次世代型モビリティーの導入も想定

歩行者系ネットワークの構築でイメージするのは、まず「公共的空間でのにぎわい・交流」の促進である(図4)。歩行者中心とはいえ、そこには次世代型モビリティーの導入も視野に入れている。これは、どのような想定なのか。

(図4)提言書の中で「目指すべき将来像」の一つとして示された歩行者系ネットワークのイメージ図の一つ。「公共的空間でのにぎわい・交流」を表している(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書」(2020年11月))
(図4)提言書の中で「目指すべき将来像」の一つとして示された歩行者系ネットワークのイメージ図の一つ。「公共的空間でのにぎわい・交流」を表している(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書」(2020年11月))
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既存施設のあり方検討会の事務局を務める都都市整備局土地利用計画課統括課長代理の渡邉一史氏は「次世代型モビリティーが走行可能な空間を確保しておき、今後の技術開発の動向を踏まえて導入を検討していく必要があると考えている」と解説する。モビリティーとして具体の想定はなく、今後の開発動向を見すえる、という構えだ。

提言書資料編では、占有幅約3mの「コモン・マス」型のモビリティーと同約1mの「パーソナル・ソロ」型のモビリティーを想定し、KK線の中で最も幅員の狭い区間でも走行空間を確保できることを確認している(図5)。このイメージ図では、モビリティーの走行空間と歩行者を分離しているものの、資料編では同時に、自動運転技術の導入を図り、それらの共存を図ることも考えられる、と指摘している。

(図5)次世代型モビリティーの走行空間のイメージ図。KK線の中で最も幅員の狭い区間が約12mであることから、モビリティーの種類が「コモン・マス」の場合でも「パーソナル・ソロ」の場合でも、その走行区間を確保できることを確認している(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書資料編」(2020年11月))
(図5)次世代型モビリティーの走行空間のイメージ図。KK線の中で最も幅員の狭い区間が約12mであることから、モビリティーの種類が「コモン・マス」の場合でも「パーソナル・ソロ」の場合でも、その走行区間を確保できることを確認している(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書資料編」(2020年11月))
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緑のネットワーク構築ではまず、「みどりと潤いを感じる憩いの空間」の整備を訴える(図6)。高度成熟都市のシンボルになるグリーンインフラ形成への期待も寄せる。ただ、既存施設の上部空間を利用するだけに、屋上緑化と同じように、積載可能な荷重には一定の制約がある。その範囲内でどのような緑化が可能か、屋上緑化技術の見せ場になる。

(図6)提言書の中で「目指すべき将来像」の一つとして示された緑のネットワークのイメージ図の一つ。「みどりと潤いを感じる憩いの空間」を表している(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書」(2020年11月))
(図6)提言書の中で「目指すべき将来像」の一つとして示された緑のネットワークのイメージ図の一つ。「みどりと潤いを感じる憩いの空間」を表している(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書」(2020年11月))
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図7は、提言書資料編に掲載されたケーススタディー結果である。植栽が豊かになれば、それだけ荷重は増す。資料編によれば、既存施設の上部空間に積載可能な荷重は平均400kg/㎡という。屋上緑化技術を活用しながら、軽量化を図ることが求められる。

(図7)構造物の上部空間に植栽を施そうとする場合、積載可能な荷重の範囲内で緑化しなければならない。いくつかの荷重条件の下で、植栽内容やイメージなどをまとめた(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書資料編」(2020年11月))
(図7)構造物の上部空間に植栽を施そうとする場合、積載可能な荷重の範囲内で緑化しなければならない。いくつかの荷重条件の下で、植栽内容やイメージなどをまとめた(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書資料編」(2020年11月))
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地域の価値や魅力の向上としてまず挙げるのは、「まちを俯瞰して楽しめる視点場の魅力」である(図8)。KK線既存施設の高さは路面上で地上3階程度。超高層のように遠景まで見渡せる眺望の良さは期待できないが、まちのアクティビティーを見下ろす楽しさは見込める。

