ。

同じように高架の道路・鉄道を歩行者空間として再整備した例は、国内外に見られる(図2)。提言書は「高架からの眺めは、地上から見る景色にはない、あたかも別世界の中を歩くように街の眺めを楽しむことができる魅力にあふれています」と指摘する。

(図2)高架の道路・鉄道を歩行者空間として再整備した国内外の類似事例を、既存施設の「保全」「全部撤去」「区間撤去」という3つのパターンで整理した(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書資料編」(2020年11月))
(図2)高架の道路・鉄道を歩行者空間として再整備した国内外の類似事例を、既存施設の「保全」「全部撤去」「区間撤去」という3つのパターンで整理した(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書資料編」(2020年11月))
[画像のクリックで拡大表示]

提言書のタイトルは、「Tokyo Sky Corridor(空中回廊)」。そこには、「都心の希少な高架(空中)空間が魅力的な街並みを眺められる交流軸(回廊)として再生され、東京に住まい、東京を訪れる誰もが憩い、安らぐことができる、東京の新たなシンボルになる期待を込めています」と、提言書は冒頭で訴える。

目標年次は、2030~2040年代だ。その背景の一つには、首都高速道路日本橋区間地下化事業がある。この事業で着手から完成までの期間を15~20年と見込んでいることもあって、それとほぼ横並びの目標年次が設定されている。

検討の発端は、日本橋区間地下化に伴い首都高の車両の流れを見直す中でKK線の役割が大きく低下する可能性が生じてきたことにある。一体開発されたビルと自動車専用道路で構成する既存施設のあり方を検討する余地が生まれてきたのである。

検討の経緯を簡単に振り返っておこう。

日本橋区間地下化事業は、国と東京都と首都高速道路の3者が共同で、首都高神田橋ジャンクション(JCT)から江戸橋JCTまで約1.8kmの区間で地下化を図るものだ。2020年4月には、都市計画事業として認可を得ている。

日本橋の地下化と並行して事業化へ

地下化事業の検討過程では、江戸橋JCTの混雑を回避する狙いで、交通量の一部をKK線に接続する八重洲線で負担する計画が浮上した。ところがKK線は構造上、大型車両を通行させられない。KK線を構造強化するか、別線を整備するか、2つの案を並行して検討する方向が示された(図3)。

(図3)首都高江戸橋JCTの混雑回避に向けて八重洲線を活用するとなると、大型車両に対応できないKK線を構造強化するか、京橋JCTとの間を結ぶ別線を整備するか、2つに1つ。大型車両に対応した交通機能の確保策が検討された(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書資料編」(2020年11月))
(図3)首都高江戸橋JCTの混雑回避に向けて八重洲線を活用するとなると、大型車両に対応できないKK線を構造強化するか、京橋JCTとの間を結ぶ別線を整備するか、2つに1つ。大型車両に対応した交通機能の確保策が検討された(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書資料編」(2020年11月))
[画像のクリックで拡大表示]

そこで、国と都と首都高速道路の3者は2018年12月、地元中央区を交えた地下化事業の検討メンバーにKK線の管理・運営会社を加えた検討組織を立ち上げる。この場では、KK線の構造強化はビルの補強工事や道路の拡幅・カーブ部の改良などを伴い、テナントの営業やエリアのにぎわいに支障を与える、という見方が強く出ていた。

既存施設のあり方検討会は2019年10月、その検討途上で組織される。検討組織の場ではその後、別線整備案の具体化に向け、関係機関と調整を進める方針を固める一方、別線の整備後、KK線の役割は大きく低下すると見通し、さらにKK線の出入り口を閉鎖した場合でも、交通処理は一般道で可能と結論付けた。これによって、KK線の既存施設のあり方を幅広く検討できる余地が生まれたのである。

つまり、KK線の既存施設を歩行者中心の空間として再整備するにしても、それが可能になるのは、別線整備後。地下化事業と歩調を合わせることになるのは、こうした事情からだ。地下化事業とは並行して進められることになる。

既存施設のあり方検討会では立ち上げ後、「保全」「区間撤去」「全部撤去」という3つの「形態」と、「歩行者系」「歩行者系+モビリティ」「モビリティ」という3つの「機能」に着目し、それらの9通りの組み合わせを「ネットワーク」「にぎわい・魅力・交流」「環境」「景観」「防災」「コスト」という6つの項目で横並び評価。その結果、活用方策検討の方向性として、KK線の既存施設を「保全」し、「歩行者系」「歩行者系+モビリティ」の用途に転換することを打ち出したのである。

目標に掲げるのは、「東京の新たな魅力を創出するため、KK線上部空間を歩行者中心の公共的空間として再生」すること。その目標達成に向け、3つの目指すべき将来像を定めた。その将来像とは、(1)高架道路の形態を生かした広域的な歩行者系ネットワークの構築、(2)連続する屋外空間を生かした大規模な緑のネットワークの構築、(3)既存ストックを生かした地域の価値や魅力の向上――である。