(図8)提言書の中で「目指すべき将来像」の一つとして示された地域の価値や魅力の向上のイメージ図の一つ。「まちを俯瞰して楽しめる視点場の魅力」を表している(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書」(2020年11月))
(図8)提言書の中で「目指すべき将来像」の一つとして示された地域の価値や魅力の向上のイメージ図の一つ。「まちを俯瞰して楽しめる視点場の魅力」を表している(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書」(2020年11月))
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提言書ではさらに、地域の歴史や魅力を生かす方向性も示している。KK線の走行区間はもともと外堀や河川。銀座エリアでは戦後、戦災のがれき処分と戦災からの復興の一石二鳥を狙って、いくつもの河川が埋め立てられた。KK線の走行区間も、都が埋め立てたもの。提言書資料編ではその歴史を、デザインとして継承する方策や拡張現実(AR)など新しい技術を用いて伝える方策を例示している。

「別世界」の世界観を生み出せるか

KK線は今でこそ首都高に接続しているものの、もともとは民間有志が外堀や河川だった場所に単独の道路として計画したものだ。先ほど述べたように、そこを都が埋め立て、その埋立地をKK線の建設・管理・運営を担う東京高速道路が借り受け、一体開発を進めた。同社では地下階から地上2階までの床を、店舗、事務所、駐車場として賃貸し、収益を得る一方で、屋上を道路運送法上の「一般自動車道」として無償で提供することで公共的な役割を果たしている。いまで言う公民連携の走りである。

提言書では具体化に向けた方策として、そうした民間活力の活用を念頭に置く。同資料編では整備手法の例として、「施設所有者が自ら整備」する手法のほか、「隣接地の開発事業者が整備」する手法を示している(図9)。

(図9)KK線既存施設の上部空間を歩行者中心の空間として再整備する手法の例。KK線そのものが公民連携の下で整備された経緯も踏まえ、再整備にあたって施設所有者や隣接地の開発事業者といった民間の活力を活用する方向が期待されている(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書資料編」(2020年11月))
(図9)KK線既存施設の上部空間を歩行者中心の空間として再整備する手法の例。KK線そのものが公民連携の下で整備された経緯も踏まえ、再整備にあたって施設所有者や隣接地の開発事業者といった民間の活力を活用する方向が期待されている(出典:「東京高速道路(KK線)の既存施設のあり方検討会提言書資料編」(2020年11月))
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施設所有者である東京高速道路は、既存施設のあり方検討会に報告されたヒアリングの中で、「管理運営者所有の道路が、新たなステップを踏み出すことを前向きに捉え、今後も引き続き銀座のまちづくりに貢献したい」と意見を寄せている。今後は具体化に向け、関係者間で検討・調整を深める一方、都では提言を受けた方針づくりを進める予定だ。

具体化に向けた課題の一つと考えられるのは、地上や近隣のビルとの接続を、どの程度、どのように確保するか、という点だろう。

KK線には現在、北から反時計回りに、「新京橋・東銀座」「西銀座」「土橋」「新橋」の4カ所に、計6カ所の出入り口、つまり車路がある。しかしその勾配は、自動車の利用を想定したもの。例えば高齢者にとっては、上り下りはつらい。既存施設のあり方検討会事務局側でも、「何らかの対策が必要」(渡邉氏)と、検討の必要性を指摘する。

既存の車路を用いる以外にも、地上の公共空間との間を、階段、エスカレーター、エレベーターで結ぶことや、近隣のビルと直接つないだり一体化させたりすることが考えられる。地上や近隣ビルとの接続が多ければ、利便性は増すものの、地上の歩行者空間と変わらなくなりかねない、という心配も生じる。

地上とは切り離された歩行者空間という特別感を尊重すべきという意見は、既存施設のあり方検討会でも委員の間から相次いだ。「(ニューヨークの)ハイラインなどでは、上空に周辺とは異なった別世界があることが、魅力になっていると思う」「上に別世界が広がっているという世界観は重要」というものだ。

この「別世界」という特別感を、どう生み出せるか――。それが、魅力的な歩行者空間づくりを考えるうえで重要なカギを握りそうだ。